表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
茂華中学校 夏の合宿編
163/208

91話 合宿練習スタート

バスは合宿所へと向かっていた。学校から目的地の日光までは3時間近くかかる。

三つ編みにしてもらった瑠璃は、手鏡を見ながら満足そうに笑った。

「希良凛ちゃん、ありがとね」

「いえ。先輩も忙しくて朝時間がないのは分かってましたから」

すると希良凛は少し耳を赤くする。

「ホントにセルビアは気を付けてください」

「え、セルビア君?どうして?」

「いや、あの人は粘着質な所があるので」

「別に私は大丈夫だよ」

瑠璃はそう言って嬉しそうに笑った。

「瑠璃、そっちの方が好きだから」 


瑠璃の今までの人生は殆どが孤独だった。

群馬県の保育園だったが友達は数人、低身長を理由に喧嘩も絶えなかった。小学校時代は和太鼓クラブ天龍にいた時は殆ど孤独だった。何人かは面倒を見てくれたが迷惑を掛けてしまった。小学校高学年になる頃には少しずつ話せてきて友達もできたが、茂華町に引っ越してきてもまた孤独だった。

そんな環境を変えてくれたのが優愛、そして吹奏楽部なのだ。

だから恋されることは別に良い。


「…なら良いですけれど」

希良凛は小さくため息を吐いた。よほど心配してくれてるのだろう。

「まぁ、なんかヤバかったら相談するよ」

「してください!」

なんだか希良凛は怒っているようだ。

「先輩にこれ以上、彼氏を取られる訳にはいかないですから」

「…あ、そゆこと?」

どうやら希良凛は瑠璃が彼氏に取られることを恐れているらしい。可愛い後輩だな、と思いながら瑠璃は口元を締めて目だけで笑った。

「はぁー、私も彼氏ほしい」

そんなことを言う後輩を見ながら。


瑠璃たちが盛り上がる傍らで、部長に不穏な相談を持ち掛ける3年生がいた。

「ぶちょー、相談ちゃんがあるんだけど」

「どうした?」

「人間関係って補修しとくべきかな?」

「しとくべきだな」

雄成はそう言って目を細める。

『部内がギスギスしてるのは部長が下手だからだよ』

脳裏に瑠璃の姿が蘇る。彼女を通して人間関係の重要さを学んだばかりだった。そんな雄成に彼の言葉は無視できない。

すると3年生は語りだした。

「土谷さん、いるじゃん?チューバの」

「土谷さんか。どうしたんだ?」

土谷(つちや)菫玲(すみれ)。チューバパートの1年生だ。

「その子と、2年の霞江(かすみえ)遥翔(はると)くん」

「…ユーフォニアムだな。てか、そのふたりって…」

実は選考会直後から、ふたりの仲が急激に悪化したという噂が流れたのだ。

「うん、ふたりが喧嘩して別れたんよ」

雄成はその言葉に頭を押さえた。

「はぁあー、だからリア充は嫌いなんだよ」

「古叢井のこと好きなやつが何言ってるんだ…イテテテ!」

雄成は踵で3年生の足を踏む。

「瑠璃のことは別に好きな人としては見ていない。それより!」

雄成はその3年生を睨んだ。

「もう勝手な噂を流すなよ?芽吹」

その3年生の河野(かわの)芽吹(めぶき)は「はーい」と頷いた。

(はぁ、本当に分かっているのか?)

雄成は彼のことが心底心配だった。

彼は無類の噂好きだ。吹奏楽部内の情報通でもある。


それからしばらくすると、合宿所へと到着した。

「ありがとうございました!」

『ありがとうございました!』

バスが行き、トラックの中にある楽器をホールへと下ろす。ここはよく日光学園吹奏楽部がホール練習に訪れるらしい。


ここからは顧問の笠松明菜が指示をする。

「はい、11時からパート練習にします!ホール近くに会議室などがあります。そこで各パートごとに練習して下さい。それでは解散!」

『はい!!』 


瑠璃は希良凛と秀麟を集めて、打楽器の陣形を作り出す。

「ティンパニはこれでOKだね」

瑠璃が満足そうに言う。というのも瑠璃が主に使うのでやはり準備(セッティング)は大切なのだ。

「瑠璃先輩、ドラムはどうしますか?はやく練習したいですー!」

「え、今日は練習しなくてもいいって笠松先生が言ってたから、今は大丈夫だよー!」

瑠璃が声を上げると、希良凛は不満そうに頬を膨らませる。それがかつての自分と重なる。

仕方ないので今のうちに組み立てて、こっそり練習することにした。笠松に見つかったらきっと怒られるが、

「ドラムもう組み立ててるの!?早いねぇ」

副顧問の中北(なかきた)(かえで)の前なら、全く問題は無いだろう。

「先生、ドラムは他の楽器の邪魔にならない所に置きますねー!」

希良凛が中北に言うと彼女は笑顔で頷いた。

彼女はとても優しいので、並大抵のことなら何かを咎めたりはしない。

瑠璃と希良凛は当然それを熟知している。

それに瑠璃もドラムは不安ばかりだった…。


そうして打楽器パートも練習が始まった。瑠璃は中北に付きっきりで指導されながら基礎打ちを始めた。秀麟はビブラフォンで全音階を打ち込む。希良凛はスネアドラムのロール練習を始めた。

「ここは少し強調するから、4小節前からやってみようか?」

「はい」

瑠璃は細かい連打から弾けるようにティンパニを叩いた。風船が破裂するかの如く音が弾ける。

「うん、そうそう。ここは少し弱めにするけど、途中から音量を上げるの」

「はい!」

瑠璃は言われたことを意識しながらマレットを振る。手首の脱力が重要と優愛からよく言われてきた。

和太鼓とは違う。手首を使った精密な動きが演奏の要となる。そんなことを考えていると、軽く2時を回っていた。


3時の合奏までの1時間、昼食休憩になった。

「…さっちゃん、トマト食べる?」

「え、瑠璃先輩いいんですか?」

「私、トマト苦手なんだよね」

「やったー♪」

希良凛はトマトが大好きなので、ぱくりと口の中へ放り込んだ。酸味が口いっぱいに広がった。

「ん、これ酸っぱい」

「希良凛先輩、僕のトマトも…」

「トマト嫌い多すぎません?」

希良凛が苦笑しながら秀麟のトマトを口にした。

「…確かに」

瑠璃もトマトが大の苦手だ。小さい頃に喉に詰まりかけてからあまり食べなくなった。ちなみにトマト以上に苦手な食べ物が納豆だ。


「お昼、お弁当ですけれど夕飯はどうなるんでしょう?」

希良凛が訊ねると瑠璃は「カレーとか?」と考え込む。やはりカレーは夕飯の定番だろう。

「…それより、私はちょっと食べ終わったらダンスの練習してくるね」

「え、ダンスですか?」

どうしてダンスの練習をするのか?と秀麟は首を傾げる。

「ポプ吹コンクールで踊るからだよ」

そんな彼に瑠璃はそう答えた。

「あ、そうでしたね!お盆も練習したんですか?」

「うん。結構練習したよ」

休憩時間はスマホで遊ぶ部員もいるが、瑠璃は空きスペースでひとりダンスの練習をしていた。


「…ふぅ」

スマホから流れる音楽を止めた瑠璃は、ポケットに入れたハンカチで汗を拭う。汗ばんでいた先ほどの感覚より心地よい。

「…瑠璃」

その時、凪咲が空きスペースの前にいた。音もなく声を掛けられて初めて気付いた。

「どうしたの?」

「もしかしてダンス練習?」

「うん。そうだよ」

すると凪咲は「暑くない?」と心配の言葉を掛ける。大丈夫だよ、と瑠璃は答えると白いジャージの胸元へ手を掛ける。するとひんやりとした空気が胸に触れた。

「暑いじゃん」

凪咲はそう笑って瑠璃へ手を差し出した。

「…少し安も」

「うん」

まだ2回しか通していなかったが、十分だと感じた瑠璃は時間まで凪咲と他愛もない雑談をした。

ありがとうございました!

良ければ、

リアクション、ポイント、ブックマーク、感想

お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ