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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
ふたりの主人公 お盆編
155/208

84話 プールでの再会

ゆらゆらと揺れる水面に大きな波紋が広がる。それと同時にバシャッ!と水が弾ける音がした。

「きゃー、冷たぁい!」

瑠璃はそう言って浮き輪につかまる。

「…凪咲、ここ来てよかったね!」

「そうだね、瑠璃。そういえば鈴衛さんは?」

「え、美心乃ちゃんといるんじゃないの?」

「…もしかしたら、流れるプールにいるのかも」

凪咲はそう言って人の多い所を見る。

「あ、やっぱり」

鈴衛音織は久城美心乃と水の流れに流されていた。

「瑠璃も行く?」

「浮き輪ありなら行く!」

「じゃあ行こ」

身長149cmの彼女にとって浮き輪は必須だ。その上彼女は泳げない。本来ならプールに行くことは億劫な彼女だが、凪咲たちと遊べるならと休日1日目に大内市の市民プールに遊びに来たのだ。


ばっしゃん!

瑠璃は人の少ない所へ飛び込むと、凪咲から浮き輪を受け取る。

「凪咲、泳げるんだっけ?」

「泳げるよ。小学校で水泳やってたから」

「へー」

凪咲も流れるプールへ入る。波は前へ前へと止まることなく進む。

「怖いなぁ」

「浮き輪無ければ溺れないから大丈夫だよ」

「そう?」

「心配するな」

そう凪咲は言うと瑠璃の手を掴んだ。そして前へ進み出す。

「…わぁ、片手取られるとバランスがぁ〜」

「あ、ごめん」

瑠璃の浮き輪操縦は不安定なものになっていた。

「あ、できた♪」

しかし流石浮き輪なのか、浮力を維持したまま前へ進みだした。

「そうだ、凪咲」

「ん?」

「どっちが先にナンパされるか勝負しない?」

突然そんなことを言う彼女に凪咲はため息を吐いた。

「そんな事しないよ」

「へへ」

可愛気に笑う瑠璃は既にナンパされてそう、と思った。

「てか、それよりも鈴衛さんから浮き輪を奪還しないと」

「浮き輪奪還作戦…」

瑠璃が張り切る前に凪咲は「あっ」と低い声を出す。その声は低くてひんやりとしていた。

「鈴衛さんったら」

音織はやはり凪咲の浮き輪を使って流れに流されていた。

「…鈴衛さーん」

凪咲が音織の所へ向かったことにより、瑠璃は1人になってしまった。


どうしようか、と思ったその時。

「あら、瑠璃じゃない」

高貴な女性のような口調で話しかける者がいた。

「あ、紅愛お姉様!久し振り」

そこにいたのは、瑠璃と同じ小学校だった月館(つきだて)紅愛(くれあ)だった。ちなみに紅愛は瑠璃に『お姉様』呼びを強要したので、瑠璃はその流れでお姉様と呼んでいる。紅愛は少しばかり変わっていた。

「…アナタ、市営コンクールにいたわね。正直ビビったわ」

「え、何で知ってるの?」

「だって私も吹部だもん。サックスやってる」

「へぇー」

紅愛はピアノが得意だ。確かに吹奏楽部にいてもおかしくはない。

突然の再会に瑠璃は嬉しくなった。

「…ティンパニやってたね。カッコよかった」

「えへへ」

紅愛はまるで姉のように瑠璃の頭を撫でる。小学校時代もたまに撫でてくれた。まるで紅愛は優愛みたいだな、と瑠璃は思った。

「瑠璃ひとり?」

「ううん。友達と来てるんだぁ」

「友達?瑠璃にもそんな友達ができたのね」

紅愛は嬉しそうだった。瑠璃より少しだけ高い背丈。それがより姉らしさを強調する。

「…良かった」

「ううん。紅愛、ありがとう」

瑠璃はそうお礼を言った。

「えっ?どうして?」

「…紅愛は覚えてる?卒業式のときに…」


『お姉様、私ね引っ越すんだ』

『え、どこに?』

茂華町(しげはなちょう)だよ』

その言葉に紅愛は驚いていた。その時、少し冷たい風が吹く。その風にさらされ少しだけ寂しくなる。

『瑠璃が心配だよ』

『えっ?』

『…瑠璃、友達以上に大切にしたい人ができたら、家族のように呼ぶんだよ』

『どういうこと?』

教訓のように言う彼女の意味がこの時の瑠璃には分からなかった。

『例えば、女の子の先輩だったらお姉ちゃんとか』

『…紅愛お姉様みたいに?』

『そう。でもそれは瑠璃から誘うのよ』

『やってみるよ』

瑠璃は何でも信じ込んでしまうような子供だ。だから本当に実践したのだ。


…それが優愛だった。

『優愛お姉ちゃん』という呼び方は、優愛との絆をより深めた。事実、優愛との関係が崩れたことは一度たりともなかった。



そんなことを話すと、紅愛は驚いたように手を打つ。

「そうだったわね!瑠璃は記憶力いいよね」

「へへ、よく言われるよぉ」

瑠璃は本当に嬉しそうだった。本当に可愛いなぁ、と紅愛は思った。本当にこの子の姉になりたい、と思ったその時、

「そのお姉様って誰?もしかして榊澤先輩?」

凪咲が音織を連れて話しかけて来た。

「あ、凪咲ぁ!この子ね、私と小学校が一緒だった月館(つきだて)紅愛(くれあ)ちゃん!」

「初めまして。よろしくお願いします」

紅愛の紅い瞳が艷やかに光る。綺麗な顔をしているな、と凪咲は少し気後れしてしまう。

「…よろしくね。えっと中学校は?」

「大内東中学校だよ」

「ここから近いね」

「ですね」

何だかカリスマ性がありそう、と凪咲はなぜか思ってしまった。

「そうだ。向こうのプールでバレーしない?」

そんな彼女はビーチバレーボールを見せる。

「え、紅愛お姉様と!?私行きたい!」

「い、いいよ」

「ふふ、これぞ夏の風流」

ちなみに音織の口調が変わっていることは、今に始まったことではない。


「やっ!」

「わぁあ!」

紅愛はバレーが上手かった。瑠璃は思い切りボールを顔面にぶつける。

「わっ!瑠璃ぃ」

凪咲がカバーして打ち返すが、それも打ち返される。まともに戦えているのは音織だけだった。

「…我は正確を好む。行け」

「ホントに正確!」

足元も不安定なのに正確に紅愛を捉える。しかし彼女は普通に返した。


結果、茂華中学校3人組は無ずすべなく負けた。

「私、ひとりで勝っちゃった!」

紅愛はそう言って喜んだ。

「そっか。紅愛ちゃん、バレークラブにいたもんね」

瑠璃が思い出したように言うと、ズコーと音織が水面に顔を突っ込む。

「まぁね。中学入ってからはサックス一筋だったけど」

「…そうなんだ」

凪咲はそれを聞いて少し驚いた。どこかで見た顔だとは思っていたが、まさか部活関連で会っていたとは。

「茂華、9月の東関東大会出るんでしょ?」

紅愛が訊ねると瑠璃は「うん」と頷いた。

「頑張りなさいよ」

その言葉に3人はつられるように頷いた。



プールの出入り口を出ると凪咲が口を開く。

「良い人だったね」

「ほんと」

すると瑠璃は嬉しそうに笑った。

「まぁね」

瑠璃と紅愛は本当に仲が良いんだな、と思った。

「てか、瑠璃よお土産頼む」

すると音織がそう言った。

「ああー、福島かぁ。うん、赤ベコクッキー買ってくるよ」

「ク、クッキー?」

「うん。チョコレートだと溶けちゃうから」

そんな彼女に凪咲が小さく言った。

「優しいな」



しかし旅行当日。

「えっ、優月先輩?」

「る、瑠璃ちゃん?どうして?」

優月と瑠璃は偶然か必然か、旅先で再会してしまう。

ありがとうございました!

良ければ、

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【次回】 優月視点! 箏馬と騒動に巻き込まれる

     そして明かされる『ドラムを始めたワケ』

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