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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
心が激動!? 鳳月ゆなの過去編
154/208

83話 過去完結

彼氏にも裏切られてどう生きていけば良いのだろう?


咲慧は全く話してくれなくなった。大して部活にも参加しなくなったから当然か。学校へ来ても元彼氏の顔を見て気分を悪くする事が多くて保健室にいることの方が多かった。

『…もう面倒くさいなぁ』

ゆなは保健室のベッドでひとり考えていた。

どうすればもうこれ以上、自分が極力傷付かずに済むのだろうか?


その時、小学校での親友だった桜坂という男子の言葉が頭に思い浮かんだ。

確か男子たちに揶揄(からか)われていた時。

『そうそう。面倒くさかったら放棄だよ』

『放棄?』

『ま、まぁ、何でも面倒臭いことは捨てろ!ってことさ』

そう彼が言ってくれたのだ。どういう訳かずっと忘れることなく覚えていた。

『…面倒くさいことは捨てる…やらない』

ゆなは長い指を天井へかざす。タコとキズの跡がうっすらと残っていた。もうすぐ消えるだろう。

『…やりたくないことはやらない』

その時、玖衣華との記憶までもがフラッシュバックする。

『ねぇ、なんでゆなって呼び捨てなの?』

『えっ、そっちの方が呼びやすいから』

彼女はそう言っていた。嘘もつかず効率的な彼女は楽な生き方だっただろう。玖衣華が羨ましくなった。 

『そうやって生きたら楽だよな』


それから、ゆなは面倒事は殆ど放棄するようになった。まるで桜坂や玖衣華の言うことを守るかのように。

『…もー、ゆなちゃん!せめて簡単なやつは運ぼうよー』

『菅菜ー、面倒くさいよー』

『本当に仕方が無いなぁ』

菅菜は優しいからそう簡単に愛想を尽かさないことも分かっていた。

『私が引退したらどうするの?』

『そしたら、咲慧に任せるから』

『そう?あと他の先輩と先生には呼び捨てしないでね』

『どうして?』

『上下関係が守れなくなると後々苦労するよー』

そう言って咲慧は和太鼓を片付け始めた。ゆなは窓の外を見る。窓には冷気が付いていた。10月だから当然か。


そしてこの性質は3年生になって本格的に出来上がってしまった。元々冬馬中学校は県内でもガラが悪いことで有名だったので、先生も手付かずの生徒だって多かった。

だから、ゆなのその性質が問題視されることは無かった。

結果、面倒くさいことは何もせず、正直な人として中学校を卒業した。

ただ心残りだったのは、咲慧とあまり話さなかったことだった。

それからゆなは東藤高校に進んだ。元彼氏たちの進む冬馬高校は嫌だったから。

これが彼女の過去だった…。



ー現在ー

話したゆなはリュックから取り出した缶をあおる。そして椅子の背もたれによりかかる。

「めちゃ長かったわ。これが私の過去」

優月は泣きそうな顔をしていた。咲慧に限っては少し泣いていた。

「まぁ、一から話せば終わってるわね。私の人生。だから私は先輩を呼び捨てするし、ゲームだって楽しいけど何も失わないってワケ」

優月は少し気になったことを訊ねる。

「じゃあ、どうして吹部に入ったの?」

そう訊ねると、ゆなの表情が苦くなる。

「それは…インスタントバンド部を立てようかと思ったのに…吹奏楽部が殆どの楽器を使っていたから。どうしてもドラムをやりたかったから入ったってだけ」

吐き捨てるように言った彼女は井土を見つめる。

「でも、びっくりしたわ。まさかドラムとかを中心にしてたなんてって。優秀なギタリストもいるし」

ゆなは井土のことを認めているようだ。

「ま、最近は吹部って言えるか怪しいけど」

「どうあっても、管楽器とパーカッションがあれば吹奏楽部だよ」

優月がそう言うとゆなは小さく笑った。そうだな、と言わんばかりに。


「じゃあ、帰るわ」

優月はそう言ってリュックを背にする。

「咲慧ちゃん、またね」

「ばいば〜い」

咲慧は笑顔で送ってくれた。優月は最後、音楽室のドアの前で止まる。まだ差し入れを食べている部員がいる。それに向かって挨拶する。

「さようなら!」

すると井土が「さよ〜なら〜」と独特な声で返してくれた。茉莉沙やむつみたちも「またね」と返してくれた。明日から夏季休暇だから嬉しいのか少し熱をはらんでいた。

ちなみに茉莉沙はトロンボーンを吹いている所だった。偉いな、と階段を降りながら思った。

夏休みはまだ本番がある。ポプ吹コンクール。まるで市営コンクールのように、ポップスのみ、評価対象は小中高楽団全て混合だ。

そこでまた金賞を取るのが目標かは分からない。


優月はそこで演奏する楽譜を想像した。

果たしてまた金賞を取ることができるのか?それとも特別賞か何かを目標にするのか?

今から期待で胸が膨らんだ。


夏季休暇は旅行に行くらしい。場所は福島だったか。愛宕岩市に母の親戚がいる。その方に母が会いに行くついでに旅行も兼ねているのだ。

それに夏の東北は現地に比べれば、涼しいので少し楽しみだ。

そんな浮かれたことを考えていると、階段を下り終えていた。そろそろ駐車場に着く。

下駄箱から靴を放り、その靴を履くと外へ出た。少しひんやりとした空気が再び襲う。真っ黒な空にいくつかの星が瞬く。

同じ空を、優愛や合宿にいる瑠璃も見ているのだろうか?

「…楽しかったな」

自慢気にそう言いながら優月は、無限に広がる夏の夜空を見上げた。


しかしこの後、ゆなを巻き込んだ最悪の出来事があるなど知る由もなかった…。

ありがとうございました!

良ければ、

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【次回】 瑠璃プールに行く あと1人の3年生部員

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