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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
心が激動!? 鳳月ゆなの過去編
153/209

82話 誰も信じたくない

今度は愛していたはずの彼氏に裏切られた。

『…お前顔は良いけど性格悪すぎな。お前は本命じゃないんだよ』

そんな下卑たことを言うのは自分が愛していたはずの男の子、高久(たかく)雪哉(ゆきや)だった。

廃れた兎小屋の方から、彼の親衛隊らしき人間がぞろぞろと集まる。ひとり近寄り難い雰囲気を持つ女がいた。時々話している所を見たことがあるがあれが奴の本命か。

そう思うとゆなの頭はおかしくなった。

『…さて、お前は少し』

『待て!私から殴らせろ。仮染めだとしても雪哉と付き合ってたことさえ許せない』

『おう!やれやれ』

その言葉でゆなは腕の中の全ての筋肉を震わせる。それは紛れも無い殺意から来るものだった。

『もういいや、お前ら殺して私も死ぬ』

もうこんな汚い世界にいたくない、ゆなはその拳を真っ先に本命らしき女の顔面へぶつける。

『殴る?私はお前を殺したいわッ!』

殴られた女は頬を真っ赤に腫らし地面へ転がった。それから空かさず取り巻きの男の子へ蹴りを入れる。

『てめぇは裏切られた私の気持ちわかってんのか!?』

その地を這うような低い叫びと共に、男の子は面白いくらいに吹っ飛んだ。恐らく形だけのチンピラだろ、とゆなは苦い唾を呑み込んだ。

『おい、クソ吹部。お前は絶対に殺す』

ゆなは真っ黒な瞳に果てなき闇を乗せる。

『ゆ、許してくだ…さい…』

雪哉も己の立場を思い知ったのだろう。

今まで彼女が、親衛隊に近寄りさえしなかったのは、怖かったからでは無い。ただ面倒くさかっただけだと。

『…最後まで信じてたのに。どうして?私の過去を知っといてどうして酷いことが言えるの?お前は上っ面だけのクソ男だもんなァ?』

ゆなはまるでヤンキーのようだった。しかし彼から見れば鬼に等しいだろう。

『…覚悟しろ。お前だけは!』

ゆなは抵抗しようとする雪哉の鳩尾を思い切り殴る。すると威力が大きかったのか、雪哉は漫画のように吹っ飛び転がった。

『…なに?お前、まだ生きてんの?クソ男』

もう裏切ったこの男を殺すことしかできない。そう思っていたその時!


『ゆなっ子!!』

咲慧が突然、ゆなを抱きとめたのだ。

『どいて。コイツ殺して私も死ぬから』

『だーーーめぇーー!!』

咲慧は半ば半鳴き声だった。それが恐ろしくて女と取り巻きは一斉に逃げ去った。

しかし雪哉は怖くて足が動かなかった。恐らく奴は自分のしたことの重大さを今知った事だろう。

『こいつは、私がボコボコにするから、もうやめて!』

『何で咲慧(おまえ)が殴るんだよ!?』

『だから辞めて!』

その時、ゆなは突然どこかへ走って行ってしまった。


『おい、くそ』

その時、咲慧は雪哉の鳩尾を蹴る。一応手加減はしたつもりなのだが、彼は蹴られた所を押さえうずくまった。

『…ゆなっ子の痛みはこんなものじゃない』

そう吐き捨て、暴走したゆなを追うために学校を抜けた。


次に見つけた時はゆなは橋の上にいた。その様子から明らかに自殺する気だと気付いた。

『ゆなっ子!』

するとゆなはこちらを静かに見る。

『止めないで。もう嫌なんだ』

そう言って橋の下をみる。川の水は少量、岩がむき出しな部分もあった。打ち所が悪ければ岩に当たって即死だろう。

『ゆなっ子、思いとどまって!』

咲慧はゆなの自殺を止めようと必死に説得をする。しかし彼女は聞く耳を持てなかった。

『…うるさい。お前は何なの?アイツらの事を知ってたの?』

ゆなは率直に質問を投げつける。

『…もしかしたら…って心配はしてたの』

『じゃあ、何で警告の1つも言わなかったの!?』

ゆなの悲痛な声が咲慧を締め付ける。聞いているこちらまで苦しくなる。本当に苦しいのはゆななのに。

『…あんな奴が浮気してた上に、私を弄んでたって気づいていれば、こうならずに別れてたのに…』

そう言って彼女はうずくまる。そして静かに泣き出した。  

『…何で…優しくしてた相手が…あんな…奴なんだよ?』

静かに声を絞り出す。咲慧は何も言えなかった。

雪哉という男の悪評は前から聞いていた。札付きの悪といたことも信憑性を増幅させていた。なのにゆなには言えなかった。あんなに喜んでいたから。最後まであのゆなを支える人間を信じたかったから。

ゆなも、雪哉も、最後まで信じていたのに。


『…はぁ、死にたかった。しばらく話し掛けないで』

ゆなはそう吐き捨て、家へと帰って行った。

駄目だ、咲慧はそう思った。裏切られた直後だ。付いていけば一生絶交を言い渡される可能性がある。それが怖くて咲慧は、ゆなを放っておくことにした。


ゆなはその日だけは何もできなかった。

苦しくて。辛くて。忘れたくて。

『…どうして、私が大切にしたものは全部、目の前で壊されるんだろう』

それは今までもそうだ。小学校の親友だった桜坂大吾。彼も苛めっ子の言う通りに動いてゆなを裏切った。せっかく妹になってくれた玖衣華も、目の前で通り魔に殺されてしまった。玖衣華だけは命を懸けて守るはずだったのに。逆に玖衣華に守られてしまった。

『私…これから…どうやって生きれば良いんだろう』

ゆなはもう辛くて仕方がなかった。

それから、ゆなは再び精神に異常を来し不登校生となってしまった。


彼氏にも裏切られてどう生きていけば良いのだろう?

         【続く】

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