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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
心が激動!? 鳳月ゆなの過去編
152/208

81話 2度目の裏切り

『…部活かぁ』

当初、ゆなは病院への通院回数が多かった上、ドラム教室にも通っている。だから普通の部活には入ろうと思わなかった。

『吹奏楽部とか…本当に無理…』

音楽室ではガヤガヤと楽器を体験する1年生がいた。フルートの掠れた音やドラムの抜けた適当なリズム。

玖衣華のドラム演奏しか聴いていなかったからだろう。どの演奏も下手に聴こえてしまう。

『…それで、何でアンタは憑いてくんのよ?』

ゆなは機嫌悪そうに後ろを振り返った。

『…咲慧(さえ)

ただ咲慧はゆなにずっと付きまとっていた。

『いや、き、気の所為だよ』

『昼休み誘われたけど、私は途中で教室があるから一緒に行けないって』

『そんな!じゃあせめて帰るまで…』

すると、ゆなは音楽室へと逃げるように入って行った。

そんな彼女を見て、咲慧は小さくため息を吐いた。追おうか迷ったが、怒られそうだったので仕方なく諦めた。


ゆなは音楽室を通り抜け、楽器室へ転がり込む。

『ふむふむ、色んな楽器があるのな』

ゆなに気付いたひとりの部員が話しかけて来た。

『えっと、1年生?』

『え、あんた誰?』

ゆなはビックリして口から言葉を吐き出す。

『わ、私は吹奏楽部員で、フルートの…』

自己紹介を聞き終える直前、ゆなは『ある楽器』が目に飛び込んだ。

(…吹奏楽部)

それは数台の使い古された和太鼓だった。欅色の大太鼓や締太鼓、平太鼓など本格的か演奏ができそうだ。

(…和太鼓)

ゆなは、ふたつの単語を足し算する。

(…和太鼓部!!)

その結果がこれだった。

(…私はドラム教室で部活にあんまり行けない。だけど自作の部活なら好きに管理できる。それにスポーツをしながらドラムは面倒くさい…)

なら!と頭の中で方程式ができ上がる。

(ドラム同様、叩く和太鼓なら…面倒くさいも消化できるんじゃ)

そう。彼女は自身に手間が掛からない方法と、自分の為だけの部活を作ろうとしたのだ。その結果がドラムと同様叩く『和太鼓部』だった。


『…先輩、あの和太鼓貸してくれませんか?ざっと数えて10台はあるんで、必要ないやつは』

突然の無茶苦茶発言にフルートの先輩はドン引きでいた。

『私、新しい部活を作ります!』


それから、彼女はドラムを習いながらも、和太鼓部設立の為に放課後は奔走した。先生の手助けがありながらも手続きや具体的な活動内容などを。

半ば力尽くだったが、5月には活動が開始できた。小さな空き教室を部室として、ひとりで叩くつもりだった。ドラムのように複数の太鼓を扱えば、文化祭でも披露することができるから。

しかし、その必要は無くなった。


『…ゆなっ子、和太鼓部って入部してもいいの?』

ある女の子がゆなに話しかけたからだ。

『咲慧』

『私も和太鼓部に入りたい』

咲慧がこう言ったことによって。

『えっ?まぁ、私の負担が減るなら良いや』

ゆなは承諾した。彼女にとっては渡りに舟だったからだ。

『本当?私入る部活がないの』

絶対に嘘だと思ったが、ゆなは敢えて突っ込まずに、

『へぇ。別に良いけど』

と笑顔で了承した。

『やったぁ』

ゆなは口角を上げて、そんな彼女を歓迎した。

『よろしくねぇ。咲慧』

その後も部員が入るようにはなった。


『ここ、大太鼓入れたい』

『齋藤先輩はどうですか?』

咲慧と菅菜は協力的だった。顧問も元和太鼓クラブにいた先生を抜擢したので、少数ながらも上手く事を進めた。


そんなゆなに好きな人ができた。

1年生の文化祭の片付けだった。

『…おんも』

『締太鼓を重いって言う人、初めて見た』

菅菜は涼しい声で大太鼓を担いでいた。菅菜とゆなでは働き具合が違った。

その時、誰かが『持つよ』と言った。

『え、助かる』

ゆなはそう言って、その男子に締太鼓を押し付けた。

『…ゆなちゃん、他に重いものでも持つのかなる優しいね』  

『♡』 

ゆなはその人物に大きく面食らった。

その男子は吹奏楽部内一のイケメンの1年生だった。

『高久くん』

『和太鼓、カッコよかった。誰よりも』

高久(たかく)雪哉(ゆきや)

まるで気があるかのように接した態度に、ゆなは少しずつ恋情を抱くようになっていった。

それからも、よく昼休みはふたりで話すようになった。

部活での愚痴や、今夢中なこと、休日の過ごし方など徐々に距離感の近い会話をするが当たり前、というように近づいていった。

『…そっか。妹が』

『うん。それから私、おかしくなったと思う』

『それでも、ゆなは良い人だよ』

『!?』

雪哉は窓枠に乗っかかりながら、こちらを柔らかな瞳で見てくる。

『…どんなゆなでも俺は受け入れる。ゆなは良い人なんだから』

『…あ、ありがと』

ゆなは思わず赤面してしまった。少し恥ずかしかった。



それから半年後の夏祭りで、ゆなと雪哉は付き合うことになった。初めて告白したのはゆなの方だった。

『雪哉、私、雪哉のことが好き』

花火が空を彩る中そう言った。すると雪哉はこちらを見て頬を赤らめる。

『ほ、本当か?』

『…私が精神科行ったって言っても、心配してくれるのは雪哉だけ。それに…どんな私でも受け入れてくれるんでしょ?』

『も…もちろんだ!』

『私と付き合ってくれない?』

『いいよ』

その言葉を耳へ入れた瞬間、ゆなは思わず雪哉へと抱きついた。

その時のゆなは誰よりも幸せな気持ちだった。


告白して良かった、優しくして良かった、生きてて良かった、そう思っていた。



だが、それから数カ月後、雪哉に浮気された。

『…どうして!?』

ゆなが問い詰めると、雪哉はフフッとあくどい笑みを浮かべた。

『…お前、顔は良いんだよな。顔だけは…』

『えっ?』

ゆなは彼の豹変ぶりに耳を疑う。

『それ、どういう…』

ゆなが怒りの問い詰めを行おうとしたが、雪哉の真っ黒な瞳がゆなを突き刺す。

『黙れ』

そのひと言でゆなの足は動かなくなる。

『お前のことが本気で好きになるわけないだろ』

そして、そう言ったのだ。

『…そんな』


告白は全て無に帰ったのだ。それどころか必要ない行為だったのだ。告白は。

また裏切られた。

今度は彼氏に…。

         【続く】

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