80話 ドラムを始めた理由
詩島玖衣華。彼女は小学4年生の時に、海で通り魔からゆなを守って命を落とした…。
あの通り魔も玖衣華と同時に亡くなったらしい。
『私のせいで玖衣華が死んだ…』
葬式のあとも、ゆなはただ泣き続けた。あの笑顔が二度と見られない。それが辛い。
もう一度、玖衣華に会いたい。そう思いながら何度も自殺を試みた。結局、3回ほど止められると、精神科に通わされた。
『…っ…っ…っつ!』
ゆなは学校にあまり行かなくなった。行ったとしても不登校生として、男子が前のようにからかってくる事もなくなった。
それでも…、
『ゆなちゃん、この本、面白いんだよ』
加藤咲慧。彼女だけは話してくれた。彼女には本当のことを話している。それからは心配なのか、それとも自暴自棄になって悪目立ちした自分を止めたいのか、ずっと一緒にいてくれた。
それでも、玖衣華のことを思い出す度、辛くなって学校だろうが家だろうが泣いていた。
だが半年後には感情に整理が付き始めていた。いや泣きすぎて少しずつ、玖衣華との思い出も冷静に思い出せるようになった。
可愛くて面白くて、何より正直な子だったな、と。それからは少しずつ人と話すことができた。
それから病院の帰り道だった。
『ゆな、玖衣華の行ってたドラム教室に通ってみない?』
母からそんな誘いが来たのだ。
『…え』
ゆなは少し困ってしまった。自分はまだ精神科に通っていてまだまだ人と普通に話せるか分かったものでは無いというのに。
『どうして?』
『その教室、生徒さんが少なくて困っているらしいよ』
『へぇ、私の知ったことじゃ無いけど』
実際、その通りだった。
『でも、玖衣華ね言ってたよ。ゆなはドラム凄く上手くなりそうって』
その言葉にゆなはやや面食らったようだ。
『…玖衣華が』
生前の彼女の姿が頭に浮かび上がる。そして最期の言葉。
「ゆなのカッコいい姿、天国で見守ってるよ」
最期にそう言っていた気がする。
『…いいよ。始めても』
ゆなはそれからドラムを始めることにした。
『そう。玖衣華も喜ぶね』
『…!』
ゆなの手が少し熱くなる。玖衣華の手が触れたような気がした。 天国から「ゆな、ありがとう」と言ってくれたような気がして、ゆなは少しだけ泣きそうになった。
彼女がドラムを始めた最初の理由は『天国にいる玖衣華と同じ景色を見たかったから』だった。
それから小学校卒業と同時にドラムを始めた。
『…中学校か』
冬馬小学校から上がった生徒は、殆どの生徒が冬馬中学校へと上がった。少しばかり校内治安が悪いようだが、ゆなはそこまで考えていない。
そしてゆなが和太鼓部を始めた理由が明かされる。
【続く】




