77話 願い
鳳月ゆなの過去編 第2話
鳳月ゆなは、桜坂大吾に裏切られたことを、少女から聞かされた。そのまま帰路についた。
『お母さん、ただいま』
『遅かったじゃない!何してた…』
母は心配でゆなに詰め寄ろうとする。その時だった。
『お母さん、やめて!!』
隣りにいた少女が叫んだ。
痛々しいその声に、母の足が思わず止まる。
『この子はね、友達に嘘つかれてたの!』
少女の容赦ない声に、ゆなの口からは嗚咽が飛び出る。
『…っ!…っつ!』
自分は友達に裏切られた、と言われているようで。
『でもね、いちばん悪いのは、友達の男の子たちなんだよ!体育館前で男の子たちが、友達を殴ってたの見たもん!』
その少女の言葉に、ゆなと母は耳を疑った。
『だから、この子を怒らないで!』
幼い故、話しは一方通行だが、ふたりは言葉の意味を呑み込んだ。
『おね…がい…』
その時、女の子から力が抜ける。そして足から崩れ落ちる。
『あ、おい!』
ゆなが慌てて少女を抱きとめる。その時、破れた服から何かが落ちる。ボロボロになった名札だった。
『…読めない』
ゆなは漢字が読めなかった。だが、その名札には、
[詩島玖衣華]
と書かれていた。
その少女、詩島玖衣華が目を覚ますと、暖房の聞いた温かい布団の中だった。
『あったかい…』
すると、ゆなが彼女へ顔を近づける。
『だ、大丈夫?君、名前は?』
『私?私は詩島玖衣華』
その時だった。
がちゃり!という音と共に、彼女の母が入ってくる。
『玖衣華ちゃんだね。明日……』
母が何かを言おうとした瞬間、
『お願いです!』
玖衣華が布団から全身を乗り出す。
『私を…施設に預けないで下さい…』
『えっ?施設?』
ゆなは首を傾げる。
『お願いします!私、ドラムができます…』
『えっ?ドラム?なにそれ?』
ゆなは一から十まで理解できない。
『何でもします!だから施設だけは…』
玖衣華は施設入りを恐れているようだ。
『…分かった』
すると母が根負けしたかのようにため息を吐いた。そして玖衣華へ顔を近づける。
『一体どうしたの?』
『私は…親に捨てられました』
その言葉に、幼いゆなでさえ、身震いしてしまった。
『私、親の命令でドラム演奏の動画を強要されて、そのせいでお母さんとお父さんが離婚しちゃって、私はお父さんに引き取られたんですけど、もうドラムができないなら用済みだって』
『なるほど』
母は優しい目をして言うが、目の奥は怒りに染まっていることが分かる。
彼女は親の金儲けの道具にされていたのだ。
しかし母の瞳から逃れるように彼女は目を逸らした。
『…お願いです。私、施設に行きたくないんです』
玖衣華の言葉には、強い意志が込められていた。
『お母さん、私からもお願い。この子がいなかったら、私は風邪を引いてた…ゴホッ!』
『あーたはもう引いているでしょう』
そして母は再び玖衣華と向かい合う。
『分かった。明日、手続きをしてくるからね』
『あ、ありがとう。お母さん…』
その通り、詩島玖衣華は鳳月家の一員となったのだ。
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