75話 花火と約束
優月と咲慧が戻ると、他の人は来ていなかった。茉莉沙とむつみ、そしてスマホに釘付けのゆながいた。
「あ、ゆなっ子またゲームしてるー」
「…あ、咲慧やん。いいだろ別に」
ゆなは視線をスマホから咲慧に移す。
「てか、また2人!?ゆゆのガールフレンドか!」
ゆなが呆れ顔で言う。
祭りで2人きり。これはカップルなのでは、とゆなは思ってしまう。
「違うよ!」
咲慧が慌ててそう言った。優月も「違うから」とキッパリ否定する。確かに望んで2人きりにはなったけれども。
すると安本と井土がこちらへ来た。
「おっ、予想通り2人は1番最初に来たんだね」
井土はそう言って感心したように言う。
(茉莉沙部長はまだしも、鳳月さんと井上先輩はずっとゲームしてたのか…)
優月は少し呆れていた。
しばらくすると部員が全員テントへ集まる。
「この方、安本さんです。お好み焼き屋さんの定員さんでアンコールコールしてくれた方です」
すると安本が井土より前へ立つ。
「いやぁ~、いい演奏でした!やっぱ、広一朗くんの学校の演奏は良いですね」
安本という男はこの学校の吹奏楽部を称賛しているようだ。
ここは一味違う吹奏楽部だ。入部してすぐには気づけなかったが、最近になって分かってきた。色んなコンクールや演奏会を見て分かってきた。
パーカッションひとつを取っても違う。本来ならティンパニやバスドラム、ビブラフォンなどを使うのだろう。母校の茂華中学校や御浦の子供楽団とも違う。優月が得手としている楽器と、強豪校の奏者が得手とする楽器はおそらく違うだろう。
そんなことを考えていると、安本は大きなピザケースを2枚も机の上に置いた。中はお好み焼きだった。
「良かったら食べて下さい!」
そして彼がそう言ったのだ。
茉莉沙は少し驚いたように深紅の瞳を震わせながらも、彼の方へぴしっと体を向ける。
「ありがとうございます」
『ありがとうございます!』
部員も口々にお礼を口にする。すると安本は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
井土もお礼を言うと安本は手を横に振った。
すると井土がこちらへ向き直る。
「では、今から食べますか?それとも学校で食べますか?」
「…うーん」
優月は少し悩む素振りをする。咲慧の方を見ると『今は良いかな』という表情をしていた。
結局、音楽室で頂くことにした。なので終了時間までいるのではなく、途中で学校へ帰ることになった。
その時だった。
どん!と空で何かが破裂する。花火が打ち上がったようだ。黄金色の光は闇夜を彩る。光の後残るのは白い白煙だけだった。
「…花火だあ」
「だね」
優月はその後も咲慧たちといた。その近くには美羽愛と志靉がいた。何やら優月の方を見て何か話している。優月はそれに見ないふりをした。
「…優月先輩、お疲れ様です」
すると美羽愛が話しかけてきた。
「お疲れ様です」
美羽愛に呼応するように優月も言葉を返した。
すると彼女は彼へ小声で問いを投げる。彼女は緊張したように震えていた。
「…先輩、加藤先輩のこと好きですか?」
「えっ?」
優月は思わず驚いてしまった。だがすぐに返答を彼女へ返す。
「…と、友達として好きかな」
「はぁー」
すると美羽愛は安心したようにため息をついた。
「…なら、安心しました」
そう言って美羽愛はどこかに行ってしまった。でも彼女の足取りは軽やかそうだった。
(美羽愛ちゃん、やっぱり…)
咲慧の言う通り、本当に優月に気があるのだろうか?
「冷たッ」
その時、咲慧が自分の頬を押さえた。左手にあるかき氷のカップ。今の時間にかき氷か、と優月は少し背筋が冷たくなったような気がした。
断続的に続く花火を見ながら、優月はあることを考えた。
それは想大と瑠璃のことだった。ふたりは別れてからは会っていないらしい。瑠璃は大会や合宿があるから当然なのだが。花火を見る度、何故かふたりが心配になった。
その時、ゆなも花火を見ながら何かを思い出していた。それは男の言葉。
『…どんなゆなでも俺は受け入れる。ゆなは良い人なんだから』
その言葉が、ゆなの記憶を締め付ける。嫌な感覚だ。
「…はぁ」
ゆなはため息を吐き出す。あんな男と一緒にいなければ良かった、と。
そうして楽しんでいると、学校へ戻る時間になった。楽しい時間はあっという間だな、と思いながら楽器を音楽室へ運び出す。
ゆなは面倒くさいと軽いものを運んでいた。咲慧は機材を運びながらそんな彼女をみて仕方なさそうに笑った。
やがて全ての楽器を運び終えると8時過ぎになっていた。解散は9時なのでまだ1時間ほどある。
「じゃあ、3年生からお好み焼き取りに来て〜」
「はーい」
部員全員は差し入れのお好み焼きをもらうと、部員は食べたり、お土産にしようとしていた。
「はい〜、お疲れ様でした!」
その時、井土が入ってきた。
「あれ、お好み焼きはここで食べるんですか?」
その問いに茉莉沙が、
「食べても良いし持ち帰ってもいいっていう事にしました」
と答えた。
「あぁ、なるほど」
そう言って井土はパックの中に入ったお好み焼きを割り箸に乗せる。それを口に入れる。
豚肉の柔らかさとキャベツの香ばしさが口いっぱいに広がった。
「美味いなぁ!」
井土はお好み焼きに舌鼓を打った。
それからも和気あいあいとした雰囲気が続く。
「ほのかちゃん、誕生日おめでとー」
「ほのか先輩、誕生日おめでとうございます!」
「氷空ちゃん、トウモロコシ、ありがとう!」
「ゆなっ子、まだ食べるんだ」
咲慧が驚いたように、お好み焼きを頬張るゆなを見る。横には優月がいた。
「まぁなぁ。てか咲慧はマジでゆゆと付き合ってるんか?」
ゆなは頬を膨らませながら言うと、咲慧は「違うて!」と叫ぶように言った。
「…なぁんだ。あ、ゆゆ」
突然、優月は呼ばれて驚いた。
「何でしょう?」
するとゆながギロリと彼を見た。
「私の過去、知りたいんでしょう?」
「え、まぁ、知りたいかな」
「じゃあ、一から話してあげる」
そう言ってゆなは、食べきった紙皿を指の中で潰す。
「私の過去を」
ゆなは面倒くさそうに過去を話しだした。
その話しは作中を通して聞いておかなければならないものだった。
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