表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
渦巻く鳳月ゆなの過去 東藤町盆踊り大会編
141/208

70話 夏夜に響くメロディー

第1曲目が始まる。Mrs.GreenAppleのStaRtだ。

ゆなの打つフロアタムの音が空気をびりびりと震わせる。それと同時にぱん!と弾けるように管楽器の音が響く。爽やかなメロディーが夏の空いっぱいに響く。

《やーっとこさ幕開けだ!ほら寄ってたかってお手を拝借》

歌詞を頭の中で反芻しながら、むつみと初芽が手を前に出す。ぱんぱん!と手拍子が響く。

しばらくすると、周りの観客も手拍子をしてくれる。ドン!とサビ前で一瞬沈黙が訪れるが、次の瞬間には賑やかなサビのメロディーが響いた。

《ぱっ!ぱっ!ぱっ!晴れた町に…》

管楽器のタンキングに合わせ、優月はスプラッシュシンバルを打つ。外だとよく響く。

爽やかな音楽はあっという間に間奏へ飛ぶ。

『皆さん、間奏でご唱和ください!』

指揮に回っていた井土が言う。すると優月と箏馬、そして楽器から手が空いている茉莉沙が片手を天に挙げる。

『うぉ、お、お、お、おー♪ハイ!』

茉莉沙と優月の声が主なものだった。すると数人の子供と法被を着た大人たちは唱和してくれた。

取り敢えず、空振りでなかったことは安心した。優月は再びパーカッションスティックを構える。

《 I Can You Can We Canって♪》

ここはリズムに合わせて2枚のスプラッシュシンバルを叩く。それからミスは特になく、1曲目は無事に終わった。原曲をスピーカーから僅かに出しているので、ミスがあったとしても気付きにくいのだろうが。


次に優月はドラムを使う。『炎』だ。サックスとフルートの優しいイントロが響く。ゆなの打つグロッケンが規則よく響く。チャイムの役割だ。

トランペットとフルートの音がより大きく響く。ここは各パートソロがある。

優月はスネア、ロータム、フロアタムを一発ずつ打つ。ここは本番前何度も練習した所だ。それからはエイトビートにバスドラを1拍2拍に刻む。井土のプログラムした原曲には、ベースやバイオリンなど、普段は聴かない楽器の音が含まれている。より非日常感が漂う。

サビは最も盛り上がる場面だ。優月はタムタムを正確に打ち込む。すると管楽器の音が後から付いてくるように響く。トランペットの大きな音が響く。主に氷空のものだろう。

2番目に入り、優月はスネアの縁にスティックを押し当てる。バスドラを刻みスティックを押し当てる。より穏やかな曲調が強調される。それからは、初芽のフルートソロ、悠良之介のユーフォニアムソロ、茉莉沙のトロンボーンソロ、むつみのオーボエソロだ。スピーカーからも音は放たれる。そのメロディーは会場いっぱいに響く。

やはり皆が知っている映画の主題歌だからか、訪れた子供は足を止めてこちらを見ていた。

ドドン!ドン!ドドドド…!

井土の手が振られた瞬間、優月はスネアドラムとフロアタムを同時に振る。先程までの間奏の穏やかな寂しいメロディーからは一変、勇敢な音調へと豹変する。それに呼応して楽器も増える。ここまで来れば、あとは基礎打ちを繰り返すようなものだ。もう2曲目が終わってしまうのだ。1カ月はこの曲を練習していたので、大きなミスはなく終えることができた。

箏馬のウインドチャイムが優しく曲の終わりを教えてくれる。楽器が次々へと下ろされる。


すると浴衣に身を包んだむつみがマイクを手に前に出る。

『みなさん、こんにちは!東藤高校吹奏楽部です!今日は東藤町盆踊り大会にお越しいただきありがとうございます!』

むつみはそう言って深く礼をする。

『先程までの曲は、『StaRt』そして『炎』でした。楽しんでいただけたでしょうか?』

さて!むつみの声がスピーカー越しにも響く。

『私たち東藤高校吹奏楽部は、3年生4名、2年生7名、1年生7名の18名で活動しています!人数は少ないですが、流行りのポップスを中心に演奏しています!さて、次の曲の準備が整ったようなので行ってみましょう!』

むつみの真紅の瞳が捉えた先は、ギターを構える井土だった。

『次の曲は、「ミックスナッツ」です!手拍子で楽しんで下さい!』


すると優月がスネアとシンバルを叩く。それと同時にギターの音が弾ける。すると必然的に手拍子が起こった。

ハイハットを一定のリズムで打ちながら周りを見る。段々人も増えてきた。周りの光景に浸る間もなく乱打する。ジャンジャカジャンカ!皮が震え鳴き声のような音が響く。練習に比べれば上出来だ。颯佚がサックスを吹き鳴らす。彼の演奏は強豪でもお墨付きの実力だ。あっという間に会場を白熱させる。複雑なパッセージも捌いていく。この曲は難しいからと集中的に練習した。その成果が演奏に滲み出る。

サビへ続く速いリズム。優月はそれを必死に打つ。速いシャッフルは優月も克服している。あとはテンポがズレないように意識するだけだ。

その時、優月の目にあるものが飛び込む。

(あ、)

突然現れたハイハットの連打。バツ印の上に丸と十字線が書かれている。意識し過ぎて忘れてしまっていた…。

優月は必死に身を捻り、スティックを振る。左足を必死に動かすが、ハイハットはあらぬ場面で跳ねてしまった。

……失敗(ミス)だ。

一瞬、こちらに視線が集まったような気がしたが、ミスを悔やめるほどこの曲は簡単ではない。

一度ミスしてしまった自分に出来ることは、ただ無事に演奏を終えることだけだ。

そう考えながらタムタムを連打する。

そしてサビに入る。優月はシャッフルを続ける。パンッ!とスネアの弾ける音が響く。再びスネアを乱打する。それから、ロータム、ハイタムそしてバスドラをドンッ!と踏みつける。

2番はミスれない。優月は楽譜だけを凝視してドラムを演奏する。自責の念が自分を襲うが、そんなものに構っていられない。

簡略化された楽譜を必死に捌く。そしてここは、颯佚と咲慧のソロだ。そして再びハイハット地帯へ入る。優月は必死にスティックを振りかぶる。意識したその演奏は先程より上手く行った。ここまで行けば、あとは同じ繰り返しだ。

傍ら、茉莉沙のトロンボーンソロが響く。やはりミスは無く、完璧に吹ききっていた。凄いなぁ、と優月は思った。

気付けば曲は終わっていた。拍手の音だけが辺りを包む。少しミスをしてしまったが、定期演奏会までには克服しなければ。

そう思っていると、最後の曲へと突入した。


『最後は、色は匂えど散りぬるを!皆さん手拍子で楽しんで下さい!』

茉莉沙が言う。すると氷空と孔愛がトランペットを吹く。華やかなイントロがベルから飛び出す。その中にむつみのオーボエ。経験と努力が裏打ちされている。

そして優月はマレットをサスペンドシンバルへ振る。神々しい音が辺りへ響き渡る。

その音を掻き消すように、シンバルの音がぱぁん!と弾ける。ハイハットの複雑なリズムを叩き切るゆなは明らかに実力者だ。

クラリネットの音が響く。少し切れ目がありながらも、伸び伸びとした演奏を見せる。優月は再びシンバルをパーカッションスティックで叩く。先程とは違い歯切れのある音から、サビへ続くメロディーが始まる。茉莉沙と美鈴のトロンボーンが主にメインのメロディーは、やがてソロに入る。

《心躍らせるばかり…ばかり…》

そしてサビに入った。勇敢な感情に含まれた優しいメロディーが辺りへ響き渡る。優月は直前の打ち合わせ通りに、管楽器隊の前に立つとスレイベルを構える。

そして間奏に入る。それと同時に優月は天へスレイベルを向け、しゃん!と振る。

小節の切れ目に鳴らすスレイベルは綺麗に響いた。

あっ、と言う間に3サビだ。

音が跳ね上がり、再び勇ましいメロディーが放たれる。茉莉沙のトロンボーンのスライドが跳ねる。彼女のトロンボーンはより一層大きく響いた。優月はスレイベルを観客たちへ向け大きく振る。すると小さな拍手が鳴り響いた。


掃けようとしたその時だった。

『アンコール!アンコール!』

誰かがこちらへ声援を向けてくる。

        【次回へ続く】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ