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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
恋は散り華は咲く 夏休み始動編
137/209

66話 進め!東関東大会

茂華中学校ー昼休憩。

「先輩、ティンパニの練習をしてましたね」

いつもの通り、瑠璃は同じ打楽器パートの後輩ふたりと弁当を食べていた。

「うん、強弱が少し小さいって…」

「強弱付けるの少し大変ですよね」

そう言ったのは秀麟だ。

「ほーんと」

瑠璃は投げやりに水筒をベンチに置いた。

廊下の休憩スペースは、太陽の斜陽が当たらず、黒に近い陰を作り出していた。

「それにしても、今日は朝から暑いですね」

希良凛が言う。

「…確かにね」

外部の気温は40度近くだ。アスファルトは溶岩の如く熱をはらんでいるだろう。

「こんなに暑くて、何を楽しみに生きていけば良いのやら…」

彼女が言うと「私はね」と瑠璃は目を細める。

「やっぱり実家に行くことかなぁ」

「えっ?瑠璃先輩の実家ってどこなんです?」

秀麟が身を乗り出す。

「…群馬だよ。元々私のお母さんの実家が群馬なんだよ」

「へぇ。それは初めて知りました」

希良凛と秀麟は驚いている。

「まぁ、産まれた病院が群馬なんだけど」

「…えっ、何で群馬で?」

「それはね、私は元々、大内の病院で産まれるはずだったんだけどね、」

瑠璃は自身のお腹をさする。少々膨らんできた胸部から下腹部までの辺りを、細い指でゆっくりとなぞる。

「…私、病気で死産になりそうだったからって、群馬の大きい病院で手術したんだって」

「そ、そうなんですか」

「うん。お母さんには、その時の投与した薬の影響で身長が伸びづらいって言われたの」

瑠璃の身長は149cmだ。中学3年生にしてはやや低い。

「それからは、定期的に病院に行くために群馬に住んでいたよ」

なんだか複雑だな、後輩ふたりはそう思った。



その頃、神平中学校。

「…悠介、昼ごはん食べようぜ」

「おん?もう食ってる」

「ちょっ、音楽室で食べ物食べるなって!」

音楽室で比嘉悠介は弁当箱を広げていた。

「えー、別にいいじゃん。遥篤も一緒に食べる?」

「後輩が真似するからヤメロ」

「はあー、ストレス溜まるわー」

「何のストレスだよ?」

久下田遥篤は、神平中学校の副部長だ。担当はユーフォニアム。一方の悠介は打楽器だ。いずれも実力は全国レベルだ。

「…廊下で食べよう」

遥篤が手を引く。すると悠介の豆だらけの指がニョロニョロと動く。

「いやー、廊下暑いからいやー」

抵抗する悠介はどこか子供っぽかった。

それを見たもう1人の打楽器パートの女の子は小さくため息を吐いた。



「はい、今から通し合奏します!」

茂華中学校も、午後練習で合奏を目前にしていた。辺りが沈黙の底へ落とされる。

刹那、クラリネットたちの音が響いた。その音が徐々に下がっていく。

凪咲の実力も相まってその音は完璧だ。彼女はクラリネット歴6年なのだ。どうすれば良いか、最適な演奏の仕方がすぐに分かる。

課題曲、自由曲の『マードックから最後の手紙』を通し終わると、笠松は何度か頷いた。

「昨日よりも良くなっていますね。流石です」 

笠松が褒めることは非常に珍しい。部員全員は少し嬉しくなった。


それからも合奏、細部の指導が続いた。

「さて、来週の選考会ですが…」

部活終了前、笠松が今後について話し出す。


選考会。それは東関東大会に出場する為に、学校の音楽を審査する場である。この選考会に選ばれなければ、東関東大会に出られないのだ。それに数年前に選考会から落とされたらしいので油断ならない。


「…大会は去年同様に、凛西市民ホールで行います。そこで選ばれなければ東関東大会には出れません」

彼女の言葉に瑠璃の記憶が想起される。

去年は評価的には問題なく通過できた。それから東関東大会では銀賞を取ることができた。

「…8月の7日です!それから合宿もあります。お盆まで頑張りましょう!それから今年は特例で、8月の最後も部活と本番があります」

その言葉に辺りがざわざわとざわめく。

「…今年は必然的にお休みが少なくなってしまいますが、その分お盆前後の休みを増やします。頑張りましょう」

頑張りましょう、その言葉が重くのしかかる。

瑠璃たちは、最後の夏休みの大半を部活に投入されることを悟った。

「…では、今日の部活は終わりにします。矢野くん」

「これで今日の部活を終わりにします。ありがとうございました!」

『ありがとうございました!』

茂華中学校は、全国大会出場に向けて進むのだった。



「合宿は一昨年もやったけど、今年もあるんだなぁ」

廊下を歩きながら、澪子がため息混じりに言う。

「そうなんですか?」

信じられなさそうに言ったのは、トロンボーンパートリーダー2年の桜。隣りにいたセルビアも信じられなさそうに目を見開いていた。

「…そうなの」

澪子は小さく肩をすくめた。合宿は楽しいのだが、少し気疲れしてしまう。

「まあまあ、頑張りましょう!」

桜はそんな澪子の肩をさすって言う。

「…うん!」

それでも合宿には大きな意味がある。澪子は心機一転決意した。


瑠璃はティンパニの蓋を掛けていた。それからペダルを1番下まで踏み下げなければならない。これは毎日の部活後の日課だ。

「瑠璃ー、鈴衛さんたちと帰ろう」

その時、凪咲が彼女を誘う。

「あ、うん!」

「…あ、ごめん。片付け中だった?」

「ううん!今終わったとこだよ」

瑠璃は子供のような足取りで凪咲へ駆け寄る。


その後、暑いからという理由で音織が、コンビニに寄ったので、瑠璃もアイスを買った。

「…チョコミントは不滅なのー」

瑠璃は鼻歌交じりに、チョコミントアイスを口にパクリと入れる。ひんやりとした感覚。ミントの爽快な味とチョコチップの甘味が、舌の中に響き渡る。

「…瑠璃はチョコミント好きだね」

凪咲が言うと、音織が「そうなのか?」と訊ねる。

「うん!だって凄くスッキリするんだもん!」

「ティンパニ叩いた後の顔もスッキリした顔してない?」

音織が皮肉るように言う。瑠璃はつい恥ずかしくなって笑った。

「…そ、そう?」

「冗談だ、恥ずかしがるな」

音織はそう言って、イタズラっぽく瑠璃の頭を撫でた。すると瑠璃は目を細めてニコニコと笑う。まるで褒められたことが嬉しい子供のようだ。

「…ホント子供っぽいな」

「そう?」

瑠璃は童顔なのも相まって、彼女の一言は的を射ている。

「…それより、合宿よー」

凪咲が小さくため息を吐く。

「えっ?嫌なの?私は優愛お姉ちゃんのいない合宿は嫌だけどね」

「榊澤先輩のこと本当に好きだね」

「当たり前だよ」

瑠璃は優愛のことが大好きだ。自分をここまで変えてくれたのだから。

「でも合宿って練習だけじゃないじゃん」

「まぁ、確かにね」

瑠璃の言う通りだ。

「前は中禅寺湖行ったんだっけ?」

凪咲が訊くと、瑠璃が「そうだよ!」と頷いた。

瑠璃は記憶力が良いので、数年前の出来事でも昨日のことのように話すことができる。

「…今年もかぁ」   

凪咲が青い空を見上げて呟いた。

合宿はお盆後にある。

まずは選考会を突破しなければ…。

ありがとうございました!

良ければ、

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【次回】 選考会本番!

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