64話 全国を目指す強豪
神平市立神平中学校。
ここ数年連続で全国大会に出場する吹奏楽部の強豪校だ。
全国大会へ進む為には、この中学校を越えなければならない。
茂華中学校。
顧問が指示する。
『はい、午前練習は以上です。午後からの練習は1時からです』
昼休憩は約50分くらいだ。
『はい!』
そうして各々、昼食休憩になった。
瑠璃は、楽器室に置いてあるカバンから弁当箱を取り出す。
「瑠璃先輩、今日は一緒に食べませんか?」
すると後輩の希良凛が誘いに来た。
「いいよー」
「あ、秀くんもいるんですけど…」
「もう、秀麟君と2人で食べればいいじゃん」
瑠璃がそう言うと、希良凛の頬が瞬く間に紅潮する。
「…い、いやぁ、別に秀くんのことが好きって訳じゃ無いですし…」
「なぁんだ。秀麟くんのことが好きなのかと思っちゃった」
希良凛にそう言うと彼女に軽く睨まれた。
「…先輩?」
そこへ秀麟が来た。彼は中学1年生だ。
「わっ、秀くん!?」
まさに不意打ち。希良凛は驚いたように声を上げる。その声は少し裏返っていた。
「…希良凛先輩、驚きすぎですよ」
秀麟がケラケラと笑う。何だか、2人きりの姿を想像すると、瑠璃は少しだけ悲しくなった。
「…いやぁ、去年よりも演奏良さげじゃないですか?」
弁当箱の蓋を開けながら、希良凛が自信満々に言う。
「確かに、去年よりも人数が多いし、曲の難易度も少しだけ下がったからね」
瑠璃が返す。希良凛のピンクの弁当箱の中には、色とりどりの料理と白いご飯が詰め込まれていた。
「僕、去年は市営コンクールでしか聴いてなかったんですが、去年も完成度高かったですよね」
そこに秀麟が入ってきた。彼の弁当箱は真っ黒だった。中は何が入っているか想像がつかない。
「…秀くん、そっか。経験者だもんね」
すると希良凛が思い出したように言う。
「はい。パーカッションソロとかカッコよすぎました!」
「あぁ、優愛先輩とのやつですね!」
希良凛が目を煌めかせる。
「…優愛お姉ちゃんとのソロかぁ」
瑠璃は思い出す。
榊澤優愛。瑠璃のひとつ上の先輩だ。去年は彼女とソロを演奏したのだ。
「あ、」
その時、瑠璃が思い出したことを口にする。
「そういえば、美心乃ちゃんが、神平中学校の友達にコンクールでの感想を聞いたみたいなの」
「久城先輩が」
秀麟は黄色い卵焼きを咀嚼し、確認するようにその名を呼ぶ。
「そしたらね、下手だって」
「…ひっど」
希良凛が顔をしかめてそう言った。
「項目を競っても、今のままじゃ1個も勝てないって」
「神平は随分と自信家なんですね」
「まぁまぁ」
宥めるも怒り心頭なふたりの気持ちが瑠璃にも分かる。
技術面に恐らくそれ程の大差は無い。ただ彼は何かが欠けていると思っていたのだろう。
「…って言ってたのが、副部長の久下田遥篤って人」
「久下田…、もしかしてユーフォのですか?」
それに秀麟が訊ねる。
「う、うん」
「あの人なら、確かに言いそう」
秀麟は何故か彼を知っているようだ。
「いや、久下田光慶って知ってます?」
え、誰?そう思ったのは瑠璃だけだった。
「光慶?ああ、御浦小にもそんな人来てた!」
希良凛も元々御浦小学校の吹奏楽部に所属していた。
「その人の息子さんだよ」
「誰〜?」
瑠璃は全く分からなかった。
「いやぁ、有名な奏者ですよ。ユーフォニアムの。それで遥篤君もユーフォ吹いてるんですけれど、凄く上手いみたいです!」
秀麟は意外と強豪オタクなのか?
「詳しいね」
希良凛が目を丸めて言うと、
「僕の親と知り合いなので」
と小さく答えた。
(久下田光慶かぁ…)
先ほど処理した古びた演奏会のポスターに、そんな人物の名前と顔写真があったな、と瑠璃は思い出した。
それから雑談交じりに休憩していると、あっという間に午後練習に入った。
『やはりオーボエとクラリネットが少し課題ですね。そこは曲中でも重要な所ですから』
笠松が言うと、凪咲、美心乃たちへ視線を向ける。ふたりを始めとしたオーボエ、クラリネットパートが一斉に楽器を構える。
午後は細かい箇所から出だしなど、曲の評価に携わる部分を中心に確認した。
「…はい、出だしは完璧ですね。では明日は中盤部分を中心に合奏します。しっかり休んで明日も来て下さい」
『はい!』
ありがとうございました!雄成の言葉に各部員も続く。今日の部活はこれにて終了だ。
その時。
この神平中学校も時を同じくして練習に励んでいた。先程までティンパニの複雑なリズムが鳴り響いていたが、今はぴたりと止んでいる。
『…久下田ぁ』
その時、誰かがベランダにいる『彼』に話し掛ける。
「おう、本防」
金色のユーフォニアム、高級な光を放つ楽器を持った遥篤はそう名前を呼んだ。
「何してんだ?まさか?暇してる?」
「暇じゃないけど、ってか相馬が怒ってたぞ」
遥篤はそう言って男子に目を向ける。
男子の名は比嘉悠介。
「相馬ちゃんか。あ、そういえば茂華だっけ?ガチで全国大会出そうじゃね?な、久下田もそうは思わない?」
「…無理でしょう。そもそもパーカスに関しては、君の技術をひとつも越えてすらいない」
「たしかにぃ」
悠介は僅かに口角を上げる。
「よく分かってるじゃん。流石音楽家の息子さん」
その言葉には、絶対的な自信が裏付けられていた。まるで茂華中学校の技術を軽く凌駕してると言いたいように。
「…てか、暑いだろ?はよパート練習室に戻りなさい」
有無を言わさない口調に、遥篤は頷き彼へと付いていく。
「練習♪練習じゃあ〜♫」
独特な曲調で歌いながら、悠介は教室へと戻って行く。
彼の専門は打楽器。
真の実力は全国レベルだ。
圧倒的技術力で他校をねじ伏せる。それが神平中学校の『恐ろしさ』なのだ。
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