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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
恋は散り華は咲く 夏休み始動編
130/210

59話 瑠璃の説教

「ふぁぁ…、誰も()んな」

そう言ったのは鳳月ゆなだ。面倒臭がりな彼女は、中学3年生が来ることを望ましく思っていない。

一方の優月は箏馬と『ある人』を待っていた。

「春isポップン祭り以来です」

箏馬が言うと、そっかと優月は言った。

そうして他の楽器を練習をしていると、誰かが音楽室に入ってきた。

「失礼します」

ふたりの少女。ひとりはツインテールを下げた女の子、古叢井瑠璃だ。もうひとりは誰だろう…?

「…あ、いたいた」

すると瑠璃は優月へトコトコと歩き出した。

「先輩、お久しぶりです」

次の瞬間、音楽室がざわめいた。

『えっ?誰?あの子?』

『可愛い…』

3年生はそう言った。瑠璃は3年生の方を見て、テヘ、と笑い掛けた。彼女の綺麗なお辞儀に『きゃー♡』と可愛らしい声が湧く。

「瑠璃ちゃん、久し振り」

優月は優しい顔で言う。すると瑠璃は一瞬悲しそうな目をした。

実は1週間前に夏祭りで会っている。彼氏の想大と別れて泣き出した時に、優月と偶然出会ったのだ。


「…そうだ!國井君!やっ、先輩!!」

瑠璃は慌てて取り繕い、トランペットを握る彼に話しかける。

「…音が凄く外れてましたよ」

その指摘に、先輩の黒嶋氷空までもが「えぇ!?」と驚きの声を上げる。

「私の友達、トランペットやってるんですけれど、こんな音出しませんよ」

ハッキリ言うな、と優月は顔を引きつらせた。

「…音程が外れてるんです。あと音がとにかく大きいです。全体のバランスを考えた方が良いですよ」

瑠璃は礼儀正しい態度でそう言った。

「は、はい…」

「もう少し譜面を意識して、音量のバランスと基礎練をすれば上手くなれますよ」

「あ、ありがとう」

孔馬は顔を引きつらせながらも礼を言う。ふたりは知り合いだが、変わりきった彼女に驚いた。

まさか、再会して数秒で説教をされるとは…。

それからも、瑠璃の説教は続いた。

「…あ、あんな子だったのか?」

ホルンの高津戸日心が言うと、トロンボーンの藤原美鈴が首を横に振る。

今度は箏馬と話している。

「…タンバリン打つのは上手ですけれど、トライアングルの打ち方が雑ですよ。ペースを考えた方がいいと思います」

「いい…、分かった」

普段から敬語を特に使わない瑠璃の口調は少し拙かった。


「…あの子、優秀」

加藤咲慧がそう言った。指摘ができて具体的な課題を上げられるとは。強豪は違うなあ、と咲慧は思った。

ちなみにもう1人の見学者は久城美心乃というらしい。


「…そうそう!そんな感じ!です!」

チリチリと正確にトライアングルを鳴らす箏馬に、瑠璃はそう言って、親指を横に人差し指を上へ立てる。本人曰く、『よくできたね!』という指文字らしい。

「…なんか、古叢井ちゃん、すごく変わったな」

箏馬が言うと、瑠璃は恥ずかしそうに笑う。

「前にも言ったけど、優しい先輩がいてね。そのお陰だよ」

瑠璃はそう言って猫のように笑った。

ちなみに優しい先輩とは優愛のことだ。

その時だった。

「…君が古叢井瑠璃ちゃん?」

さっきまでゲームをしていたゆなが瑠璃に話しかけてきた。

「あ、ドラム上手い方だ」

瑠璃は小さく言ってお辞儀する。

「はい!古叢井瑠璃です」

「私は鳳月ゆな」

ゆなは大して改まった様子なくそう挨拶した。

「ドラムやってく?」

そして彼女の言葉に、瑠璃の瞳がキラキラと輝いた。

「はい!是非!!」

皮楽器が好きな瑠璃は一瞬で食いついた。

誰も来なくていいと言っていたくせに、と思いながら優月もゆなを追う。

「…えっと、できるでしょ?」

ゆなが訊ねる。

「は、はい」

瑠璃は不安気に頷いた。

実際、彼女がドラムを叩けることは、ゆなでも知っている。流石に自分ほどじゃないが。

「じゃあ、ご自由に」

ゆなはそれだけ言って音楽室から出て行った。


「…優月先輩」

すると瑠璃が丸椅子に座る。そして彼へ呼びかけた。

「夏祭りの楽譜を貸して下さい」

「あ、いいよ」

優月は小さな紙面を渡す。そこには楽譜の五線譜が描かれていた。

「やり方、分かる?」

「いや、この☓の上の◯が分からないです」

「オープンクローズかぁ、ちょっといい?」

瑠璃に代わって優月が手本を見せる。

何だか既視感があるな、と思いながら優月は両手足を上下する。

「あ、それかぁ」

瑠璃はそれを見て思い出したようだ。しかし急かす様子もなくただ優月を見つめる。

終わると優月からスティックを受け取った。

「はい」

「あ、ありがとう」 

瑠璃は人目じゃないからかタメ口だ。想大や優愛にもタメ口だったので全く驚きはしないが。

「それ楽しいよねぇ」

瑠璃はそう言いながらクスリと笑った。

「…まぁ、疲れるけど」

「月に叢雲華に風の時も思ったけれど、優月先輩は叩く時の振りが大きいんですよ。あの鳳月っていう先輩は、お手本にしちゃいけないですよ」

その言葉に、前の管楽器隊から笑い声が湧く。その中でもむつみは豪快に「しぬー!」言っている。

確かにゆなの技術は相当なものだが、全て経験によるものだ。いきなり真似できるはずもない。

そうして瑠璃はスティックを振る。足を浮かせたハイハットシンバルが鳴り響く。

上手い、何故かそう思った。

瑠璃はわざとらしく小振りで叩く。スネアの音も、バスドラの音も大して大きく響かない。他の管楽器に容易く吸い込まれる。

多分、これが吹奏楽のドラムとして普通なのだろうが、東藤は違うのだ。ティンパニやスネアドラム、コンサートバスドラムの代わりを担っているのが、ドラムセットだ。冬馬高校同様に、今年からはこのスタンスでいくことが決定したのだ。


「…瑠璃ちゃん、音小さ!」

その時、美鈴が驚いたように立ち上がる。

「…えっ?」

瑠璃は手を止め彼女を見る。

すると少女の相手をしていた日心も口を開く。

「もう少し大きくても構わんと思うのだが」

日心の口調も少し変わっている。音織程ではないが。

「えっ?思い切り叩いたら壊れちゃうじゃないですか…」

そんなことをいう彼女に、むつみが立ち上がる。

「いや、もう少し大きくて大丈夫だよ。さっきの鳳月ゆなちゃんのやつで大丈夫だったから」

その時、「おい!」と扉を閉めながらゆなが声を上げた。

「裏でそんな事思ってたのか!むっつん!?」

ゆなは少し怒っていた。それが面白かったからか部員の半数は笑っていた。

「先輩に呼び捨て…」

美心乃が軽く顔を引きつらせた。


それと同時に数人の男女が入ってくる。私の妹だ、という声がどこからか聞こえてくる。

「…瑠璃ちゃん、もう少し強く叩いても大丈夫だよ」

優月が言うと、瑠璃はスティックを強めに握る。

「…分かりました」

瑠璃はペダルに足を乗せる。その時、

「あ、瑠璃、ツインペダルあるよ」

と缶を持ったゆなが言う。

「え、ツインペダル?」

瑠璃は両足をペダルに乗せ、交互に踏みつける。ドコドコ…と大きな音がする。そこへスネアを打つが中々上手く叩けない。

「…難しいなぁ」

瑠璃はそう言いながらも、ひとつのリズムを刻んだ。意外とできている。

「…やっぱり瑠璃、欲しいなぁ」

ゆなはそう言って優月の顔を見る。優月は「そう」と相槌を打ったふりをして瑠璃を見つめた。


と同時に瑠璃は左足をハイハットのペダルに足を乗せる。

「すーっ」

瑠璃は舌を舐めずる。その様子は、誰からも見えない。

そしてシンバルを叩く。そこからのハイハットのオープンクローズ。優月とは根本から違った。基礎を磨いているからか、揺らぐ気配すらない。

そして先程とは比べ物にならない音圧が、優月の体を震わせる。小柄な体からは考えられない程の大音量。

本人は、口角が上がり、瞳は光を放ち大きく開かれている。何だか楽しそうだ。

そんな彼女は楽譜を一瞥し、音量を少し下げる。

そしてタムからスネアへスティックを振る。そこで何度も引っ掛かった優月にとっては目を疑った。

ドコドン!

ロータムとハイタムを使ってのアクセントも完璧だ。

間もなくしてサビに入る。再び両手足を上下させて音を鳴らした。うるさ過ぎない音。

最後にスネアの連打。ここも引っ掛かることなく終わった。

「うー、できたぁ!」

瑠璃はそう言って優月の方を向く。そしてピースサインを見せた。

「初見でよく出来たね」

優月が褒めると「えへへ」と瑠璃は照れ笑いをする。普段はあまり見せない態度だが、想大と別れたことで、何か新たな心境が芽生えたのだろう。


瑠璃の方ばかりを見ていた優月は気付いていないが、他の学校からの見学者も沢山来ていた。

「…あ、みんな来てるー」

その時、瑠璃はそう言って周りの見学者たちを見た。

「…瑠璃ちゃん、来年から東藤に来るの?」

優月が訊ねると、

「考え中かな」

と言った。

「…でもすっごく楽しかった!」

瑠璃はそう言ってニコリと笑った。優愛とはどこか違う幼気な可愛らしい笑顔。

そうして、12時になると中学3年生は全員帰って行った。

「ありがとうございました!」

瑠璃は威勢のいい声で言う。すると、

「バイバイー」

とむつみや咲慧が手を振る。瑠璃は猫のように笑い、小さく手を振り返すと音楽室から消えた。


「…古叢井瑠璃ね」

するとゆながそう言った。そして次に放った言葉。

「私の義妹に似てるなぁ」

「義妹?」

近くにいた優月がつい聞き返す。しかし、ゆなはこちらをギロリと睨む。

「何?気になるの?」

「…気になる」

ゆな的には話したくないのかもしれなかったが、優月はつい押しかけてしまった。するとゆなは小さくため息を吐く。

「あとで…話す」

それだけ言って彼女は、スマホゲームを始めてしまった。 


その時だった。

「お疲れ様でした!」

井土が帰ってきた。会議に行っていたらしい。

「今日は部長と副部長会議があるので、用がない子は早く帰ってくださいね」

そう言って今日の部活は終わった。

それでも優月とゆなは残るのだが…。


古叢井瑠璃。

果たしてこの高校に入学し、吹奏楽部に入部するのか?

答えは半年後に分かる。

古叢井瑠璃は、果たして東藤高校に入学させた方がいいでしょうか?

感想で教えてください!!


良ければ、

意見兼感想、リアクション、ポイント、ブックマーク

をお願いします!!


【次回】 吹奏楽部幹部会議。そこに優月とゆな…。

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