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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]入部&春isポップン祭り編
13/209

春isポップン祭りの章 [完結編]

描写の都合上、オノマトペが使われます。

この物語はフィクションです。

人物、学校名は全て架空のものです。

ご了承ください。

「に、入部するの?」

優月が想大にそう訊ねる。

「…うん。だから見に来たんだよ。吹奏楽ってどうなんだろうな…って」

なんと、わざわざ吹奏楽部の見学をする為に来たというのか。

「…あと、」

すると、彼がスマホを優月へ突き出す。

「…なるほど」


どうやら、古叢井瑠璃に誘われたらしい。

2人の初めての出会いは、ティンパニ破壊事件という瑠璃が、起こした事件の直後だった。

この、ティンパニ破壊事件は、彼女に闇を落とすと同時、新たな出逢いを生み出した。


「古叢井さん、想大君のこと、まだ好きなんだね」

「…まだ好きって決まったわけじゃないよ」

実際、告白こそされていないが、一度、優愛から聞かされたことがある。


その時だった。

「小倉、出番だよー」

同じパーカッションパートの鳳月ゆなが、優月へ呼び掛けた。

「想大君…行っくるね!」

「ああ!」

想大はそう言って優月を見送った。


優月はゆなと並んで、ステージ脇のテントへ歩き出す。

「さっきは、あの子のことゴメン」

ゆなが小さな声でそう言った。

「…べつに」

すると、ゆなが彼へ耳打ちする。

「あれが…噂の優愛ちゃん?」

そう言って、仲良く話す2人を見る。


『次の演奏です!県立東藤高校吹奏楽部の皆さんです!』

すると、パチパチと拍手がわき起こる。


それは優月の緊張を高めるだけだった。

あ、屋台なんてあったんだな…と緊張のあまり、場違いなことを、考える。


刹那、ゆながシンバルを叩く。

その瞬間、部長の雨久と氷空が、トランペットを吹く。

次々と奏音のホルン、ほのかのクラリネット、颯佚と菅菜のサックスが入ってくる。

瞬く間に、それはひとつの音楽になる。


みんなが知っている曲だからか、ゆなのドラムや優月のタンバリンに合わせているからなのか、手拍子が鳴り響く。

パン!パン!パン!

と優月はタンバリンを天に向けて、打ち出す。

規則的なリズムを打つだけなので、簡単だ。

しばらくすると、曲が終わった。

すると、雨久がマイクを取って、司会を始めた。

『皆さん、こんにちは!!』

すると観客も『こんにちはー!』と繰り返す。

『元気があってよろしい』

雨久が満足気に頷くと、2、3年生が、クスクスと笑った。

『私たちは、3年生5名、2年生6名、1年6名の計17人で、活動しています。さてさて…次の曲に、参りましょう』

すると、ゆながスティックを打ち合わせる。

カッ…カッ…カッ…カッ…!


次の瞬間、ハイハットが踊るように鳴り響く。

美心がメロディーをグロッケンで打つ。

それと同時、雨久と氷空が立ち上がり、トランペットを吹き出す。

雨久と氷空のトランペットは高らかに響いた。氷空のソロが終わると、拍手が起こる。

すると、今度は颯佚と菅菜がサックスを吹きながら立ち上がる。

音がくっきりと空気を震わせる。颯佚の鳥肌を立たせるような演奏に、拍手が止まらない。

ソロの直後、パシィン!とシンバルの音が響く。

拍手は更に苛烈する。

優月が、スネアドラムをスティックで叩く。

パン!パパッパン!

ドラムの音の合間を縫うように、スネアの空気を張り付ける音が響いた。

パァンッ!

優月がスティックを叩きつけると、そのままゆなのシンバルに繋がる。

次はトロンボーンを持った茉莉沙がひとり立ち上がる。

茉莉沙は思い切りトロンボーンのレバーを引く。

すると、大きな音が響いた。

それでも、茉莉沙は眉ひとつ動かさない。

それを見た冬馬高校の部員の1人が、羨ましそうに彼女を見る。

あまりにも、初めて1年とは思えない演奏だ。

恐らく、その場にいた全員が熟練者だと思うに違いない。


各々のソロを終えた演奏は、終盤に差し掛かった。

すると、ゆながフロアタムという太鼓へスティックを振り下ろす。

ドンドン!ドドンド!トドドンドン!

そして優月も同時にスティックを振り下ろす。

ゆながシンバルの連打を終えると、グロッケンへ移動した美心が、グロッケンを打つ。

ドミー、ドミー…

グロッケンソロも終わり、続きに続いたパーカスソロに拍手が巻き起こった。


曲が終わると、本日何回目かの拍手が響いた。

『はい!皆さん、ありがとうございますー。始めまして、顧問の井土広一朗です。さっきのはインフェルノをアレンジしたものに…』


演奏を見た想大は、

「すごいな…。優月君」

と心の中で、賞賛を送る。

『…最後に夜に駆ける、を演奏して終わりにしたいと思います!』

井土と澪がギターを構える。

その時、トランペットの音が鳴る。

聞き覚えのあるフレーズに、観客たちの心が踊る。

ド!ド!ド!ド!ド!

ゆながバスドラを踏みながらカウントをする。


次の瞬間、高らかな音楽が鳴り響いた。

ベースの低音が地面を伝って伝わる。

『さよならだけだった…』

再現度の高い演奏に、想大は思わず口ずさんだ。


ドラムがしっかりしているからか、演奏がくっきりと聴こえる。入学式に聴いた交響曲とは大違いだった。




そして、東藤、冬馬、茂華中の合同演奏が始まった。曲名は宝島だった。

ゆなと優愛のドラムスティックでカウントが始まる。


コンコンカン…ココンカコン…コンコンカン…ココンコカン…


瑠璃と苺がカウベルを叩く。すると、トランペットやトロンボーンの音が響く。

(瑠璃…ちゃん、ナイス)

そう呟いたのは、伊崎凪咲(いさきなぎさ)。手にしているクラリネットを構え、リードを口にする。


カウベルの音の直後、伊崎がクラリネットのソロを吹く。すると、拍手が響き渡る。

続いて、トランペット、トロンボーンのソロが続く。

優月も、ゆなと優愛のタム回しの直後、タンバリンを天へ突き上げ叩く。

すると、周防奏音と茂華中の隅沢がホルンを持って立ち上がる。

奏音たちは力の限り、ソロを吹き切った。



『続いて最後の曲です!』

冬馬高校吹奏楽部の部長の市村がそう言うと、

苺と瑠璃が同時に、シンバルを打つ。

すると、優月がタンバリンを叩いて煽る。

パン!パン!パン!パン!


初芽、心音、香坂もフルートに息を吹き込む。

それに、続くように管楽器の音が響きゆく。

どこまでも続く伸びやかな音。

瑠璃が叩くドラムも、激しく音がくっきりと鳴り響く。彼女もどこかうれしそうだ。

(…すげぇ)

そんな彼らの演奏が終わる頃には、想大の気持ちは決まっていた。


昼時、ようやく解散になった。

「…部長!フルートカッコよかったです!」

クラリネットの凪咲がそう言って香坂に駆け寄る。

「ありがとう。みんなも頑張ってたね」

すると瑠璃が彼女たちに歩み寄る。


「瑠璃ちゃん、よかったよー!」

「ありがとう!」

瑠璃と凪咲は互いに喜びあった。

「…瑠璃ちゃん、頑張ったね」

そう言って、香坂が褒めると、瑠璃は「はい!」と笑った。

一曲だけでも、できただけ良かったというのに、褒められるとは…と瑠璃は嬉しかった。



優月も、屋台で買った唐揚げを想大とシェアしながら話していた。

「優月君、太鼓、カッコよかった!」

「…ありがとう」

優月はそう言って、唐揚げを口の中へと転がす。

「才能有るんじゃないか?」

想大がそう言った瞬間、優月は驚きのあまり、咳き込んだ。

才能だなんて…。


「…だって、半月、練習しただけであんなに上手いんだから、打楽器、極めてみたらどうだ?」

「…極めて」

優月は、その言葉に瞳を輝かせる。


打楽器を極める。


「…そして俺も入部する。来週の火曜日、入部届を出す!」

「…っええええ〜〜っ!」

優月が目を丸める。

まさか、彼も入るとは…。


「が、楽器は?」

「…それは、あとで」

その時だった。


「優月くん、お疲れ様」

優愛が話しかけてきた。その横には瑠璃。

「…お疲れ」

すると、瑠璃が2人へ手を振る。

「先輩たち、お疲れ様です!」

「久し振り〜」

優月と想大がそう言うと、瑠璃はニコッと笑った。



「…次はコンクールだね」

瑠璃がそう言った。

「…そうだね」

優月と想大が言った。


「あれ?どうして、小林先輩が?」

彼女が訝しげに問う。すると、

「俺も入部するから」

と想大が笑った。


「意外〜」

優愛もそう言って、笑った。

「優月くん、カッコよかったよー」

「ありがと~」

あれで本当に付き合っていないのか、と想大と瑠璃は思った。


「また、コンクールで会おうね」

こう言って、優月は、優愛と瑠璃、そして想大は別れた。




その頃だった。

「茉莉沙、アイス分けてー」

「いいよ」

茉莉沙と初芽はアイスを食べながら話していた。


そんな彼女たちに横槍が入る。

「明作さん」

誰かが話しかけてきた。

その人物に、茉莉沙の紅い瞳が歪む。

「…はい」

茉莉沙は珍しいことに、拒絶するような口調で接する。

「…トロンボーン、上手かったですね」

「…」

その男の子は、彼女の元を通り抜けていく。

「…まだ意地を張るんですか?先輩…」

その時だった。

「ごめんなさい。私たち、急いでいるので…」

「…ああ」

初芽が茉莉沙の腕を掴んで、逃げるように去って行った。

『速水さん、言ってましたよ。組織には貴女が必要だと…』

しかし、茉莉沙は、

「…私は、もう抜けました。追うのは違うんじゃないですか」

とその男子の言葉を容赦なく弾く。


すると、その男子がニタァと笑った。


「…やっぱり、アイツら、来てるじゃない…。なんとか…」

熱弁する初芽を茉莉沙が手で制した。

「…もう私、いいんだ」

すると決意に満ちた紅い瞳を2人へ突き刺す。

「…私、吹奏楽、辞めるから」

「はっ…」

初芽はその言葉に息を呑んだ。

どうやら、優月たちの知らない所で何かが蠢いているらしい。



その日の帰りのバスで音楽を聴きながら、優月は先の会話を思い出していた。

『また、コンクールで会おうね』

この言葉を胸に優月は、頑張ろう、と決意した。



恐らく、本当の吹奏楽はまだまだこれからだ。

しかし、大きな闇が迫っているとは、誰も知らなかった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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【次回】 新章開幕。 茉莉沙の『トロンボーン』…。

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