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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
恋は散り華は咲く 夏休み始動編
129/208

58話 披露!夏の中学生学校見学会

ダメだ。不調だ…。

どうする優月…。

今日は部員が10人しかいない。加藤咲慧たち始め生徒会等の仕事があるからだ。

というのも今日は、中学3年生が学校見学に来る日だ。

「ふあぁ…」

鳳月ゆなは欠伸をしながら、ビブラフォンを練習する。彼女は苦手な所を繰り返し練習しているところだ。

ちなみに、『夏祭り』では彼女は和太鼓をやっている。

「あー、また間違えた」

手汗が滲んだスティックを握る優月は、現在、ドラムの練習中だ。

ロータムからハイハットシンバルへの移動。これが課題だ。

しかし集中ができない。喉が渇いた。

水分を買いに、優月は体育館前にある小さな自動販売機で飲み物を買いに行くことにした。


中学3年生は学校から説明を受けているのだろう。やけに静まり返っている。

「…静かだな」

先生にあらぬことで怒られるのは嫌なので、駆け足で自販機へと向かった。

今日は部長の茉莉沙も、副部長のむつみも、初芽もいない。初芽は生徒会らしく、茉莉沙とむつみは中3の案内をするらしい。

3年生は悠良之介しかいない。2年生も、優月、ゆな、氷空だけだ。他の2年生徒は休みと生徒会による案内役だ。

「…はぁ」

取り出し口からペットボトルを取り出した優月は、露の滴るペットボトルはいやにひんやりしている。


音楽室に帰って、飲み物をあおると、視界が心なしか明るくなった気がした。生き返ったー。

「…さて、練習しますか」

ゆなはドラムに近寄らず、ゲームをしていた。

そうしていると、ゆなが突然立ち上がった。

「中坊くるらしいよー」

言い方、と誰かが注意するが、ゆなは気にすることなく「ゆゆ、やるよ」と合図する。

優月はスティックを大きく上下させる。すると美羽愛や悠良之介のユーフォニアムが響く。そこへチューバの音。

しかし1番響いたのはトランペットだった。音は少し外れていたが。

しばらくすると、案内役の井上むつみが、1年生を連れてきた。青、緑、紺、黒、白、様々な制服が交じり合う。どうしても緊張してしまう。

優月は両足を上下させ、スティックを振る。ハイハットのオープンクローズは音楽室では、うるさいくらいに響く。

(…あ、ミスった)

優月は手に汗握ったせいで、スティックを滑らせる。すぐに立て直すがテンポに影響してしまった。

ゆなは、和太鼓へバチを小さく振る。少し不遜な顔つきをしていた。ドンドン…とくぐもった、それでも聴き取りやすい音だ。

箏馬はタンバリンを振る。本来はグロッケンなのだが、今日の本番に間に合わなかった為だ。


(なんか…ヘタになってない?)

案内役の井上むつみは、少し眉をひそめた。人数が大幅に少ないから?それでも下手だ。

真っ赤に光る紅蓮の瞳が細められる。しかし誰も彼女の視線に気づくはずがない。

テンポが少し速くなってる?何してるんだドラムは…。

むつみはそう思いながら、中学3年生を教室の外へと先導した。

そうして、次々と中学3年生が音楽室へ案内された。


その頃。

「…いやー、東藤楽しみだね」

「美心乃ちゃん、東藤行くの?」

夏矢颯佚に連れられ、茂華中学校の生徒が音楽室までの階段を歩いていた。

先ほどまでは、図書室や体育館の運動部たちを見せられていた。

「…いやー、行くか迷ってるかな」

「御浦かと思った」

瑠璃はそう言って軽やかに階段を駆け上がる。

「ん?」

「ん?」

その時、ふたりは違和感を感じる。

「…なんか、トランペットの音が大きくなってない?」

「うまいんだけどドラムの音がズレてるね」

後ろから聴こえてくる痛々しい会話に、部員の颯佚は苦笑いをした。

(主力がゼロだからな。鳳月はドラムじゃないし…)

主力がいない合奏は殆ど壊滅状態だった。


そうして音楽室に入った。

「夏祭りかぁ、懐かしい」

美心乃も鍵盤ハーモニカで吹いたことがある。瑠璃も夏はよく聴くので全然知っている。しかし、吹奏楽としてはイマイチな演奏だ。

(…あとで言ってやろ)

瑠璃はそう思いながら、孔愛たちを一瞥した。

優月は焦燥に駆られながら叩いていた。

ダメだ、不調だ。

その言葉が脳内でぐるぐると回る。

それでも、最後まで叩き切った。


ぱちぱち!と拍手が鳴る。

「瑠璃ちゃん、あの子が優月って先輩?」

美心乃とは別に誰かが話しかけてきた。短髪だが瞳は少し赤い可愛らしい女の子。

「…そうだよ」

彼女も吹奏楽部だ。パートはホルンで実力はそこそこだ。彼女は、勉強が苦手で学力水準が低い学校に進学したいらしい。

元々、瑠璃のことが嫌いだった彼女だが、今はもう仲のいい友達だ。

「…なんか下手じゃないですか?」

少女は冷たく言い放つ。

「そう?そんな事ないよ」

瑠璃はそう言った。

「まぁ、私、パーカッションに詳しくないんだけれどね」

少女はそう言って踵を返した。あとで部活動見学に行こうかな、と話しながら瑠璃たちは、音楽室をあとにしたのだった。


終わると、精魂尽きた部員はヘトヘトだった。人数が少ないせいで個々の音量バランスが崩れてしまったうえに、テンポももつれてしまった。しかし、そんなことも知らない優月は満足そうに、疲れたーと言いながらドラムから離れた。

「…終わったんね!」

その時、井土が入ってきた。

「どうでした?練習の成果は?」

「…壊滅的」

ゆなは隠すことなくそう言った。

「河又がユーフォの音外すから海鹿ちゃんのユーフォもズレるし、國井君は音程とリズムが取れてない、最後にゆゆのドラムはズレるしで最悪だった」

彼女の冷静な分析は、客観的な位置から見ていたから言えるのだろうか?

「なるほど、主力がいないと大変らしいですね」

確かにそうだ。

茉莉沙のトロンボーン、初芽のフルート、颯佚のサックス、むつみのオーボエが無いと、殆ど壊滅的になるらしい。

優月はそれが本当に悔しかった。頑張ってもどうにもならなかったと言われているようで。

自分は下手だった。梅雨に感じたあの感情がふつふつと蘇る。市営コンクールで金賞を取れたのも、集中的に練習をしていたからだ。

悔しい。


「…なるほど、まぁ反省会は今は置いておきましょう。吹部見に来る子もいるんでサボらないで下さい。あと管楽器は触らせないで下さいね」

井土はそう言って、優月とゆなを一瞥する。

「ふたりー、ドラム体験させてあげてね」

予想外の発言にふたりは、「えぇ!?」と声を上げる。それと同時に、心音と咲慧が案内から帰ってきた。

「…管楽器は落とされでもしたら困りますが、打楽器なら余程のことがない限り、壊される心配がないので」

井土は、楽器が不慮の事故で壊れることを危惧しているらしい。

「めんど」

ゆなはそう言って、優月を見つめる。その子猫のような眼差しは押し付けるときの目だ。

意図を完全理解した優月は、ゆなからわざとらしく視線を外した。


数分後、音楽室へ数人の生徒が来た。

その中には『彼女の姿』も…。


         【続く】

ありがとうございました!

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【次回】 無双する中学3年生。皆に説教

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