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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
恋は散り華は咲く 夏休み始動編
125/208

54話 瑠璃色の夏祭り

背後から肩を叩かれた優月は大きく仰け反る。ああビックリした…。

「…あ、久しぶり」

来た友達は3人。1人は女の子だった。

「久し振りだな。小倉優月くん」

口を開いたのは、中学時代秀才だった八条(やじょう)龍雅(りゅうが)だった。

「身長は相変わらずだけど」

今度は、もう1人の男子が言った。名前は鹿田(しかだ)椿輝(つばき)。龍雅と椿輝は親友だ。

「…今、身長何センチ?」

「ひ、152…だったかな?」

「あぁ、中学時代から1センチしか変わってないねー」

櫻谷(さくらや)恋詩(こいし)が言う。

「…櫻谷さんも、身長変わってないね」

「私ゃ成長期終わったのよ」

そう言ってうちわを仰いだ。一瞬だけその長い髪がなびいた。

「あ、堀田は?」

恋詩が訊ねる。しかし彼の行方など優月には分からない。

堀田(ほりた)俊樹(としき)。彼は御浦東高校の吹奏楽部に所属している。ちなみに一昨年の茂華中学校吹奏楽の部長だ。

「…まぁ、彼のことや、彼女と行くんだろー」

「か、彼女…」

去年は想大たちと行ったのだが、今年は違うのかな?と優月は思った。

「そうだ!小林君とはどう?」

「えっ?」

恋詩がそんなことを訊いてくる。

「…い、今も友達だけど…」

「あ、そうなんだ。君たちバカみたいに仲いいよね」

彼女にそんなことを言われるとは…。確かに、1年だけとは言え、吹奏楽部に付いてきてくれた。

しかし、彼が吹奏楽部に入らなければ、瑠璃と付き合うことも、今から別れることもきっと無かっただろう。


そうして、屋台が夥しく並ぶ大通りを歩く。

「…あー、サイアク」

「どうしたの?」

「チョコバナナのチョコが溶けてるわ」

椿輝が残念そうに言う。確かに今日は暑い。気温は夕方といえど、30度超えなのだから。

「…そういえば、優月君、最近は絵を描いてるの?」

その時、龍雅が訊いてくる。

「…絵?」

「いや、優月君の絵、すごく上手かったから。高校でも美術部なの?」

彼の柔らかい瞳に期待は無かった。恐らく単に気になっただけだろう。

「今は吹奏楽部だよ」

だから優月は躊躇わずに答えた。

吹奏楽部。最近は慣れず、そう言葉にすることさえ抵抗があった。しかし今は何とも感じない。

「えっ!?吹奏楽部?」

龍雅は驚いたように目を丸めた。

「じゃあ、フルートか!?」

「なんで?」

決めつけのように言う龍雅に、優月の眉が下がる。

「…いや、俊くんがフルート吹いてたって言ってたし」

「あぁ…」

恐らく中学に入学してすぐの部活動見学のことだろう。

先輩方にせがまれて、少し嫌々ながらも、フルートを体験した覚えがある。結局、最終日になってやっと音を出せたのだが、そこを彼に見られたか。

「…フルートじゃないよ」

「えっ、じゃあ何の楽器?」

「打楽器。簡単に言えば、グロ…鉄琴とかドラムとか」

「うぇ!?ドラムやってんの!?」

自分からしたら出来て当然なのだが、やはり一般的には出来れば凄い部類なのだろう。

「そうだよ」

「おぉ、優愛ちゃんと一緒じゃん」

「まぁ、そうだね」

龍雅と優愛は同じ委員会で知り合いだったらしい。だからお互い名前は知っているようだ。

「えっ?追っかけ?」

すると椿輝が無神経に訊ねる。

「違うわ!」

優月は慌てて否定した。別に優愛を追っかけたつもりは全くない。

「…なーんだ」

椿輝は残念そうにそう言った。

「あ、じゃあ、優愛ちゃんは?」

龍雅が訊ねる。

「…凛西の花火大会に行った」

「そうなんだ」

やはり中学時代、優月は優愛にゾッコンだった。しかしティンパニ破壊事件が無ければ、間違いなく告白できずに終わっていた。

あの頃、自分は瑠璃に敵視されてた、今ならそう思う。



その頃、瑠璃は祇園車で太鼓を叩いている。細長い長胴太鼓がリズムを刻む。

ドンドン!と切れの良い音が、締太鼓のリズムを包み込むように響いた。

しかし、隣で締太鼓を叩く凪咲は限界そうだ。腕の振り方が乱雑で、表情は水中をもがくように苦しそうだ。

後ろには音織がいる。彼女に代わってもらった方がいいのか、と考えていると、ようやく一区切りがついた。

「…うぁ、無理」

凪咲は山車の柵にもたれ掛かる。

「強く叩きすぎだよー」

瑠璃がそう言って、彼女のファンを凪咲の顔面へ向ける。扇風機の風が凪咲の髪をなびかせる。

「瑠璃ー、やさちー」

明日もあるのに、と瑠璃と音織は呆れ顔になる。

「頑張れ、クラリネットパートリーダー」

音織が鼓舞するも、凪咲は全く動かない。

「大丈夫?」

他の人に心配の声を掛けられながらも、凪咲は立ち上がる。

「ねーおー、太鼓やってー」

彼女の普段の真面目さは、疲れでどこかに行ったようだ。

「…仕方なし。ゆるりと寛ぐと良い」

そんな凪咲とは対照的に、音織の表情は真面目なものになる。しかし、その話し方は何とかならないのか。

音織は慣れた手付きで締太鼓を叩く。

トコトコトコ…と心地よい音が響いた。

移動した瑠璃も真似るように締太鼓を叩いた。

祭囃子は8時まで。明日もある。

「まつりばやし、きつー…」

「凪咲ちゃん」

仕方無いので、篠笛を他の大人へ預けた美心乃が、凪咲をうちわで涼めることにした。

恐らく部活動での疲れが溜まったのだろう。


優月たちは、想大と会っていた。

「小林君!」

椿輝が、法被姿の想大に駆け寄る。想大も嬉しそうに椿輝の肩を叩いた。

「おぉー!」

彼の皮膚には汗が滴る。

「…想大君、お疲れ様」

優月がそう労いの言葉をかけると、

「ういー!」

と独特な返事をされた。

「そうだ!君の後輩と黒嶋さんがいたぞ」

「黒嶋…?トランペットの」

優月は、孔愛と氷空であることに気付いた。

「…誰?」

椿輝は首を傾げる。

「あ、そうだ。優月君にお願いがあって…」

想大は優月に耳打ちをする。

《瑠璃ちゃんに花火大会、8時過ぎに華幽山で良いかな?って》

〈えっ?スマホで連絡しなよ〉

しかし法被にスマホを仕舞えるわけが無い。しかも神輿を担ぎながら返信は無理か、と優月は思ったので、渋々了承した。

本当に悪運が繋がっているな、と優月はつくづく思う。悪い状況が良い状況を覆う。まるで月を雲が覆うように。


仕方がないので、花火大会の件を伝えに行くことにした。

しかし瑠璃は電話に出ない。

(あー、電話に出んわ)

つまらない洒落を心の中で吐きながら、祇園車地帯へと向う。

(…確か、東窪だっけ)

そんな地名が書かれた祇園車へ歩き出した。やはり祇園車地帯は、煌々と鮮やかな暖色の光が包み込む。祭囃子と暖色の光。音と光の世界。

「…あ、いた」

意外にもあっさりと見つかった。彼女は締太鼓を叩いていた。佇まいから上手いことが一目で分かった。

「…すげー音」

長胴太鼓と締太鼓の音が、彼の脳をガツンとぶつ。やはり吹奏楽として聴く和太鼓とは、根本的に違うな、と優月は思った。

手を振ると、瑠璃はアイコンタクトで返す。数分ほど待っていると、瑠璃が直接下りてきた。珍しくツインテールではなく、髪をひとつに束ねている。

「瑠璃ちゃん、急にごめんね」

「大丈夫です!もしかして想大くんから?」

「そうだよ」

やはり瑠璃は想大からの伝言を期待していたらしい。もしかしたら、こうなることが、予め分かっていたのかもしれない。

「花火大会だけどね、華幽山で8時過ぎに…って」

彼女は髪をツインテールに縛りながら、その言伝を聞いていた。

「…分かった!ありがとう。って伝えておいてくれますか?」

瑠璃がそう言うと「もちろん」と優月は頷いた。

「…てか、今日はツインテールじゃないんだね」

優月が言うと、瑠璃は「戻そ」と髪をほどいた。

「えっ、いや!?戻さなくても大丈夫ってか…!」

優月は慌てて止めようとしたが、瑠璃の長い髪が肩から下へ落ちる。

え、可愛い…優月は反射的に思ってしまった。

目の前の美少女は、再び左右の髪を器用に束ね始めた。

「…いいの。どの道、想大くんに会いに行くときは、髪を戻さなきゃいけないし…」

いや絶対ロングヘアーの方がモテるだろ、と優月は心の中で突っ込んだ。それくらい美貌の衝撃がとんでもない。顔は童顔なのに、どうしてか大人びて見える。

そんなことを考えていると、瑠璃の頭はツインテールが完成していた。

「私、小さい時からツインテールで。優愛お姉ちゃんからも、ツインテールの方が可愛いって言われたから、中学校上がってからも、ずっとこの髪型なんだけど」

そう言って瑠璃は、祇園車を一瞥する。少し眩しい。黒鉄の闇など何処吹く風だ、という感じに。

瑠璃は本気で優愛を神格化している。彼女がいなければ、間違いなく今頃潰れていたから。

「…そうなんだ」

「あ、ボブカットは死んでも嫌です」

すると優月を一点に見つめてそう言った。

「髪を縛っていないと落ち着かないので」

「は…はぁ…」

だからロングヘアーにもしないのか、と思った。

すると…

「瑠璃ったら、修学旅行で寝落ちした時も、髪を下ろさなかったのはそういうこと?」

凪咲が聞いてきた。彼女は先ほどまでダウンしていた。

「まぁ、そうだよ。小さい頃に親戚から髪を引っ張られたことがあって…」

瑠璃はか細い声で言うと、優月に小さく手を振った。

「じゃあ、ありがとうございました」

瑠璃は礼儀正しく言って、再び祇園車に乗る。


その時だった。

ドーン!!

花火が空へ炸裂する音と、火花が弾けるような音がした。

「…わぁ」

優月はその光景に目を輝かせた。

暗く沈んだ空に上がる光の花。上がるたび白い白煙が、行く当てもなく風と彷徨う。

「…あ、花火か。風情あるな」

音織はバチを瑠璃に押し付けると、花火の見える場所まで移動した。

「ちょ…、音織ー」

瑠璃は困ったようにバチを構える。この時間、大人が締太鼓を演奏している。瑠璃は仕方なさそうに太鼓を叩き始めた。

「才覚あふれる淑女よ」

まるで騙されたと笑うように音織が言う。そして、空に上がる大量の花火を見上げた。

優月もその場から動かず、花火を撮影した。

(咲慧ちゃんに送るか…)

親友の加藤咲慧に写真を送ることにした。多分、彼女はゆなと行動を共にしていることだろう。


空に上がる赤や青そして金。様々な色の花火が空へ打ち上がる。

「…しゃ、終わった」

神輿の仕事を終えた想大は、華幽山へと歩き出した。ここから歩けば15分くらいか?

その前に瑠璃を迎えに行く。

9時までは上がるので、全く問題はない。

「…すみません、りんご飴ふたつお願いします」

「あい、600円」

今は7時45分。瑠璃の囃子は8時に終わる。

りんご飴を2つ購入した彼は、祇園車地帯へと急いだ。


その頃、優月は親からのメールに顔をしかめていた。

「…はぁ、駐車場は沢山なので、華幽山で9時に集合…はぁ」

華幽山へ行くのか、と優月はげんなりとした顔をした。

その時、こちらへ駆けだす音がする。

「いや、着いた!!」

「!?」

優月は信じられないものを見るように、その人物を見つめる。

「そ、想大君!?」

「おぉ、優月君じゃ。どうして此処に?…あ!」

想大が天空を見上げると、空に無数の花火。

「…綺麗」

「でしょ?」

優月はそう言って、想大の肩をポンと叩いた。想大は何か言っていたが、祭囃子の音で全く聞き取れない。

「…瑠璃ちゃんなら、後ろにいるから」

そう言って優月は消えた。想大は後ろを見ると、太鼓を必死に叩く瑠璃がいた。

(…ふふっ)

可愛らしいな、と想大は思った。

それも今夜で終わるのか、そう思うと儚い気持ちのように見えた。


優月は、友達を探そうと辺りを見るが、友達など誰もいない。最も、茉莉沙や初芽は何度かすれ違ったのだが。

やはり御浦の方に行く友達も多いのか?

そう思っていると、

「小倉先輩!」

と誰かが呼び止める。声の主を辿ればふたりの少女。

「あ、指原さん」

いたのは、希良凛と桜だった。ちなみに希良凛とは、何度も会って話している。だが、隣の桜という女の子は知らなかった。

「…こんにちは。市営でドラムやってましたよね?」

その女の子が優月に詰め寄る。彼は必死に頷いた。それにしても、距離が近い!と思った。

「…あなた、恋愛の女神が纏わりついてますよ」

「い、いや、占い師みたいなこと言うね…」

すると希良凛がはしゃぐように、

「この人、占いできるんですよ」

と言った。

「へ、へぇ…」

そうなのか、と思った。

「私、トロンボーンパートリーダー兼占い師の、蓮巳桜って言います!」

優月もまさか、他校の生徒に自己紹介されるとは思わなかった。

いや、それよりも友達を見つけたい。


「…先輩、今年は1人ですか?」

去ろうとした優月に、希良凛が訊ねる。

「ううん。友達を探しているよ」

「なら、華幽山とかどうですか?結構人いますよ」

「な、なるほど。い、行ってみるね」

「…では、また会う日まで」

希良凛や桜と別れた優月は、花火の上がる川とは反対方向の山を見つめる。

(…行ってみるか)

探してもいないのなら行く価値はある。

仕方無いので、優月は合流兼友達探しに、華幽山へ行くことにした。


しかし、あの悲劇を目の当たりにしてしまうことを、この時は全く考えていなかった。

ありがとうございました!

良ければ、

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【次回】 瑠璃が泣いてしまう。居合わせた優月は…?

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