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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
恋は散り華は咲く 夏休み始動編
124/209

53話 祭囃子と占い師

想大が瑠璃と別れる?

その言葉に優月は口元を手で押さえた。

「…どうして?」

「それは…」

想大は静かに歩き出した。優月も慌てて後を追う。


ふたりは茂華神社の前のベンチに腰掛ける。唐紅の鳥居は影を取り込む。

「…どうして別れるの?」 

優月は気になったことを率直に訊ねる。

「理由はお互いやりたいことがあるから…かな」

「えっ?やりたいこと?」

「ああ、瑠璃ちゃんは吹部で全国に行きたいって言うし、俺は美術の大学に行くためにバイトをしてるから」

「あぁ、そっか」

「…遠距離恋愛って、やっぱりデートとかをして、距離を埋めるものじゃん。だけどデートができなくなったら、やっぱり関係って瓦解するんよな」

「…そうなんだ」

優月には分からない。遠距離恋愛なんてした事がないから。だから一概に否定はできない。

「それに、忙しいからって、顔を合わせることも滅多に無い。だから愛情が薄れてきてる」

愛情、かなり難しい言葉だな、と優月は言葉をため息に替える。

それでも彼は真剣だ。


「…つまり、会えないからお互い辛い気持ちをする前に別れたい…てこと?」

優月が訊ねると、想大は「うん」と言った。

「それに、そもそも俺は、優月くんの時みたいに、ずっと好きだったって訳じゃないんだ」

「…そっか」

「…明るくて可愛くて、本当は優しい所が好きなんだ」

「その長所は、遠距離恋愛じゃ実感できないね」

優月は苦笑気味にもそう言った。

「…それに瑠璃ちゃんも多分、冷め始めてきてるしなぁ」

「んな、バカな」

優月はそう言って、ベンチの手摺りを指で叩く。遠くから響く祭囃子の音に合わせてしまう。

「…瑠璃ちゃんは、そんな子じゃない。だって、想大君と付き合えるあの時まで、ずっと想い続けてきたんだから」

優月は、ふたりの心情を知り尽くしているわけではない。表面上を推理して発言してるだけだ。

「…分かってるよ。そんなこと…」

その時、想大は小さい声でそう言った。

「…多分、瑠璃ちゃんはまだ俺のことが好きだ」

「想大君は?」

「…俺も好きだけど、それ以上にあの子を傷付けたくない…」

その言葉は想大の優しさが込められていた。

このままでは、想大と瑠璃の関係はどこかでややこしくなる。

それを見越しての…。

だから、優月は止めようとしなかった。その分、瑠璃が心配だったが…。




翌日。

午後から、古叢井瑠璃は、友達と集まっていた。目の前には大きな神輿と祇園車。

「…あ、凪咲ちゃん!」

瑠璃は大きく手を振る。

「瑠璃、来るの早いね…。浴衣持ってきた?」

「うん。終わったら会いに行くから」

「ああ、小林先輩と」

「…うん」

瑠璃は小さく頷いた。実は、今日限りで2人は別れる。

理由は、各々のやることに集中したいからだ。遠距離恋愛では、状況的にも精神的にも大変だからだ。

「…そっか。瑠璃は小林先輩と」

凪咲はどこか察したようにそう言った。

「…あれ、久城さんは?」

凪咲はくるりと周りを見回す。

「美心乃ちゃんは、桜ちゃんと」

「蓮巳さん?」

蓮巳桜は、瑠璃のひとつ下の後輩だ。距離感が近く、先輩後輩関係なく接する性格で先生にも、友達同然に接している。

ちなみに吹奏楽部で、トロンボーンを担当しているが、2年生にしてパートリーダーだ。実力も強豪の水準を満たしている。

「…占いしてもらうーって」

「…蓮巳さん、占い師だもんね」

彼女は占いができるらしい。因みに、一度だけ瑠璃も占われたことがあるが、本人からは、

『部活動で大きな奇跡を起こす事でしょう』

と言われてしまった。

実際、矢野の過去を聞き、部員たちへの橋渡し役を担ったので当たってはいたのだが。

そんな桜も、囃子に参加はしているが、途中で抜けて友達と屋台を回るらしい。別に問題はないと、言われてはいるので大丈夫だが、他でやれば大目玉を食らいそうだな、と瑠璃と凪咲は思った。

ドンドン!と大きな太鼓の音が響き渡る。それと同時に数人の大人たちが、紐を引っ張ってこちらへ来る。

「…じゃあ、行く?」

「うん!」

その後、瑠璃と凪咲は音織たちと合流した。


「…やぁ」

瑠璃や凪咲たちは、鈴江音織と会う。凪咲は小さく手を振る。

「…あ、瑠璃ちゃんか。部活以来だね」

音織は手を振る。

「音織ちゃん!」

瑠璃が音織に飛びついた。

「…そういえば、最近、矢野と仲いいよね。何かあったのですか?」

そんな音織が訝しげに訊ねる。

「…そういえば、最近愛想よくされてるような」

瑠璃は思い出したように言う。

多分、話しを聞いてあげたからだろう。

そんなことを考えながら、瑠璃たちは祇園車に乗る。


そして祇園車は、茂華町の様々な所を練り歩く。

「ひぃ、疲れた…」

凪咲は太鼓のバチを瑠璃に手渡す。

「えっ?まだ10分くらいしかやってないよ」

「じゃあ、瑠璃お願いしますー」

「…仕方ないなぁ」

ここは和太鼓経験者の瑠璃に任せることにした。ちなみに彼女はシャトルラン90回の体力猛者だ。

瑠璃は力いっぱいにバチを振り始めた。

そうして練りまわっていると、大通りへと到着した。

「…凪咲ぁ、疲れたぁ」

瑠璃はあれから全く休みを入れずに、叩き続けたので、腕はパンパンだった。

「お疲れ様」

凪咲はファンを手に、そう言って瑠璃の肩を叩いた。囃子の方はそうして順調に進む。



その時、とある場所で優月は友達と連絡していた。想大はいない為、他の友達を誘ったのだが、来るかどうか…。

「…はぁ」

優月は小さくため息をつく。すると優月の肩を誰かが叩いた。


「…瑠璃」

彼女は髪をひとつに束ねながら、あることを思い出していた。とある会話が脳裏をよぎる。

『瑠璃先輩の恋占(こいうらない)してみましょうか』

後輩のトロンボーンパートの蓮巳(はすみ)(さくら)が言う。

『えっ…』

朝の音楽室。これは今日の朝の出来事だ。確か、恋占をしてほしいと言い出したのは瑠璃自身だった。

『…このまま別れると…』

桜は球体の石に敷かれたトランプを、無造作に取り出す。流石、占い師を名乗るだけあって、手つきは本物のようだった。

『自分の本能のままに』

そう言われた瑠璃は、操られたかのように1枚のカードを抜く。

すると、引いたのは黒いスペードのトランプ

『…黒にスペード、恋占では大分凶です』

桜は冷たい声でそう言った。

『…そっか』

いい感じで別れたかった瑠璃にとっては、大分堪える結果だった。


そんな記憶が、脳の奥まで燻り続けた。

大分凶…。そんな結果は嘘だと信じたい。


しかし過程はどうあれ、最後は占い通りの結末になってしまうことを、今は知る由もなかった。

ありがとうございました!

良ければ、

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【次回】 瑠璃と想大 最後のデート…

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