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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
想い切り覚醒 市営コンクール本編
121/208

50話【最終回】 結果 

市営コンクールの結果が出る。

『10番、東藤高校 金賞』

刹那、全員が顔を上げた。

は?嘘だろ?と誰かが言う。

その時、っしゃぁぁぁあ!と歓声が鳴り響く。ゆなが叫んだのだ。心の底から叫んだ喜びの叫び。それに伝染したように優月も叫んだ。

『やったぁ!!』

それぞれが喜びの声を上げた。

他の高校の生徒もこちらを見るが、全く気にしない。

「やりました!」

井土も嬉しそうに何度も頷いた。

「…やった」

心音も崩れて喜んだ。

「…心音、頑張ったね」

初芽はそう言って、心音の背中を叩いた。

『12番、茂華高校 金賞』

『13番、冬馬高校 銅賞』

やはり皆、予想通りの結果だったのか、反応は少し小さかった。

だが、東藤高校は違った。

「…金賞か」

優月は嬉しかった。金賞を穫れたことが。


出入り口。

集合していたのは、先程演奏していた御浦ジュニアブラスバンドだった。

「流石、東藤。やはりポップスには強いな」

そう言ったのは薬雅(やくまさ)音乃葉(おとのは)。トランペットの実力が高すぎる余り、ウラ奏者のひとりだ。

「まぁ、私もビビッと来ましたからね!フルートの音は柔らかかったし、ドラムの音は弾けまくりだったから!」

独特な感想を述べるのは、鈴木(すずき)燐火(りんか)という女の子。彼女は赤みがかった短髪に色黒の美少女だ。そんな彼女のオーボエは技術が最高で、巷では『焔のオーボエ奏者』と呼ばれている。

そこへ1人の男の子が歩み寄る。

「鈴木さん、よく聴いてましたね」

片岡(かたおか)翔馬(しょうま)。彼は音乃葉直属の後輩だ。トランペットの実力は、クラブ内でもトップだ。そんな彼は集中が高まると、話し方が武将のようになる。まるで音織のような人間だ。

「そりゃ、メイちゃんがいるんから、あの方のトロンボーンを聴かねば損でしょうが!!」

メイとは明作茉莉沙のことだ。

「そうだ、鈴木さん、新人の綾中さんは?」

その時、片岡が燐火へ訊ねる。

「…綾中?ああ、あの子ならー」

すると数人の人の束を指さす。

「向こうに」

すると髪を長く伸ばした可愛らしい女の子がいた。

「綾中さんのオーボエ、よかったですね。聴いてて分かりました」

「まぁ、綾中は本番になると、ちゃんとできるバーサーカープレイヤーだからな」

貴女(あなた)のファイアープレイヤーも兼ね、それは違うかと…」

片岡が否定すると、燐火はフフンと笑った。

「…どうした?君は綾中が好きなのか?」

その時、音乃葉が聞いてくる。

「え…いや…、好きでは無いです。ただ上手いなぁ、と」

「本当か?私と綾中、どっちが好きか?」

絶対に答えろ、そんな意味も含められた問いに、片岡は迷うこと無く、

「…そんなの!薬雅さん、一択です!!」

と答えた。その瞳に濁りは無い。

「…だろーなー」

その反応に燐火は両腕を組んで呆れたように、そう吐き捨てた。 

綾中(あやなか)巫琴(みこと)は燐火直属の後輩だ。今年から入ってきたのだが、中学1年生にしては上手い。しかも神平中学校吹奏楽部にも所属している。コンクール等は中学校で出ているが、演奏会などには参加している。

その時だった。

「…燐火さん」

誰かが彼女の肩を叩く。その相手を見て、燐火は嬉しそうに言う。

「おぉ!?メイちゃん!」

「さっき、冬樹くんにも会ってきた」

「君の熱き彼氏か!」

「…ちげーよー」

茉莉沙がげんなりと突っ込むと、音乃葉も歩み寄る。

「トロンボーン、とても良かったぞ。3年間お疲れ様でした」

音乃葉が労いの言葉を掛けると、「どうも」と茉莉沙は返した。

「てか、帰らなくて良いのかい?」

「…今、楽器運び終わってバス待ちなんです。私の後輩もあっちにいますよ」

「君の後輩か。メイにも後輩はできるんだなぁ」

「できますよ」

茉莉沙が苦しそうにも笑い掛ける。

「…そうだ!金賞おめでとう!本当に良かったぞ。曲は知らんけどな」

そこへ燐火と片岡も同じ事を言う。

「私も知らんな!ただ情熱はあった」

「初めて聴いた。良き曲であった」

ふたりも知らないのか、と茉莉沙は少し驚いた。

「…そうだ!沢柳には会ったのか?」

すると燐火がそう訊ねる。

「ああ、手は振られました。知らないフリしたけど」

「えぇ!」

茉莉沙は「冗談ですよ」と笑い飛ばす。

茉莉沙があまりにも笑うので、ふたりも緊張を忘れて大きく笑った。


その時、優月は優愛といた。

「さっき瑠璃ちゃんと話してきた」

優愛が嬉しそうに言う。優月は「そうなんだ」と言う。

「金賞、おめでとう。結果が出て良かったね」

優愛がそう言ってクスッと笑う。優月は嬉しそうに何度も頷いた。

「実は、優愛ちゃんのやつ使ったんだ」

その時、優月がカミングアウトする。すると優愛は信じられなさそうに目を丸める。

「…それは、」

すると優愛はにんまりと目を細めた。猫のようだ。

「…穫れて当たり前だろ!!」

優愛はまるで自分が金賞を掴み取ったかのようにそう言った。

「あはははは」

優月は小さく笑うしか無かった。

そうしていると、スマホから通知音が鳴る。

《全員、エントランスに集合してくださーい》

部長茉莉沙からの通知だった。

「…じゃあ、楽器戻るね」

「うん!お疲れ様!」

優月はそう言って、ロビーへ続く階段を下って行った。

「…瑠璃ちゃんも、優月くんも、結果が出て良かったね」

優愛はそう言って、スマホを握りしめた。


そうして駐車場へ部員が集結する。

「…全員、いますか?いる方は手を挙げてください」

茉莉沙が呼び掛けると、全員が手を挙げた。18人。全員だ。

「では、挨拶をします!お願いします!」

『お願いします!』

するとバスはゆっくりと砂利道を歩き始める。タイヤが砂利を踏むたび、嫌な振動が車内にまで伝わる。

バスは静かに向日葵の花壇を越えて、車道を走り出した。


ゆなは寝ている。優月と箏馬はまた同じ席だ。

「今日は御赤飯ですよ。先輩」

箏馬は金賞を穫れたことに喜んでいる。

「…そうだね」

優月も優しく笑い返した。

その時だった。

『御赤飯のおにぎり、食べるの忘れてたよ〜』

横にいるゆなの声がする。

「す、すみません、起こしてしまいましたか?」

慌てて箏馬が謝ろうとしたその時…。

玖衣華きいか

ゆなの目元から一筋の雫が溢れる。少し日焼けした皮膚を優しく滑る。

「…鳳月さん?」

玖衣華?誰だ?そしてどうして泣いている?

優月は少し気になったが、触らぬ神に祟りなし。彼はゆなを放って箏馬と話すことにした。


バスが学校に着くと、楽器を音楽室に運ぶ。去年はティンパニがあったのに、今年はドラムだけなので全然楽だ。

そう思いながら優月は、スネアドラムを運ぶ。去年は優月ひとりがティンパニを使っていたのに、向太郎たちが運んでくれたことに、罪悪感があったので今年は気が楽だ。

そうして、楽器を運びに、数回階段を上り下りすると、楽器や機材は空になる。


音楽室に再び全員が集結する。

「…はい!市営、お疲れ様でした!せっかくなので賞状はデカデカと飾って、音楽の生徒に延々と見せびらかすのでご安心を。略して伊勢海老(いせえび)

井土がそう言うと、ゆなが「食いてー」と言う。

「まあ、いいや。てことで今日の部活を終わりにします!」

そして本番と部活が終わった。最高の形で幕を下ろしたのだ。


音楽室から少し離れた階段で、ゆなと咲慧は話していた。

「ゆなっ子、来週こそはどっか行く?」

すると、ゆなは不機嫌そうに彼女を見る。

「ごめん。来週は行きたい所がある」

「そ、そう」

「あとゆゆに話した?私のこと」

「えっ、どうして?」

するとゆなは咲慧に向き直る。

「…さっき、玖衣華って誰?って聞いてきたから」

「玖衣華?ゆなっ子の妹じゃん」

そこで咲慧は納得した。

「何も話してないよ」

咲慧が小さな声で答える。

「…そう。それは疑ってゴメン」

ゆなはそう言って目を逸らした。

「どうして、ゆゆ達に過去を話そうとしないの?」

「…それは、」


その時だった。

「咲慧ちゃん?一緒に帰ろう?」

優月がそう言った。優月と咲慧は一緒に帰る約束をしていた。

「あ、うん。じゃあね、ゆなっ子」

「ああ、お疲れ」

ゆなは雑に手を振り、階段を滑るように降りていった。

「咲慧ちゃん、鳳月さんと何を話してたの?」

「ううん、何でもない!」

優月が尋ねようと咲慧は何も答えなかった。


『…あの、鳳月さん』

『何だよ?』

『玖衣華って誰?』

『はっ?』

『いや、気になっちゃって…』

その会話を思い出したゆなは、憎々しげに後ろを見る。何故か彼が『義妹』のことを知っている…。

何でも心配して、知ったフリをして過去を燻り返す彼が嫌いだ。

(目障り…)

そう吐き捨て、ゆなは学校を出て行った。


それから、優月は瑠璃から連絡が来ていた。

『お疲れ様!金賞おめでとう!みんな褒めてたよー』

彼女からの文言が脳内で聴こえる。

(…瑠璃ちゃんたちこそ)

優月は嬉しそうに返信した。しかし少し気になった。

瑠璃からの連絡量が増えた気がする。

その時、咲慧が「どうしたの?」と覗き込んでくる。

「いや、友達から」

「小林って人から?」

「ううん。違うよ」

「…てか、夏祭りは来週なんでしょう?一緒に行く人はいるの?」

咲慧は何故か、夏祭りのことを心配している。

「…まぁ、他の友達を誘ってみるよ」

優月はヘナヘナとしながらそう言った。

それにしても…

「ああ、コンクール終わったねー」

優月が言うと、咲慧も「だねぇ」と言う。目が合うと、ふふっと笑った。

「…あとは盆踊り大会と、演奏会だね」

「そうだね」

盆踊り大会。

しかし、そこで混沌の波紋が広がるということは、彼らは知る由もなかった。

そして、再び退部者が出てしまう危機に陥ることも…。


それにしても…同じ頃、きっと瑠璃もコンクールの結果に喜んでいることだろう。

それを想像すると優月は、自然と優しい笑みが溢れ出た。

だが、夏はまだまだこれからだ。

ありがとうございました!

良ければ、

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【今後の予定】 


51話 鳳月ゆなが小倉優月にキレ出す…。 (・・;)


52話 吹奏楽部初!?ゆながツインペダルに挑戦!


53話 瑠璃激震 占い師 蓮巳桜


54話 瑠璃と想大 最後の日

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