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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]入部&春isポップン祭り編
12/209

春isポップン祭りの章 [準備編]

描写の都合上、オノマトペが多用される場合があります。

この物語はフィクションです。

人物、学校名は全て架空のものです。

ご了承下さい。

合同練習の翌日、春isポップン祭りの当日。


制服に身を包んだ優月たちは、早朝7時30分、東藤高校の音楽室へ集合する。


「急いでー、急いでー!」

そんな彼らを待ち受けていたのは、楽器の運搬だ。


「…がんばー」

小物楽器や譜面の入ったコンテナを運ぶ優月や、譜面台を折り畳む美心たちを見て、ゆなが応援する。

「…鳳ちゃんもやるんだよー!」

それを見た顧問の井土広一朗が、鋭い声で突っ込んだ。

「私、重いの持てなーい!」

ゆながそう言って、欠伸をする。


この人に説教は無意味だ、と優月と美心は肩をすくめた。



それに引き換え、1人、楽器の運搬に力を入れる者がいた。

「俺の筋肉、部内1ぃ!」

そう言って、部員全員の譜面台を運ぶのは、チューバ担当の朝日奈向太郎だ。


彼が筋肉を隆起させる度、くっきりとした割れ目が浮き出る。


「…相変わらず、朝日奈は凄いね」

周防奏音がそう言いながら、ホルンケースを抱えると、

「…向太郎って呼べよぉー」

と気さくに返した。


重そうだと言うのに、こう何時ものように会話ができる彼を見て、優月は、

(シロクマみたい…)

と、コンテナの重さに顔をしかめながら思う。

30分程経つと、楽器の積み込みも終わり、部員全員がバスに乗り込んでいた。


「夏矢君、おはよー…」

優月が欠伸を、疲れた右手で押し殺しながら、隣の席の男の子へ言った。

「ああ…。おはよう」

彼は夏矢颯佚。超強豪校の神平中学校吹奏楽部出身のサックス奏者だ。


「…晴れたねぇ」

そう言って、優月が窓を撫でる。

天気は快晴。風は少し吹きつけるだけだった。





その頃、茂華中学校も準備を、始めていた。

「…グロッケンとドラムは、冬馬高のを借りるから、持ってかなくていいよ」


顧問の笠松明奈の言葉をあとに、優愛が瑠璃と準備を始める。


「おねーちゃん、スティックまとめておいたよ!」

瑠璃がそう言うと「助かる!」と優愛が礼を言う。

「…あと、楽譜も纏めておいてー」

「分かったー!」

2人の連携もあり、パーカッションの運搬はすぐに終わった。


町営のバスに乗り込んだ数人の部員は、最終確認を取る。

「人数、9人、全員です!」

部長の香坂白夜がそう告げると「ありがとう」と笠松が、後方の席を見る。

「では、お願いします!」

すると、白夜が「お願いします!!」と運転手に言う。

『お願いします!!』

部員もそう繰り返した。


すると、ゆっくりバスが動き出す。窓の景色が、みるみるうちに変わりゆく。


しばらくすると、少ない部員での会話があちこちから溢れ出した。

「…うぅ…。ドラム、緊張するー…」

そう言ったのは古叢井瑠璃。彼女は先日まで鍵盤楽器がメインだった。それ故、皮楽器は慣れていない。


「壊さないでね」

先輩の榊澤優愛が冗談めかして言う。

「うん…」

しかし緊張のせいか瑠璃には、冗談が忠告のように聞こえてしまった。





その時、東藤高校もバスで移動の最中だった。


「…小倉君は、どうして吹奏楽部に入ったの?」

突然、颯佚が優月へ尋ねてきた。

「…っえ!」

彼はイヤホンで音楽を聴いていた筈だ。いきなり話しかけられてドキッとする。


しかし友達を作るチャンスだ。ここは答えねば。

「…うーん。井土先生の影響もあるけど、元々は好きな人に憧れたことかな…」

「なるほど。そういうキッカケもあるのか」

颯佚がフムフムと首を縦に振る。

「…茂華も強豪校だものな」

「ふふ…知ってる」

優月はそう言って、懐かしそうに笑う。

その話しを、優愛から何度聞かされたか…。


「夏矢君も、サックス上手いのに、どうしてここの高校に入ったの?」

優月はふと気になってそう訊ねる。入学式のあの時、『下手くそ』と言ったのは間違いなく彼だ。

吹奏楽なら、神平高校や茂華高校、御浦高校等に入学した方が間違いなく上を目指せるだろう。


彼より上手いサックス奏者を優月はまだ知らない。彼の実力なら、問題無く他の高校でも通用しそうなものだが…。


すると、颯佚が不遜な声で答える。

「俺は元々、吹部に入る気は無かった」


「…っえ?そうなの?」

すると、彼は嫌そうに辺りを見る。

「…で無けりゃ、こんな下手吹(へたすい)に入る訳ないだろ…」

言い方は散々だが、確かに…と優月は納得する。


…あとで話してやるよ、そう言って彼は、スマホをいじりだした。



もしかしたら彼は分かっていたのかもしれない。

このあと、この吹奏楽部に退部者が続出することを。





ー道の駅色桜ー

道の駅、色桜(しきおう)は、桜の名所で有名な道の駅だ。プールや温泉、レジャー施設やホテルまである万能施設だ。


「挨拶します。ありがとうございました!」

部長の雨久朋奈(さめひさともな)が言うと、全員が繰り返す。

すると、トラックは何事もなかったかのように去って行った。


「…はぁ。疲れた」

そう言ったのは、テナーサックスパートの齋藤菅菜(さいとうかんな)だった。

「そだねー」

弦楽器担当の奏澪(かなでみお)もそう言った。

行きは喋りが多かったので、帰りはぐっすり寝ようと思う。


「…わぁ…」

4月の下旬だと言うのに、道しるべのように植えられた八重桜は誇らしげに咲いていた。

「小倉、綺麗だな…」

ゆなが言うと「だね」と優月は頷いた。


「…ほら、早く、準備するよ!」

そんな2人に水を差すように、美心が注意する。

「…もう着いてるの?」

ゆなが不満気に訊ねると「うん」と頷いた。

「…てか、何運ぶの?」

しかし、絶えず続くゆなの質問。


しかし美心は的確に指示を出す。

「小物楽器と譜面台!小物は小倉君で、ゆなは譜面台持ってって!!」

そう言って、美心は雨久や奏音のいる所へ戻って行った。



「…美心。お疲れえ」

奏音が労いの言葉と共に、彼女の肩をポンポンと叩く。

「奏音ちゃん、ありがと~…」

と美心はよろよろと蹌踉めいた。単に2人の扱いもあるが、疲れの原因は寝不足だ。彼女の瞼に、クマがくっきりと浮かんでいる。


「あれ、もう1人の副部長は?」

すると、雨久が辺りを見回す。

「朝日奈なら、こき使われてるかもね…」

奏音がそう言って、口角を上げた。



朝日奈向太郎と齋藤菅菜は、荷物持ち要員として部員から持て囃されている。



「…奏音、レミリン置いてきて、ついでに朝日奈君を呼んできて!」

雨久が奏音へそう指示をする。

「了解!」

そう言って、奏音はスキップするようにホールのある建物へと入って行った。



地下室のような薄暗い空間を下った先には、小ホールがあった。

「齋藤先輩、ありがとうございます」

楽譜を、持ってもらった降谷ほのかが菅菜へ礼を告げる。

「大丈夫よ」

そう断って、菅菜は譜面台を床へ立てる。


ゆなも「ありがとー」と気さくに向太郎に感謝した。

どうやら、向太郎に手伝ってもらっていたらしい。

ゆなは美しくも可愛い容姿だ。それ故、男子にも甘え上手である。ズルいな…と優月は、どこか心の底で思っていた。

多分、こういう人間は大人になったら、大成するか、苦労するかの2択だろう。



時を同じくして、既に茂華中学校の演奏は、始まっていた。

ミセスの曲だからか、手拍子で盛り上がる。


優月たちも準備を終え、ステージへと行く。

すると丁度、何の偶然か、部長の、香坂がマイクを片手に何か、話していた。

『…今から、私たちと一緒にリズムを真似しましょう!』

すると、優愛がバスドラムのペダルを踏みつける。跳ね上がったビーターは正確に音を刻んだ。

ド、ド、ドド、ドン!

すると、香坂たちが手拍子で真似するように同じリズムを打つ。瑠璃はタンバリンを前に突き出し拍手と同時にタンバリンを叩く。

パン…パン…パパ…パンッ…!

観客も、まばらに拍手を繰り返す。


『あれれーぇ、元気がないぞぉ?』

その時、香坂がわざとらしくそう言った。普段は真面目な彼女の言動に、優愛含めた3年生が笑ってしまう。


元気はあるんだ、やる気がないだけで、と優月はド正論を突っ込みたくなったが、口には出さなかった。


『…もう一回、行くぞー!』

すると優愛が、踵をペダルへ落とす。


ドン!ドン!ドドド…ドンドド…ドン!


さっきよりも大きなバスドラの音。すると、香坂が更に天へ、両手を突き出す。

優月たちは、やらせでもされているかのように、

パン!パン!パパパ…パンパパ…パン!

と手拍子を打つ。


優月は、何度も演奏を聴いているが、この演奏は初めて聴く。恐らく、少数ながらもこれが1番盛り上がるからだろう。


「茂華はドラム下手なのね…」

しかし、ゆなが率直に感想を述べた。

「黙ってみてろ」

優愛のことを言われた優月の口調が鋭くなる。

「…はいはい」


しかし、あれでも下手なのか…。

ゆなは確かにドラムが上手い。だが、他の楽器は?と訊かれると、遥かに優愛の方が上だ。


優月は本来、生真面目な性格だ。大切な人を貶されれば、流石の彼でも怒りたくもなる。




その時だった。

ヌッと誰かの手が、優月の肩を掴む。

「…誰!?」

優月は怖くなって後ろを振り返る。

すると、そこにいたのは、親友の小林想大だった。

「…そ、想大君…」

「優月君、見に来たよ」

刹那、桜を散らすほどの強い風が吹きつける。


「…実はな、僕も吹部に入ろうか、迷ってるんだ…」

想大の一言に、優月は信じられなさそうに彼を見た。


彼としばらく話していると、出番が来た。

「…小倉、本番だ」

冬馬高校の演奏が終盤へ、差し掛かったその時、ゆなが彼へ呼び掛けた。


「…分かった」

優月が返事をすると、想大の方を振り返った。



「優月君、頑張ってね」

想大の激励に優月は「ありがとう」と返して、ステージ脇のテントの方へ歩いて行った。




そしてこの後、彼らの暴走が始まるのだ。

ありがとうございました。

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次回

優月と瑠璃、奏音が暴走…。

春isポップン祭り 完結!!

新東藤高校吹奏楽部始動

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