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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
想い切り覚醒 市営コンクール本編
118/208

47話 決戦!市営コンクール

「それでは、部活を始めます。ちなみにこの前のホール練習に来てくれた周防先生もいるんで、頑張っていきましょう!」

その言葉で部活は始まった。

指導者の周防結愛。この高校の卒業生である周防奏音の母だ。結愛は吹奏楽の優秀な指導者でもある。

「さて、通しからお願いしますね」

『はい!』

こうして合奏しては指導され、合奏しては指導されを繰り返した。

「はい!加藤さん、そこのバッキングできるようになりましたね」

「は、はい」

咲慧は結愛からの指導が終わりへたれこむ。

「これ終わればムゲンジョー」

「その前に無限指導だな」

颯佚がそう言うと、イライラしてたのか「るせー」と怒るように言った。

そうして、最後の合奏が始まった。結愛が終始手拍子をしてくれたので、最後までペースを落とさず演奏を終えることができた。


「あい、ギターを持って下さい」

井土がそう言って、優月にギターを手渡す。

用途は単純明快。井土がギターを弾く為に使うからだ。

「はーい」

優月は返事と同時に、ギターケースを抱えた。体の小さい優月にとっては、少し重く感じる。

「ゆゆ、それ運んだら、グロッケン持ってけー」

その時、ゆなが言った。

「ああ!」

優月は返事を残し、階段へと姿を消した。


市営コンクールとは、御浦市が主催の吹奏楽コンクールだ。とは言え、ゴールド金賞を獲った所で次の大会へ進めるわけでは無いが、1週間後の地区・県大会へのアドバイスをくれる。

何といっても、小学校、中学校、高校、楽団ごとに結果が下されるが、金賞への倍率が存在しないので、良い演奏をすれば、金賞を穫れる弱小校もある訳だ。


翌日。

優月たち、東藤高校の部員は、御浦市民ホールへ到着した。爛々と向日葵がバスを迎える。

「…あっつー…」

ゆながそう言った。優月はその言葉に「だね」と頷いた。

「…先輩、ここ来るの数週間振りですかね?」

久遠箏馬が尋ねる。優月は「そうだね」と頷いた。他の学校のバスも停まっている。

「日光学園に、足浜中。何で県北の方が?」

むつみが不審そうに言う。わざわざ御浦市にまでコンクールに来ることあったのか?

「日光はともかく、足浜は強いんですか?」

美鈴が尋ねる。すると茉莉沙はこう答える。

「…まぁ、足浜は強豪だからね」

聞けば数年連続金賞を受賞しているらしい。

「じゃあ、早くいきましょう!」

「もう足浜中、終わってるよ」

「えぇ!?見たかった!」

「ちなみに日光ももう終わってる」

「日光がくえーん!」

美鈴が落胆すると、茉莉沙は励ますように彼女の肩をさすった。


一方の優月は、ゆなとバスのトランクに入った小物楽器や機材を取り出していた。

「…来たかぁ」

優月は緊張していた。その時、

「ゆゆ、これコンテナに入らないから自分で持ってけ」

ゆなが優月にスティックを押し付ける。いつも使っているものだ。

「えぇー、無理矢理にでも入らないの?」

「重いから無理。まぁ、他にも沢山スティック入ってたし大丈夫っしょ」

ゆなは他人事のようにそう言って、楽器の入ったコンテナを運び出した。優月は不遜な気持ちを隠し、スティックをリュックに入れた。

しかし、そのスティックが本番で使われることは無かった。


その後。

「先輩、スティックにも名前付けてるんですか?」

優月は志靉と共にいた。ホールの扉前で2人は、次扉が開くまで待っているのだ。

「スティック?」

優月は首を傾げる。

「そうです。ドラムにパールちゃんって名付けてるので、もしかしたらスティックにも付けてるのかなぁって」

まさか、スティックにまで名前を付けている訳がない。

「つ、付けてないよ…」

優月がそう言うと、志靉は「まぁですよね〜」と最初から分かっていたかのように言う。

「…私のガッコーでも付けてた人いませんでした」

「そりゃあね」

優月は力なく笑った。

「でも名前付けると愛着が湧くそうですよ」

「愛着ねぇ」

優月はそう言って、モニターを見つめる。そろそろ曲が終わるだろう。


その通り、冬馬中学校の曲は佳境へ入っていた。

鳴り響くシンバルの音。トランペットの高鳴る音がホールいっぱいへ響いた。

(…冬馬、少し下手なった?)

咲慧はそう思いながら、楽器を吹く生徒たちを見守った。


「ふー、やっと入れた」

ようやく優月と志靉は、中へ入ることができた。2階席はよく見える。

「おっ…、僕の母校だ」

すると諸越冬一が嬉しそうに呟く。

「えっ?冬一くん、どこ中だったの?」

「中学校は野村中だった」

「へぇ」

志靉が納得すると、野村中学校の演奏が始まった。野村中学校の演奏は、茂華中学校のように何かに秀でている訳でもなく、冬馬中学校のように何かが欠けているわけでも無く、ごく普通な演奏だった。

(…普通だなぁ。野村中)

恐らく今回の結果は、良くても銀賞だろうな、と思った。これなら東藤中学校の方がきっと上手い。

優月はそう思っているが、何かをミスしている訳ではない。だが、人の心を動かすまでの何かが無かった。


こうして中学校の演奏は、従順に過ぎ去っていく。

茂華中学校の演奏だ。


「すご…」

「…だね」

優月と孔愛が言葉を失う。トランペット以外のオーボエたちの音も最高だ。 

希良凛のタンバリンは聴いていて心地よい。優月の技術に匹敵しそうだ。

そして曲は佳境へ入る。盛り上がる。

タムタムの音とシンバルが鳴る。それを一言で表わせば勇敢。管楽器の音と上手く融合している。

「…ほぉ」

茉莉沙も言葉を失う。

曲は一度も落とすこと無く、終わりへと進む。

オーボエやフルート、サックスなどの音が優しくホールを包んだ。

何より特筆すべき点はトランペットだ。上手い。言葉では表せない。何だか強い信念が籠もっているかのようだった。

そして瑠璃のティンパニの技術も至高の領域だ。音を抜かすこと無く、一音一音心が籠もっている。去年とは全く違う必死な演奏。打ち鳴らされる正確な音。その音は何人もの観客の心を打ったことだろう。優しい管楽器の音に包まれ、茂華中学校の演奏は幕を閉じた。指揮者の笠松が観客たちへ向くと、割れんばかりの拍手が送られた。流石、茂華中学校、と誰かが言った。


その後、休憩時間になった。優月とゆなは、共に部員たちと合流しょうと歩いていた。

「…前から思ってたけど、茂華のツインテールの子、欲しいなぁ」

ゆながふとそう言った。その言葉に優月の心臓がドクン!と波打つ。

「…まぁ、上手いもんね」

優月は相槌を打つ。

「…ティンパニもだけど、ロールとかも上手い」

ゆなが素直に認めるということは、瑠璃の実力は相当なものなんだなあ、と優月は感心した。

「ゆゆ、あの子さ、東藤に来ない?」

ゆながそう尋ねる。

「え、分からない」

瑠璃の進路は想大からも聞いていない。

「まぁ、誘っといて」

ゆなはそう言って、先に階段を降りて、集合場所へとズカズカと歩いて行った。

それと同時に、茂華中学校の部員とすれ違う。

「…瑠璃ちゃん」

凄いな、と彼は思った。その時、瑠璃とすれ違う。

「優月先輩、こんにちは!」

「あ、お疲れ様…。またね」

優月は手を振って、適当な言葉を返す。労いの言葉に彼女は、笑顔になる。

「うん!ばいばい!」

瑠璃は演奏が終わって、気が抜けたのか、足取り軽く階段を上っていった。

階段で数秒の再会。しかし何故か、優月は彼女の表情が気になった。まるで不穏な未来を示すかのように。


そして時間は過ぎ、いよいよ本番へのリハーサルも終わった。

「さて、では楽器を持って行きましょう」

井土の言葉に、全員が舞台袖へ続く通路を歩き出す。様々な制服の生徒とすれ違う。

「…心音ちゃん、大丈夫?」

緊張するだの、騒ぐであろう心音を見つめる氷空だが、目を丸める。

「大丈夫」

心音は今までにないほどに真剣な表情をしていた。そしてパッと瞳を開くと彼女の短髪が揺れる。

「…絶対にやってやる」

そんな独り言を心音はひとり浮かべた。

父に評価されるのだから力が入るのだろうな、と氷空は少しだけ笑った。

「…先輩、緊張しますー」

諸越もほのかにすり寄っていた。

「緊張…するよね…」

そう言ってほのかはクスリと笑った。幾つもの本番を乗り越えた彼女は、そうでも無かったが…。

「頑張ろうな、加藤」

颯佚が言うと咲慧も「うん」と震えながら頷き返した。

そうして各々が緊張感を持って会話していると、舞台袖へと到着した。

後ろには茂華高校吹奏楽部がいる。

「…ふぅ、やっぱり御浦(みうら)(ひがし)は上手いな」

ゆなはそう言いながら、スティックを構える。その表情は今までになく真剣だ。どこの中学校や高校も完成度が高い。自分もしっかりしなければ。

そう決意したゆなは、ステージを重い視線で見つめた。

優月は緊張を紛らわす為なのか、素振りしながら他校の演奏を聴いていた。ティンパニと和太鼓の力強い音は、去年の茂華中学校を思い出させられる。

茂華中?そういえばスティックがやけに重い。

「…あ?」

その時、彼の握るスティックが、いつものスティックでは無いことにようやく気が付いた。

「…あ、忘れた」

それを聞いた井土は「何を?」と聞いてくる。舞台裏だからか、その声は驚くほどに低い。

「あ、いや、マイスティックを…」

「…でも、今持ってるやん」

井土は、大丈夫そうに柔和な笑みを浮かべる。

「まぁ、使い慣れてない物なんで…」

すると井土は諦めたように肩をすくめた。

「まぁ、忘れた物は仕方ない。それで頑張ってください」

井土はそう言った。

優愛から貰ったこのスティック。ジンクスがあるのであまり使いたくなかった。優月は正直不安になった。


いよいよ本番…。

果たして金賞を穫ることはできるのか?

ありがとうございました!

次回へ続きます!


【次回】

月に叢雲華に風 小倉と岩坂の覚醒。

恥ずかしいか青春は 鳳月の本気。

金賞を穫れるのか?

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