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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
想い切り覚醒 市営コンクール本編
112/208

41話 1年生の秘密

ホール練習の前半が終わり、夕食のための休憩が取られた。優月はひとり、ファミレス『シェスター』に向かった。そこにいたのは…。

「あれ?先輩?」

聞き覚えのある声。ドアを開けて声のする方を向く。

「あ、ありがとうございます!」

「すみません!」

藤原(ふじわら)美鈴(めいりん)國井(くにい)孔愛(こうま)だった。そこへ更に、海鹿(うみしか)美羽愛(みはね)高津戸(たかつと)日心(にこ)

「わっ!優月先輩」

「感謝致します」

1年生4人は、優月より先に店内へ入る。優月も慌てて彼女たちを追った。

『いらっしゃいませ。何名様でしょうか?』

「えっと、5名で」

店員の問いに美鈴がそう答えた。

「えっと、先輩、一緒にどうですか?」

美鈴が言うと、優月は有難そうに頷いた。

「ありがとう」

「いえ。孔愛、行くよ」

「はーい」

その時、背後から視線を感じた。

「…」

「ん?」

そこには少し恐ろしい形相をした美羽愛。その瞳は優月を捉えていた。

「美羽愛ちゃん?」

優月は小さく首を傾げる。しかし美羽愛は何事も無かったかのように、日心と歩き出した。


優月は孔愛と美鈴と共に座ることになった。

「…はい、メニュー表」

優月は(テーブル)の上に、メニュー表とお子様ランチと書かれたメニュー表を置く。

「あ、ありがとうございます」

美鈴はそう言って、メニュー表を取る。すると孔愛の手元には、お子様ランチのメニュー表だけが残る。

「えっ?お子様ランチ!?」

「いいじゃん!お前にぴったりよ」

慌てる孔愛と対照的に美鈴はケラケラと笑う。

「あ、ゴメンね!」

その様子を見て、優月は通常のメニュー表を渡す。それにしても…これが2人の本性か、と思った。

「そういえば、しーちゃんは?」

しーちゃんとは、大橋志靉のことだ。

「あ、志靉ちゃんなら、朝日奈さんから指導受けてますよ」

「へ、へぇ。偉いね」

「朝日奈さんってイケメンですよねぇ」

美鈴がそう言いながら、メニュー本の冊子を開く。チキン、ハンバーグ、サラダ、パフェ。どれも美味しそうな料理がズラリと冊子いっぱいに広がっていた。

「美鈴ちゃん、何にするか決まったか?」

すると既に食べるものを決めた孔愛が訊ねる。

「おまえは?」

「俺はチキン」

「じゃ、私、ハンバーグ」

そうして談笑する2人に優月は話しかける。

「2人共、ご飯とパン、どっちにする?」

「私はご飯で」

「分かった」

すると孔愛は首を横に振る。

「あ、俺いいんで」

その言葉に、優月と美鈴が凍りつく。

「えっ?おまえ、ご飯食べないの!?」

「俺、家でもご飯を食べないんで」

サラリとそんなことを言う孔愛に、ふたりは苦笑する。

「…じゃあ、ハンバーグ2つ、ご飯2つ、チキン定食1つ、あと…」

「先輩!ドリンクバー頼みましょう!ドリンクバー♪」

鼻歌混じりに美鈴が言うので、優月はドリンクバーも注文することにした。

そうして注文すると、各々飲み物を取ってきた3人は、話すことにした。

「先輩、ホールの練習って、何時まででしたっけ?」

「8時50分までだよ」

それを聞いた美鈴は、体を仰け反らせる。

「ひぇー、まだまだですねぇ」

「ほんと」

優月はそう言って笑った。この後もまだまだ合奏だろう。

そんなことを考えていると、美鈴が突然話を変える。

「そういえば、先輩は古叢井ちゃんと仲いいそうですね?」

「えっ、瑠璃ちゃんのこと?」

古叢井瑠璃。茂華中学校の吹奏楽部で打楽器を務めている。そして偶に演奏のアドバイスも受けている。

「…いやぁ、あの子と同じ小学校だったんですけれどね…」

「えっ?じゃあ、美鈴ちゃんも大内?」

「あ、そうです!!」

そうだったんだ、優月はそう言葉を転がす。

「…私、大変だったんですよ!!あの子に40発くらい殴られました!!」

「えっ?何したの?」

「いや、ただ古叢井ちゃんの作った砂の城を壊して…。私、小さい頃から、人の積み上げたモノを壊すの好きだったんで」

「分かる!」

美鈴に孔愛も同意する。中々やばいな、と心の底で思いながらも、笑いを作る。

「そりゃ、怒られちゃうよ」

「でも殴ること無かったんじゃないですかね!?」

「まぁ…確かに…」

優月はそう言って、コーラをストローで吸う。メロンの風味が口へ広がる。

「…まさか、茂華に行ってたなんて…」

「瑠璃ちゃん、本当に変わり者だったんだね」

「はい、まぁ、根は優しい子なんですけれどね」

箏馬、孔愛、日心、美鈴までもが、瑠璃を知っている。そして全員が口を揃えて『変わっている』と言っている。そんな彼女の心を開いた優愛を心の底から尊敬する。


「あ、先輩!怖い話は好きですか?」

それからも彼女のマシンガントークは止まらない。今度は彼女の過去話を聞かされることになった。

「私、小さい頃にオッサンから連れ去られそうになったんですよ」

「ふふ、美鈴ちゃぁん可愛いからな」

「お前は黙れ」

美鈴と孔愛の会話は漫才のようだ。2人は相性が良いんだろうな、と思いながら話を聞いてみる。

「それで、私が小5の時だったんですよ。私、帰り道、オッサンに話しかけられたんです。飴食べる?って」

「うん」

「で、私は当時、飴が欲しかったので『食べる』って言っちゃったんですよ」

「美鈴ちゃん、可愛い!」

「スルーするね。それで何度か、学校の帰り道に飴を貰ってたんですけど、それを仲のいい友達に見られちゃいまして…」

そこで彼女は、数秒間ストローを啜った。ごぽぽぽ…とコップ内部の水分は露だけになる。

「誰から貰った?いつから貰ったんだ?って、その友達に詰められたんです」

「…へ、へぇぇ」

「私は、そのオジサンのことを正直に話したんです」

「う、うん…」

「そしたら、そのオジサンが、いつも君のあとを付けてるよって言ってたんです」

その時、優月の背筋が凍る。嫌な予感がする。今ここにいて、元気に暮らしているということは、大した事態に陥ってはいないのだろうが、怖い。

「…いや、嘘だろ!って思って、放置してたんですけれど、冬のある日に私はそのオジサン…いやジジイに連れて行かれそうになったんです」

「おお!美鈴ちゃん、大ピンチ!」

孔愛は結末を知っているのか、話を持て囃している。

「で、私は、ああ、ジジイの家に監禁されんのかぁ、って思ってたんですよ!そしたらですね!!」

その時、彼女の表情が明るくなる。

「雲突き抜け、風切り裂いて、その友達が助けに来てくれたんです!!」

「へ、へぇ」

最初のフレーズはとても人類が出来そうにないことを、と内心思ったが、多分彼女なりの誇張だろう。

「その友達は、トロンボーンケースで、ジジイの頭を殴りました!」

「…トロンボーンのケース…で?」

「はい!私、それからトロンボーンに興味を持ちました!」

トロンボーンを始めた動機がめちゃくちゃだな、優月はそう思いながら苦笑した。

「美鈴ちゃん、大変だったんだね…」

「まぁ、私は全然。その頃はアホだったんで」

そう言って、優月の言葉を美鈴は、高笑いで弾き飛ばした。

「まぁ、そんな事があって、私は髪を切らされました。ロングヘアだと可愛すぎるって言われたんで」

「いや、美鈴ちゃんはボブだろうと可愛い!」

「はいはい」

孔愛は相変わらずのテンションだった。

「…だから、ボブカット」

美鈴はどこか可愛らしい表情をしている。その容姿がロングヘアだったら、本当に可愛いのかな、と優月は少し気になった。

『おまたせしました』

その時、優月と美鈴のハンバーグが運ばれる。孔愛のチキンはまだのようだ。

「じゃあ、早く食べて、ホールに戻りましょう」

そう言って、美鈴はフォークでハンバーグを切り始めた。しかし肉塊はゴロゴロと乱雑に崩れる。

「うわっ!難しい!」

「えっ?大丈夫か?」

孔愛が慌てて突っ込んでくる。


ややあって、孔愛の料理も運ばれてくると、話しが更に盛り上がる。

「そういえば、箏馬!箏馬をどうやって部活に戻したんですか?」

「えっ?箏馬君?」

孔愛の話しの切り出しに、優月は答える。

「それは…、少し話を聞いて、頑張れ!って」

「なるほど。アイツの親、やばいですからね」

「…まぁ、確かに」

箏馬は大変だっただろうな、と苦笑した。

「そういえば、先輩は中学から吹部だったんですか?」

すると、美鈴の問いに優月は首を横に振る。

「ううん。高校から。好きな人に憧れて」

その返答に「きゃー」と美鈴は口元を手で押さえ、黄色い声を出した。

「その気持ち、分かります。俺も好きな人に憧れて、楽器を変えようとしたんで」

優月は、彼の恋事情など知らない。

「へぇ。何の楽器?」

だから、こう尋ねた。

「ユーフォ…」

孔愛が、悪びれも無く答ようとしたその時だった。

「!?」

背後から殺意を感じる。その誰かからの殺気に、孔愛は震え上がると、苦笑で誤魔化した。

「…で、でも小倉先輩、1年目にしてはドラム上手いですよね」

「そ、そう?1年生の時から練習してたからかな」

「そ、そうなんですか…」

孔愛が納得しようとすると、優月は重々しく口を開く。

「まぁ、ちっちゃい時にバケツドラムをやってたから…ってのもあるけど」

「バケツドラムって何ですか?」

孔愛が訊ねる。

「バケツを太鼓代わりに叩いてたって事ですか?」

そこに美鈴が質問を重ねる。

「そうだよ。小さい頃はすごく暇だったから、物を叩いて時間を潰してたんだ」

「それで、どうして吹奏楽を始めなかったんですか?」

すると優月が目を細める。

「それはね、好きな人に出会ったからだよ。それからは、絵を描く方が好きになって。それに好きな人と遊んで、暇な時間が消えたしね」

その瞳は、もう戻れないくらい遠い先を見ているようだった。

「…まぁ、もしあの好きな人と出会わなかったら、吹奏楽はやっていなかったかもね」

「そんな、小さい頃に叩いてた経験が」

美鈴が名残惜しそうに言う。しかし優月の顔は、少し沈む。前までは心ごと拒絶していたはずなのに、今は何とも思わない。

逆に無邪気ながらも、本気で叩いていた。リズムも自在に刻めたあの頃が、今は懐かしい。

その時、優月がリュックの中へ手を突っ込む。するとカランと木と木がぶつかるような音がした。

(だよね、優愛ちゃん)


そして、料理が食べ終わると、優月たちは一足早く、ホールへ戻った。

「先輩、お会計しておきますね」

2人から食事代を徴収した美鈴が、会計をしにレジへ向かった。

「うん、ありがと」

優月は礼を言う。

その時だった。


「先輩」

なんと美羽愛が話しかけてくる。

「ん?」

「お先ですか?」

何故か彼女の声は掠れていた。何かに怯えているようにも聞き取れる。

「あ、うん。先帰ってるね…」

「分かりました」

美羽愛は小さくため息を吐いた。優月に言いたいことがあったのに。


それでもホール練習はまだまだ続く。

ありがとうございました!

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