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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]入部&春isポップン祭り編
11/208

東藤と茂華 合同練習の章

描写の都合上、オノマトペが使われることがあります。

この物語はフィクションです。

人物、学校名は全て架空のものです。

著作権の都合上、実在する曲を似せる場合があります。

全て、ご了承下さい。

帰り道の優月が出会った人物は、トロンボーンの明作茉莉沙だった。

「…先輩」

優月が声を掛ける。


「…お疲れ様です」

すると茉莉沙がそう言って、小さく頭を下げた。

「あ…」


先輩に、先に言われてしまった。どうしょう。

取りあえず、思案していても仕方がないので、

「…お、お疲れ様です」

と同じことを、言い返した。


空は黒みを帯びていた。春といえど冬の日の短さは抜けていない。


「…どうしたの」 

茉莉沙が、気になったように、そう訊ねる。そんな彼女に、優月は、

「いえ…。あの、トロンボーン、上手ですね」

と言う。

「…ありがとうございます」

しかしそんな賞賛も、茉莉沙には効かないようだ。

何を言おうと、会釈するだけだ。

「あの、中学校の時からやってたりするんですか?」

優月がそう訊ねると、茉莉沙は首を横に振った。

「いいえ。あなたと同じ…」

そう言って、茉莉沙はトロンボーンをケースに仕舞った。


その言葉の意味が彼には全く分からなかった。




数日後、冬馬高等学校。

「…はい!皆さん、おはようございます!」

顧問の井土広一朗が校庭に吹奏楽部員を集める。


この日は県立冬馬高校で、東藤高校、茂華中学校との合同練習の日だった。


「今年は1年生が多いので、1から説明しますと、今日は冬馬高校で合同合奏をします」

そう言うと、鳳月ゆなが手を挙げる。

「先生、冬馬中は来ないんですか?」

すると、井土は「はい…」と苦笑する。

「部員が少ないのでね。今回は茂華中の子、まぁ全員は来ませんが…ちゃんと面倒を見て下さいね。特に小倉君!!」

それを聞いた優月は「はい!」と叫んだ。

彼は茂華中学校出身だ。逆に緊張する…。


何しろ、好きだった子に会えるのだ。


「…小倉、知ってる子、いるのか?」

ゆながそう言うと、優月は「いるよー」と項垂れる。

「まぁ、パーカッションパートの子としか話してないんだけれど…」

「ふーん…。何人いるの?」

「…2人」

優月がそう答えると「ふーん」と大して興味がなさそうに言った。

「なんか…その反応、ムカつく」

優月が冗談めかしてそう言うと、

「御冗談を〜…」

とゆなが彼を煽った。


ゆなは少し賢いな、と思う。冗談を言うタイミングも煽るタイミングも全て空気が読まれている。

だからこそ、ここまで人を煽っても、嫌われないのだろう。

 

その時だった。

「…はい、パーカスの子も手伝ってあげて!」

そう言ったのは、茂華中学校の顧問である笠松明奈だった。


「…笠松先生」

優月が思い出したように言う。


するとそんな彼は誰かと目が合った。

「…あ」

優月は、その人物を見て、小刻みに震えた。


古叢井瑠璃(こむらいるり)。パーカス担当の中学2年生だ。彼女は『ティンパニ破壊事件』というティンパニの皮を何度も叩き破った事件をキッカケに、鍵盤楽器しかやらせてもらえなくなったのだ。



「…それより、鳳月」

優月が彼女の肩をたたく。

「何か?」

「…鳳月は部活、中学の時は何だったの?」

「…和太鼓部」

彼の問いに、ゆなはあっさりと答えた。

「わ、わだ…和太鼓?」

「…そう。部員は3人いて、1人は別の高校、もう1人は、ひとつ下の子で今は不登校」

凄い情報…と優月は顔をこれでもか、というくらいに引きつらせた。

「あ…アハハハ…」

すると不思議なことに、声を出しても、乾いた笑い声しか出なかった。




その後、東藤高校吹奏楽部員が先に音楽室に入った。

「…ひ…広っ」

そこは、東藤高校同様に、ティンパニやグランドピアノが設置され、ドラムセットが2台もあった。


YAMAHA、Pearl…

「ふむふむ…」

ゆなが、ドラムのメーカー名を見て、フムフムと頷く。

「…何、気にしてるの?」

田中美心がそう訊ねると、ゆなは「別に」と答えた。

何かある…と一瞬、考えがよぎったが、傍観していた優月は黙っておくことにした。


すると、ぞろぞろと中学生が入ってくる。

「…香坂さん、挨拶…」

副顧問の中北楓がそう言うと、部長でフルート担当の香坂白夜が、

「お願いします!」

と声を張り上げる。

『お願いします!!』

また、部員も繰り返した。


人数は約10人。その中には、優月の後輩もいた。



やはりしっかりしているなぁ、優月がそう思っていると、部長の雨久朋奈(さめひさともな)

「挨拶します!お願いします!」

とお辞儀する。それが合図だったかのように、

「お願いします!」

と彼らも繰り返した。


すると、少し年配の男性が

「お願いします」

と言う。顧問だろう。

「…パーカッションの子以外は、各教室に待機させています。各々、練習を始めてください」

『はい!』




そして、練習が始まった。


ーパーカッションパートー

「まず、自己紹介から…」

そう言ったのは、冬馬高校吹奏楽部の打楽器担当の、山澤苺(やまさわいちご)だ。高校2年生らしい。

「…東藤高校、3年、田中美心です」

「同じく、鳳月ゆなです」

「お、同じく、小倉優月です」


するともう1人の女の子が、前へ出る。

「始めまして。茂華中学校、2年、古叢井瑠璃(こむらいるり)です。…あれ?」

すると、瑠璃が困ったように辺りを見回す。

「おね…いや、優愛先輩は?」


その時だった。

ドドド…と入り口の方から駆け出す音が聴こえる。

「…遅れて、ごめんなさい!」


すると、美心が「大丈夫だよ」と彼女を落ち着かせる。見た所、知り合いのようだ。

「…わ、私は、茂華中学校、3年の榊澤優愛です。名前の呼び方は『榊』でも『優愛』でも結構です。よろしくお願いします!」

そう言って、深々と腰を折った。


「礼儀正しいな…」

ゆながそう言うと、「ちょっ!」と優月が彼女の肩を叩いた。

「…今度は何?」

ゆながジロリと彼を睨みつける。

「…静かにしてて…」


ゆなが視線を移すと、山澤苺(やまさわいちご)が詳細を話し始めていた。




その頃のクラリネットパート

「…降谷さん、凪咲ちゃん、よろしくね」

クラリネット担当の3年生がそう言って、説明を始めていた。

「凪咲ちゃんは、ソロの部分あるんだよね」

「はい」

凪咲は笑ってそう答えた。

「ほのかちゃんは、私の音と合わせてくれる?」

「分かりました」


ーフルートパートー

「初芽さん、心音ちゃん、香坂さん、大体練習はしてきましたか?」

「あの…私、初心者…なんですが…」

岩坂心音がそう言うと、2年生のフルートパートの女の子は「…うーん。なるほど」と言って楽譜を見た。

「それじゃあ、出来る所まで合わせてみますか…」


ートロンボーンパートー

「明作さん、凄いね」

3年生の部員が、そう言うと、茉莉沙は

「ありがとうございます」

と素知らぬ顔で、返した。

「…ふふ…無口だな」

その3年生がそう言うと、男の子の方を見やる。

「飯村君も大丈夫そうだね。2人共、ソロ、頼むよ!」

2人は「はい!」と答えた。


そうして、各パート親睦を深めつつ練習をしていた。

「ゆな先輩…フィルインが難しいです」

優愛はドラムが専門というわけでは無いので、ゆなに教えてもらっている。

「充分。上手いよ。小倉より」

皮肉のように、ゆなが言ってやると、優愛が驚いた顔をして、

「えっ!?もうやってるんですか…」

と訊ねる。

「まさか…」


その会話を聞いた優月は「悪かったな…」とタンバリンの持ち手を握りしめた。

「せーの…」

優月は、タンバリンを上に持ち上げ叩く。


すると苺に、

「…小倉君は、それを、やれって言われたの?」

と訊かれた。

「…はい。こっちの方が難しく見えるから、と…」

優月は肩をすくめて答えた。


「…優月先輩、タンバリンの叩き方、教えてあげますよ」

今度は、瑠璃が話しかけてきた。

「えっ?」


すると、彼女はグロッケンから離れ、優月の持つタンバリンを拝借する。

「もう少し、手首を使った方が切れのある音が出ますよ」

そう言って、瑠璃がタンバリンを天に向けて、叩く。

タン!タン!タンッ!

切れのある音が響いた。


「…凄いね!」

苺が褒めると、

「ありがとうございます!」

と瑠璃は恥ずかしそうに笑った。

「可愛い〜!」

苺が照れる彼女を見てそう言った。


「…良かった」

それを見て、優愛はニコリと微笑んだ。

優月と再会できたこと、そして、皆で演奏できることが優愛にとっては、何よりも嬉しかった。


「田中ー、分かんない!」

「だから、ビブラフォン練習しろって言ったでしょー!」

そんな2人に瑠璃が駆け寄る。

「それなら、私でも出来るよー!」


「良かったね、古叢井さん」

「うん。良かった」

優月と優愛は、嬉しそうにそう話していた。




そして、合奏終了後、冬馬高校吹奏楽部部長の、市村が言う。

『皆さん、演奏も完璧、何より皆が仲良くなれて良かったです!皆で祭りを盛り上げましょう!!』

その言葉に、その場にいた全員が『はいっ!』と返事した。

その返事には、熱意と期待が籠もっていた。




だが、当日には予想外の展開が待ち受けていた。

次回

[会場に小林…。そのワケ]


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