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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
復活と再会 華高祭編
109/208

38話 【華高祭】 華の再会

「えっ?」

ひとりお化け屋敷をめぐる颯佚に、背後からぬるりと何かが迫る。その床へ腐った血が落下する。

「なんだ…?…ああ」

その僅かな音を聴いた彼は、恐る恐る振り返る。

「…ぐはっ」

背後を見た颯佚は絶叫した。

「うわぁぁぁぁぁああ!?」


「ったく、颯佚君、大丈夫かな?あ、」

その頃、優月は、美術室にて手作り絵はがきを見ていた。

「これ、綺麗」

その手にはがき2枚を手に、生徒に話しかける。

「すみません、お願いします」

「はい、300円です」

優月は硬貨3枚を置く。すると「ありがとうございます」と生徒は硬貨を受け取った。すると女の子が目を見開く。

「…あ、優月だ!」

「ん?あ、黒坂さん!」

黒坂という女の子は、優月の中学時代の友達だ。美術部繋がりでたまに話していた。

「黒坂さん、高校でも美術部なんだ」

「うん。優月は?」

「僕は吹部だよ」

「あー、そっか」

そうして少し話すと、優月は美術室を出ていった。

「じゃね」

優月はそう言って、階段を降りていった。


その時、颯佚はお化け屋敷から出ていた。

「かぁ、死ぬかと思った」

その後ろには朱雀美玖音。茂華高校吹奏楽部のパーカッションパートのトップランカーだ。

そんな彼女は朗らかな笑みを浮かべる。

「ふふ、びっくりしたでしょう?」

そう言って、彼女のエプロンに付いた赤い液体をひらひらと見せる。

「はぁ」


彼女のネタバラシとしては、こうだ。

美玖音は、段ボールナイフを腹に刺したフリをし、死にかけの怪物の如くうめく。突然の状況に衝撃を受けた彼は絶叫したというわけだ。


「…全く、びっくりした」

颯佚はそう言ってブルブルと肩を震わせた。

「まぁ、さっきので私、最後のシフトだからね」

「えっ?」

「だから、一緒に見に回らない?」

「えっ?優月君がいるんだけど」

「優月君?打楽器の?」

颯佚は頷いた。

「それなら、会ったらで良いでしょう?」

「はぁ。じゃあ、優月君に見つかるまで回るか」

そう言って、美玖音と颯佚は2年教室フロアから去って行った。


「あれ?颯佚君、来るのが遅かったか…」

待ち合わせもしていないので案の定、優月はそう言って颯佚を探しに行った。



ー6年前ー

その時、彼女は小学4年生だった。

朱雀美玖音。小さい頃からそう呼ばれていた。その名に違和感は無かった。

『…失礼します』

その小さい手が開いた先は、音楽室だった。

すると数人の楽器を持つ年上たちがコチラへ凝視してきた。

『あら、もしかして4年生?』

すると楽器を持った女の子が話しかけてきた。その楽器はコルネットと言うらしい。

『う、うん』

美玖音は素直に頷いた。

その後は絵に描いたような歓迎を受けた。

『何の楽器にする?』、『これ吹いてみてよ』と言われる。美玖音は丁寧に全ての楽器を体験した。

『…わぁ!綺麗な音!』

白銀の光を反射するフルートを唇から離した美玖音は、上級生を凝視する。

『そ、そうですか?』

真ん丸の瞳が可愛らしく揺れる。その艷やかな表情に、上級生は頷いた。

『すごいね!美玖音ちゃん。コルネットも、アルトホルンも、クラリネットも、ユーフォも、フルートも吹けるなんて』

すると隣りにいた上級生の友人も同意する。

『これで、神平小の吹部は安泰だな』

『あん…たい?』

『安心ってことだ』

『へぇ…』

やはり、自分は優秀なのかな?と美玖音は思う。

『あとは、打楽器かな?』

『打楽器?』

『ああ、あれだよ』

そう言って上級生が指さしたものは、音楽室内の大半を占める打楽器の群だった。

『…わぁ、大っきい』

美玖音はそう言って、たたた…と打楽器の群れへ歩き出す。

『わ!びっくり!?』

その時、打楽器の上級生が声を上げる。

『…よ、4年生?』

『うん!』

『おっけ!打楽器確保!!』

『きゃー♡』

『えっ!?あっ!ちょっと!?その子は我がコルネットに…』

『何よ?コルネットは事足りるでしょ?』

『打楽器だって4人も…』

『この子にはドラムをやらせるんだ!!』

他の勧誘を断固拒否するのは、何故か打楽器の上級生。

『…ドラムって何ー?』

美玖音は、その会話を打ち破る。

『えっ…?めっちゃカッコいい楽器だよ!』

『わぁーい、私それやろ』

光の速さで決意した彼女は、その後打楽器をすることになった。


しかし、それが後に大きな事態を起こす事になる。

『萌奈ちゃん、もうタンバリンできたぁ!』

『えっ?まだ楽譜出て、1時間だよ!』

美玖音の打楽器の演奏センスは、群を抜いていた。

『えぇ…』

タンバリンを寸分の狂いなく打てる彼女に、上級生の鴨茂(かもしげ)萌奈(もな)は、指導に困ってしまった。

その時だった。 

『じゃあ、本当にドラムやらせますか』

男性が2人に話しかける。この吹奏楽部の顧問だ。

『えっ…?』

『わぁい!やりたぁい!!』

『小学4年生でドラムやってる子は、初めてだけどね』

美玖音のあまりのスピード出世に、萌奈は自身の表情が引きつった。

それから、コンサート、コンクールでも演奏技術のレベルが高い曲を任された。高い壁に当たる度、顧問の付きっきり指導をされながらも、演奏技術を伸ばしていった。

『先生、ありがとうございました』

『いやいや、美玖音ちゃん程、自主練したがる子は初めてですよ』

『だって、楽しく演奏したいんですもん』

『ふふ、いいことです』

そうして彼女は、小学校卒業時点で、既に中学生レベルの演奏を身に着けていた。その頃には、努力というより遊び感覚で演奏するようになった。

      ○  ○   ○

そして中学校に上がってからも、彼女の成長は驚くものだった。

『先輩、そこのティンパニ、少しズレてますよ』

こうして先輩に教えることもしばしあった。

『い、いや、ティンパニの調子が悪いだけじゃない?』

『…では、部活終わりに調子良くしておきます』

その会話を聞いて、サックスの音羽妹夕は『フフッ』と笑っていた。

いつの間にか、先輩が言い訳すら出来ない環境を、美玖音は作り上げていた。

彼女の打楽器のチューニングの技術は、とても高かった。まるで高級な楽器を使っているように思える程だった。


「おーい、朱雀?」

その時、美玖音の視界が白い光に包まれる。その横には颯佚がいた。

「あ、ごめんね」

美玖音はそう言って、目をゴシゴシと擦った。

「ちょっと、昔を思い出してた」

「それ、年取ってんじゃないの?」

颯佚がケラケラ笑う。美玖音は「かもね」と言って、両腕を天に挙げた。

「あ、そういえば、妹夕ちゃんね」

「うっ!何だよ?」

突然、颯佚は眉をひそめる。

「あなたに会いたいと」

「…はぁ」

颯佚は当時のことを思い出す。あまり良い話ではない。


美玖音の入部から2年後の夏。颯佚と妹夕に事件が起こる。

『ねぇ、美玖音ちゃん』

妹夕(まゆ)ちゃん?どうかしたの?』

『私、颯佚とね』

『颯佚?ああ、夏矢君ですか』

美玖音と颯佚は、同じ吹奏楽部だった。

『別れろって、川傘に言われたの』

『えっ?玲海さんに?』

川傘(かわかさ)玲海(れいみ)は、いわゆる支配者だった。

『そんなの断りなさい。そっか!』

美玖音は思い出したように手を打つ。

『あの人、夏矢君のことが好きなのか』

『そうなの。それで私を妬んで』

『はぁ。それは放置しなさい』

美玖音はそれだけ言って、彼女とは反対の方へ歩き出した。しかしその1カ月後。


『はぁ…!』

颯佚が、頭を押さえながら音楽室へ入ってきた。

『…ん』

彼は妹夕に話しかけること無く、サックスを手にする。

『なぁ…』

しばらくした時、颯佚が口を開く。

『…誰が、俺と妹夕ちゃんがキスしたなんて(デマ)流したんだろうな?』

『川傘さん…だと思う』

『なるほどな。アイツ、影響力はあるからな』

その2人の声は、とても小さかった。まるで何かに恐れているかのように。

『…このまま私ら、2人で居たら、きっと友達以外にも進路にも影響するかもしれない』

『…えっ?』

『別れない?噂が広まるのも嫌だし…』

その言葉は颯佚にとっては、大分ショックだった。

『はぁ。そうだな。川傘が今度、どんな噂を流すかも分からないしな』

『うん』

『もっと一緒に居たかった』

この日、3年続いた交際に幕が下ろされた。川傘という1人の人間の嘘によって。 それからは噂はパッタリと消えた。人間というのは本当に都合が良い。

しかし、颯佚は自分の恋を忘れることが苦しかった。いつしか、もう会いたくない、そう自分に言い聞かせることしか出来なかった。


そんな事件から2年。

「…はぁ。もう嫌だ。あの子と居て、今度はどんな目に遭わされるのか」

それは颯佚の本音だった。また同じ噂が付きまとわれることが怖い。

彼女がトラウマだ。

「まだ好きなくせに」

そう言って美玖音はくすりと笑う。まるで彼の心情を見透かしているかのように。

「ね」

その時、颯佚、と彼の名を呼ぶ声が聞こえた。そして声のする方へ向いた彼は、大きく目を見開いた。

「妹夕」



その頃、優月はかつての友達と話していた。

「お茶、全然苦くなかったよ」

「まじ?」

茶道部の茶会を終えた優月は、茶道部員の友達に言う。

「なんか、水飲んでる感覚だった」

「すげぇな」

「へへへ」

「じゃあな」

「うん!頑張ってね!」

そうして、優月は再び颯佚を探しに歩き出した。

たった1人で。


ありがとうございました!

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