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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
復活と再会 華高祭編
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36話 Re'start

「…はぁー、戻ってきたんね」

ゆながボソッと言う。すると、むつみも苦笑気味に頷いた。

「まぁ、いいじゃない」

2人の視線の先には、優月と箏馬がいた。

「…これのやり方が分からないです」

「ああ、ここはねー」

復帰した箏馬は、優月から楽器を教わっていた。

「ゆゆめ、余計なことを」

「そう言うなよ」

むつみはそう言って、ゆなの頭をポンと叩いた。

(…本当、何なのよ)

ゆなは恨めしそうに彼らを見る。面倒臭がりな彼女は、再び問題児が戻ってきたことに不満な様子だ。


しかし、優月が休部員をいきなり復帰させたことには驚いた。

優月は変な所で優秀なんだよな、とゆなは思う。

まず、初めて出会った時だ。彼は異様に楽器、特にドラムの呑み込みが早かった。和太鼓経験者の箏馬でさえ、覚える事に時間が掛かったというのに、優月は何の苦も無く技術を吸収していた気がする。

手足を同時に動かす人間が多い中、優月は手足を分離して演奏していた。

ハッキリいって、初動ですぐに叩ける者を、今までゆなは見たことが無かった。それに加え、努力癖が付いている上、奏法を真似ることも厭わない。

小学校や中学で始めていれば、間違いなく素質だけで何とでもなっただろう。

「はぁ」

しかし、それはそれだ。

「あ、ミスった!」

失敗した部分を繰り返し叩く優月を見て、ゆなは眉をひそめた。


そして、もう1つ。人間性だ。どんな人間にも優しすぎる。わざわざ面倒をかけている。それが自分の首を、他の人の首を絞めることに成ろうとも、切り捨てられるまで、構い続ける。

ゆなが、悪なる性格を隠し続けていたら、今頃優月とは仲良くなっていただろう。

「でも私は悪くない」

そう言って、ゆなはスマホの画面を慌ただしく動かし始めた。


その時、井土が入ってくる。

「あ、久遠、来てましたか!」

井土は嬉しそうながらも、どこか困った様子で彼を見る。訳アリとは言え、暴力を振るった部員を置きっぱなしにすることに抵抗があるのだろう。

「さて、これでフルメンバーですね」

すると場が一気に静まりかえる。

「…さて、では明後日の練習ですが、特別講師をお呼びしました!」

「しました、じゃなくて、しますね」

ゆなが指摘すると、心音が彼女をギロリと見る。

「そういえば、古典大丈夫だったの?」

「30点だった」

「ギリじゃん」

すると、辺りが笑いに包まれる。

「誰かは、シークレットですが、めちゃくちゃ厳しいです。覚悟してくださいね」

その言葉に、辺りは再び静まり返る…と思いきや、むつみが口を開く。

「えっ!?それって、この学校では誰くらいですか?」

「そうですね、町江先生くらいですかね」

「…終わった」

そう言ったのは初芽だった。

町江(まちえ)雪道(ゆきみち)。この学校には1年目という新入りだが、相当に厳しいことで有名だ。

「そんなにですか?」

茉莉沙が純粋に首を傾げると、初芽は、

「この前、課題を無くしたって言ったら、めっちゃ怒られたの!」

そう言って茉莉沙の髪をぐしゃぐしゃに回す。

「それは、ご愁傷様です」

彼女は冷静に返すと、初芽は震える仕草をした。

「まぁ、あの先生、私の頭髪も最初は疑ってたな」

むつみが恨めしげに言うと、悠良之介が、

「頭髪。それは各々の個性。疑うか」

と言う。少し恨みが籠もっていた。

「はい!まぁ、それは置いといて!」

井土は手で、3年生を制する。

「合奏しますよー!」

その様子は傍から見れば滑稽だが、優月は内心怖かった。

ゆなや咲慧みたいな人間だったらどうしよう?と。


咲慧は最近、少し優しくなってきた。出来るようになったからか、前向きなことを言う事も増えてきた。

ゆなは、相変わらず口を開けば辛口だ。それでも咲慧のようにズバズバ言うタイプでは無いのでまだマシなのだが。


そうして練習が終わると井土が言う。

「さて、明日はお休みですが、日曜日は夜まで御浦で練習です。華高祭(かこうさい)ではしゃぎ過ぎないように!」

「はい!」

華高祭とは、茂華高校の文化祭だ。華が付く学校は珍しいことから、この名前が付けられたらしい。

「…それでは、楽器の運搬をしましょう!」

こうして、2日後に向けて、楽器を1階まで運ぶことになった。

「ゆゆ、久遠に指示しといて」

ドラムの脚を器用に分解する彼女に、優月はコクリと頷いた。

「箏馬君、その白と黄色のコンテナあるでしょ?」

「はい」

「その中に使う楽器を入れてね」

「分かりました」

箏馬はそう言って、タンバリンたちを手当たり次第に箱へ詰め込みはじめた。

「ゆゆは、譜面台やっといて。そすりゃ、私は楽できるから」

「はいは~い」

優月は軽くあしらうと、真っ黒な譜面台を畳む。

「ってか、ホール練習でしょ?」

その時、井土が優月に話しかけてきた。

「いや、お願いしますね。お金が…」

「おか…!?わ、分かりました!」

今、大人の事情が聞こえた優月は、うんうんと何度も頷いた。

そうして、片した楽器を運ぶ。

「ゆな!私は何を?」

「あ、じゃあ、バスドラ持ってって」

バスドラとは、大太鼓のこと。しかしコンサートバスドラではなく、ドラムセットのバスドラのことだ。

「分かったー」

「こうして、私は楽をするのだ」

「お前、本心丸出し」

むつみが、呆れたように楽器を持つ。

優月と井土はクスクスと苦笑した。

「あ、そういえば、ゆゆ」

「はい?」

井土が気になる疑問をぶつける。

「どうやって、久遠を戻したの?」

どうやら気になっているようだ。優月はそれに気付いて、肩を小さくすくめた。

「…それはですね、ウチの後輩が何とかしたみたいです。あのツインテールの瑠璃ちゃん」

「ツインテール…?ああ、古叢井さんか」

瑠璃と井土は、春isポップン祭りにて何度か話している。

「…あの子が口説いたの?」

言い方、と思ったが、優月は気にせず続ける。

「はい。後は、話しを聞いただけです」

すると井土はにこりと笑う。

「そっか。優しいですね」

純粋に褒められた優月は、ふふっと笑った。


帰りは7時近くなった。優月の体は疲労困憊だった。それでも、明日は文化祭に行かねば。

そう思いながら、優月は瑠璃にお礼の連絡をしていた。


その頃。

囃子の猛練習に付き合わされている瑠璃は、凪咲と話していた。

「連打できないー!」

「だから!力入れすぎなの!締太鼓はそんなに力入れないの!」

その時、瑠璃のスマホに通知音が来る。優月からだ。

《箏馬君の件、ありがとね》

それを見た瑠璃は、くすりと笑った。

「全くぅ」

その様子を見た凪咲が、訝しげな顔をする。

「どうしたの?」 

「何でもないよ!」

瑠璃はそう言って、和太鼓と向かい合った。


そうして、どの学校もやるべき事へと向かって、再出発していた。

ありがとうございました!

良ければ、

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【次回】 茂華高校文化祭

     美玖音と再会!!

     しかし、そこで出会ったは…?

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