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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
復活と再会 華高祭編
105/208

34話 唯我独尊

優月は箏馬から、かつて出生と親の秘密について聞かされていた。

「それでは話しますか。俺の小学生時代について」

箏馬はそう言って語りだす。優月も電車待ちの椅子にちょこんと座った。

久遠箏馬は優月の直属の後輩だ。そんな彼は、暴力問題を起こし、当分部活に来ていない。しかし復帰を決意し、その前に過去と自分のことについて話すことになったのだ。

「…小学生時代?天龍に入ってからも何かあったの?」

「まぁ、大変でしたね。小学校でも天龍でも異端児扱いされたんで」

そう言って過去を語りだす。


箏馬は大内市にある大内小学校にいた。

保育園は、御浦市の保育園で過ごしていたが、小学校で再び別の男性と再婚し、大内市に引っ越してきたのだ。

大内市は東藤町と密接で、大内市の小学校が東藤小学校に通うこともよくある事だ。

『…暇なんだよな』

小学1年生の彼は、毎日仏教観のある寺へ通っていた。そこで箏馬は毎日学校で会ったことを相談していた。


寺。

箏馬は石の階段を登り、大きな寺の前で足を止める。そして、とある場所まで歩き出す。

『和尚さん』

箏馬がいうと、人の良さそうな老人がこちらを見る。

『やぁ、箏馬君だね』

箏馬と、和尚様は知り合いだった。それから、よく話すようになったのだ。小学校に大した友達のいない箏馬にとって、寺は心の拠り所のようになっていたのだ。

そんな折に、箏馬は和尚に相談することにした。

『…ほう。友達ができないのかい?』

すると箏馬は『はい』と言う。

『…このまま、俺は流れに乗って、友達ができないで終わるんでしょうか…』

すると和尚は首を横に振る。

『そんなことない』

『本当ですか?』

『…諸行無常』

その時、和尚が静かに口を開く。

『えっ?何ですか?』

『諸行無常さ。だから大丈夫』

『諸行…無常?どういう意味ですか?』

箏馬が食い入るように訊ねると、和尚は優しい顔をした。

『この世の全ては絶え間なく動いている。だからその悪い流れも必ず止まる。永久不変なものは無いのだから』

その言葉に元気づけられたのか、箏馬はその言葉を復唱する。

『いい意味ですね』

『でしょう?』

『…他には無いのですか?』

『他?』

『その諸行無常に近い言葉です!』

箏馬は小学1年生から、仏教観のある言葉を覚え始めたのだ。


それから1年後。彼にとって大きな出来事があった。

『…じゃあ、この言葉の意味が分かる人!?』

新緑の黒板には、四字熟語が書かれていた。箏馬は迷うこと無く、手を挙げる。

『いちにちせんしゅう、です』

『おっ!正解!!』

正解した箏馬は満足気だった。

『…凄いね。久遠君』

高津戸という女の子が褒めるも、箏馬は首を横に振る。

『そんなこと無い。四字熟語なら何でも言えるから』

その時、隣の男子が言う。

『まぁ、箏馬はそれしかいいトコないもんな』

その男子は性格が悪く暴力的だと有名な男子だった。

『…ん』

先生には聞こえていないようで、すぐに授業は再開された。


そんな出来事を、箏馬は和尚に言った。すると苦笑で返される。

『ほう。その男の子がねぇ…』

『はい。どうすれば良いでしょうか?』

すると和尚は彼の瞳を食い入るように見る。そしてこう言った。

『…唯我独尊(ゆいがどくそん)

『ゆいが…どくそん?』

『そうさ。意味は2つあるんだけれどね…』

その時だった。

ゴロゴロと遠雷が聴こえる。

『あ、箏馬君、雷が来る。お家に帰りなさい』

『あ、うん。分かりましたー』

それっきり、和尚とは会わなかった。和太鼓クラブ『天龍』が忙しくなったから。


それから数年後。仏教関連の言葉を多く使うようになった箏馬に、ある事件が起こった。

『…ただいま』

『あ、おかえり。遅かったな』

銀之進は同級生と毎日、公園で遊んでいるのだが、この日は帰りが6時過ぎだった。母と義父は仕事だったので、箏馬は食事を作っている最中だった。しかし、そんな彼は、銀之進の姿に我が目を疑った。

『ずぶ濡れじゃないか。大丈夫か』

『だ、駄目かも。少し痛い』

『何があったのだ?』

『えっと、冬馬小の人に追っかけられて、小川に落とされた』

そう言って、銀之進は泥に濡れた袖を振り払う。

『…なんだこれは』

箏馬は全身が怒りに支配される。弟は体が弱いというのに。

『…まぁ、逃げ切れなかった僕が…』

『銀之進。一切皆苦、人生願ったように行かぬもの』

そして箏馬の表情が変わる。殺意に近い何かに駆られた表情だ。

『そいつらの特徴を教えろ』

『え、うん』

銀之進は静かな覇気に押され、泣く泣く頷いた。


「…弟君にそんな事が…」

優月が信じられなさそうに言う。すると箏馬は自嘲気味に笑う。

「因みに、両親は動こうともしませんでした。愛情の欠片も無い奴らなんで」

「…酷い」

その後の展開は絵に描いたような復讐劇だったらしい。


男子たちが地面に転がる。虐めていた人物は、やはり箏馬よりも少し年上の年齢だった。

『お前らの存在は無価値だ。弟に手を出すな』

しかし、それから報復合戦のように、虐めては返されるという展開になった。


『…全く、またやられたのか』

銀之進は度々、傷を負って帰宅する。

『あんな子供なんか怖くないって』

銀之進が苛めっ子に言ったことをそのまま言うと、箏馬は全く、とため息をついた。

『待ってろ。仕返しするから』

『えっ!?そしたら箏馬君もやられるかも…』

『このままやられっ放しでいられない。唯我独尊。それが俺の生き方だ。そして、輪廻の輪へ還るんを待つ。好きに生きて死せば後悔は無い』


それからも、箏馬への逆恨みで、銀之進が虐められることが更に増えた。その上、ついには、中学生や高校生までが彼を襲う。


当然、これを重く見た箏馬は両親に相談したが、

『やり返せば良いじゃないか』

の一点張りだった。その時、彼が返した言葉は、

『分かりました』

だった。これが今後の事態を大きく変えるとも知らずに。


ー数年後ー

体格に恵まれた彼は、銀之進を虐める人間の溜まり場へと向かった。

すると、今日は不思議なことに、苛めっ子の声が響いていた。

『全然強かねぇぞ?俺、野球部なのに』

その声を聞いて、箏馬は音もなく走り出す。すると、目の前には屈強そうな少年と銀之進。そしてもう1人の小学生を囲む男子たちがいた。ひとことで言えば愚連隊。

『弟を狙う悪因よ…』

箏馬は怒りの混じった言葉で、苛めっ子らしき男子に呼びかける。

『その代償は、ここで払って貰う成り』

その時、箏馬は容赦なく男子を蹴りつける。

その隙に、少年は2人の男の子を連れ、路地裏を出て行った。

『暴虐非道』

彼は瞬く間に、苛めっ子全員を薙ぎ倒していた。

『悪の道こそ邪道成り』

そう言って、トコトコと少年へ歩み寄った。そしてぺこりと頭を下げる。

『すみませんでした。うちの弟を助けていただいて』

律儀な態度に、少年は困ったように首を横に振る。

『いえ。無事なら良かった』

彼が言うと、銀之進は箏馬へ抱きついた。

『筝馬お兄ちゃん、怖かったよ』

『全く、だから1人には、なるなと言ったのに…』

『あれ?お兄ちゃん、天龍には行かないの?』

銀之進が訊ねると、箏馬は首を横に振る。

『今日はお休みだから帰るぞ』

そうして、男の子数人を制圧した彼は、弟と共に家に帰ったのだ。

この事件から、関連の冬馬高校の悪餓鬼に、2人は目を付けられたのだ。


ー現在ー

「まぁ、俺がやり過ぎたから、報復合戦ってことですね」

「暴力は誰も幸せにしないよ。代償(ツケ)は必ず返ってくる」

「分かっています。しかし、もう大丈夫です。冬馬高校の悪餓鬼(ワルガキ)たちは、退学処分にされたらしいので」

退学、あまりその言葉を聞きたくなかった優月は、小さくため息を吐いた。

「でも小学生時代から大変だったんだね」

優月はそう言って優しそうに笑った。すると箏馬は改まった表情をする。

「…それと…もう1つ話しておくことがあります」

「えっ?」

「俺が…吹部に入った理由です」

ありがとうございました!

良ければ、

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【次回】 この世は移り変わる。 箏馬の想い。

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