30話 紡ぎ出す剱
最後に大切な宣伝があります!ストーリーと共にお楽しみ下さい!
「はぁ」
夜の8時。家近くの公園のブランコにて寛ぐ優月は、大きくため息を吐いた。
「演奏も何とかしなきゃいけないけど、箏馬君のことも何とかしないとなぁ…」
優月はそう言って、ため息をついた瞬間、人影がこちらへ迫る。
「あっ…」
その人物に優月は、目を丸めた。優愛だ、と小声で言うと、彼女を一点に見つめた。
「どうしたの?もう夜でしょ?」
優愛は、新しい制服を身に纏い、バックを地面へ置いていた。
「ああー、暇でね」
「まぁ、それ以上は聞かないよ。それで部活はどう?」
「ああ、まぁ、普通」
「そう。私、優月くんがドラムを演奏してるとこ見たことないから、ちょっと楽しみ」
「ハ、ハードル上げないでよ…」
優月が困ったように言うと、優愛がふふっと笑う。
「大丈夫だよ。優月くん、ドラム上手かったって瑠璃ちゃんが褒めてたよ」
「えっ?瑠璃ちゃんが?」
「うん」
そういえば、瑠璃は見てるのだったな、と思い出す。
すると優愛が大きく目を丸める。
「…そうだ。『それ』が始まる前に、ずっと渡したい物があったの」
「えっ?渡したい物?」
「うん。あとで良い?」
そんなに渡したい物なのか?優月が首を傾げる。
「じゃあ、私、帰るね」
「あ、そっか。高校の帰りか!」
「そう。あの高校、ここからだと遠いから。ばい!」
そう言って優愛は、優月の元を去って行った。その後、彼女と別れても家に帰る気は起きず、30分ほどブランコで暇を潰していた。
家に帰ってからも、ベットに転がり本を読む優月は、優愛の姿が忘れられなかった。
黒曜石のような黒い髪を短く下ろした髪。街頭の安っぽい光に照らされても尚、鮮やかで柔らかな眼差し、キズ一つ無い白い肌。まるで人気アイドルのようだった。だが、もう打楽器には触れすらもしないタダの高校生。
「見ない間にも、人は変わるんだなぁ」
ぱたん!と本を閉じた彼は、それをリュックに仕舞った。
優月と優愛の人生は、色々なところで対比されているのかな?と思いながら眠りについた。
その頃、風呂上がりの優愛は、クローゼットに制服を掛ける。
「ふんふんふ~ん♪」
それついでに、細長いケースを取り出す。そのケースは四ツ角が少し縒れていた。
「…これこれ。中学校以来だなぁ」
そう言って、優愛が懐かしそうに開いたものは、木の棒と思しき2本の束が3つ入っていた。その中の1番太長いものを手に取る。
「私はもう使わないし。せっかくなら…ね…」
自分はもうドラムスティックを使わない。ならば優月に使わせよう。
この剱を手放さなければ、そんな気持ちだった。
翌日。いつも通りなのだが、箏馬は部活に来なかった。今日は水曜日。タイムリミットまであと2日だ。そろそろ何とかしなければ、と優月は思ってしまう。
しかし現実は非情というもので、合奏はあっという間に始まった。
「…ええー、藤原さんとメイさんで1回やってみて下さい」
すると、2つのトロンボーンの音が響く。しかし茉莉沙のトロンボーンが圧倒的過ぎて、彼女の音だけが優月の耳に入り込む。
「はい。藤原さんは明作さんに合わせて下さい」
「は、はい!」
美鈴は、茉莉沙を一瞥すると、黒板の方を真っ直ぐに見つめた。
「恥ずかしいか青春は…はここまでで良いでしょうか。では月に叢雲華に風をやってみましょう」
と同時に各々が楽器を構える。
初芽は白銀色のフルートを構えると、井土の合図を待つ。すると井土が小さく手を振る。
それと同時に、フルートの甘優しい音が響いた。
結局、この日も様々な指導や反復練習にて終わった。やはり去年のような緩い指導では無かった。
本気で金賞を獲りに来ている。それは手に取るように分かった。
その日の帰り道。優月がひとり駅へと歩いていた。
その時。
「こんにちは」
「!?」
長身の少年が話しかけてきた。しかし、サファイア色の瞳を見てすぐに分かった。
「…箏馬…君」
「はい。箏馬です。再拝鶴首。お久し振りです」
「ひ、久し振りだね。最近、会わなかったから心配だったよ」
「電話はしましたがね」
「あ…ああ…。そうだよね」
「井土先生に言われました。今週の金曜日までに顔を出さなかったら、本番には出せない…と」
「やっぱり聞いてるんだ」
すると箏馬が悔しそうに顔をしかめる。
「今は弟も体調を崩してしまっているので、天龍さえも休んでいます」
「そうなんだ…」
すると、箏馬は徐ろに言葉を紡ぎ出す。
「俺の母親、クズなので」
「ええ!?」
クズ。恐ろしい言葉だ、と優月は瞳を不規則に震わせる。
「ネグレクトなんですよ。あの人」
「…ネグレクト」
思わず『通報』という単語が浮かんだが、箏馬にも事情があるのだろう。
「何をするにしても、全て人任せ。働きもしない社会の屑です」
「…ひどい」
言葉も酷いが、ここまで言わせしめる母親も酷い。心の中では悲しみに似た感情が渦巻く。
「俺、中2の時に、冬馬に引っ越して、それまでは大内にいました。古叢井ちゃんとは近所です」
「えっ?そうだったんだ」
「まぁ、俺が中1の時に引っ越しましたがね」
「それは知ってるよ」
まさか、瑠璃と箏馬が元近所だったとは。
「俺の父は、大内市に住んでます。離婚してからは母が親権を取りまして」
「…だから、瑠璃ちゃんについて詳しかったんだ」
「ええ。よく遊んでましたし天龍でも一緒でしたから。引っ越すまでは」
すると箏馬は自嘲気味に笑う。
「…そんな家庭環境のせいで、弟が他の奴らから虐められる。それが日常になりました」
「そっか」
今、確信した。やはり箏馬は無軌道に暴力を振るっているわけでは無かった。弟、そして自分を守るためだった。『あの言葉』の意味が分かった。
「箏馬君自身は、部活に戻りたい?」
「…勿論です。あと、この事は古叢井ちゃんにも相談していますし」
「へぇ」
「あの子、こう言ってたんです」
すると瑠璃の言葉が蘇る。
『私、絶対に久遠さんの打楽器を聴きたい!』
それを聞いて、優月は目を細めた。
「瑠璃ちゃんも。そっか」
制限時間はあと48時間。それまでに何とかしなければならない。それは学校を超え尚、悩む者もいるのだ。
優月と別れた箏馬は、スマホを手にする。やはり瑠璃から心配のメールが来ている。
「…古叢井ったら変わったな…」
その時、彼の双眸にある光景が浮かぶ。
日心と瑠璃が、天龍で初めて出会った時のことだった。
『どうも!どんなに高い壁だって、突き破れるは友の道。高津戸日心です♪』
『…久遠箏馬です。よろしく、古叢井さん』
ふたりを食い入るように少女が見つめる。しかし少女が口を開く気配は無かった。
『…うん』
その時、彼女のオレンジ色の瞳が大きく開く。頬は少し紅くなり、口元は僅かに開いた。
ぎゅっ。その時、彼女は言葉の代わりに、ハグを返した。抱きしめられた日心は『えっ?』と戸惑う。
『…うん。うん♪』
瑠璃は猫のように目を細め、日心を離さなかった。そのツインテールがふわりと揺れる。
『えっ…ええ…』
日心は困り果てた様に笑った。
それからも、彼女が自分から話すことは無かった。嬉しければ笑って、悲しかったら泣く、怒れば睨みつけるか、殴る蹴る。感情を言葉にしない異常とも言える女の子だった。
『随分と変わった子だよね』
日心が言うと、箏馬も頷いた。
『…ああ、変わってるよな。でも太鼓はめちゃくちゃに上手いんだよな』
『本当。休憩入れないでようあんな練習できるな』
彼女の言葉は、感心している…というよりは呆れていた。
『…全然話さないな』
箏馬は発声以外、瑠璃のハッキリとした声を聴いたことが無かった。感情が無いのか?一時期はそう疑ったこともあった。
そんな彼女が声にして、心配している。
「やはり、すべては定められた時の中にある」
箏馬は淡々と彼女に返信をすると、自宅の方向へと足を向ける。
「吹奏楽。一度始めたのだ。必ず…」
箏馬は決意を新たに一歩を踏み出した。
【続く】
ありがとうございました!
良ければ、
リアクション、ポイント、感想、ブックマーク
をお願いします!
《※本編とは関係ないストーリー式宣伝です。》
『…優月君、これ見てー』
ある日の部活からの帰り道、偶然遭遇した想大に話しかけられる。
「…これ?スマホ?」
彼のスマホを借りると、その画面を見る。
【吹奏万華鏡 特別ページ】
「ああー、特別ページってやつ?」
「そう!」
想大はうんうんと頷いた。
「これ、何してる話なの?本編だけで充分じゃん」
優月が苦笑気味に言うと、想大は首を横に振る。
「いやね、ここにアクセスするとね、キャラクターの裏話とか聞けるんだ!」
「ああ、つまりタダの自己紹介ページね」
すると想大は、柄にもなく熱弁を始める。
「違うんだ!このページに今後、重要な話が投稿されるかもしれないんだ!」
概要欄を一瞥した優月は、目を丸める。
「…へぇ、修学旅行編」
「そう!瑠璃ちゃんが主人公の話もあるんだ!今後も色んなキャラクターが主人公として、オリジナルの話を投稿していくらしい」
「それで想大君はテンション上がってたのか」
想大は瑠璃の彼氏だからなぁ。
そんな訳で…
吹奏万華鏡 特別ページ
を検索!!!!




