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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
挫折する主人公 市営コンクール始動編
101/208

30話 紡ぎ出す剱

最後に大切な宣伝があります!ストーリーと共にお楽しみ下さい!

「はぁ」

夜の8時。家近くの公園のブランコにて寛ぐ優月は、大きくため息を吐いた。

「演奏も何とかしなきゃいけないけど、箏馬君のことも何とかしないとなぁ…」

優月はそう言って、ため息をついた瞬間、人影がこちらへ迫る。

「あっ…」

その人物に優月は、目を丸めた。優愛だ、と小声で言うと、彼女を一点に見つめた。


「どうしたの?もう夜でしょ?」

優愛は、新しい制服を身に纏い、バックを地面へ置いていた。

「ああー、暇でね」

「まぁ、それ以上は聞かないよ。それで部活はどう?」

「ああ、まぁ、普通」

「そう。私、優月くんがドラムを演奏してるとこ見たことないから、ちょっと楽しみ」

「ハ、ハードル上げないでよ…」

優月が困ったように言うと、優愛がふふっと笑う。

「大丈夫だよ。優月くん、ドラム上手かったって瑠璃ちゃんが褒めてたよ」

「えっ?瑠璃ちゃんが?」

「うん」

そういえば、瑠璃は見てるのだったな、と思い出す。

すると優愛が大きく目を丸める。

「…そうだ。『それ』が始まる前に、ずっと渡したい物があったの」

「えっ?渡したい物?」

「うん。あとで良い?」

そんなに渡したい物なのか?優月が首を傾げる。

「じゃあ、私、帰るね」

「あ、そっか。高校の帰りか!」

「そう。あの高校、ここからだと遠いから。ばい!」

そう言って優愛は、優月の元を去って行った。その後、彼女と別れても家に帰る気は起きず、30分ほどブランコで暇を潰していた。


家に帰ってからも、ベットに転がり本を読む優月は、優愛の姿が忘れられなかった。

黒曜石のような黒い髪を短く下ろした髪。街頭の安っぽい光に照らされても尚、鮮やかで柔らかな眼差し、キズ一つ無い白い肌。まるで人気アイドルのようだった。だが、もう打楽器には触れすらもしないタダの高校生。

「見ない間にも、人は変わるんだなぁ」

ぱたん!と本を閉じた彼は、それをリュックに仕舞った。

優月と優愛の人生は、色々なところで対比されているのかな?と思いながら眠りについた。


その頃、風呂上がりの優愛は、クローゼットに制服を掛ける。

「ふんふんふ~ん♪」

それついでに、細長いケースを取り出す。そのケースは四ツ角が少し()れていた。

「…これこれ。中学校以来だなぁ」

そう言って、優愛が懐かしそうに開いたものは、木の棒と思しき2本の束が3つ入っていた。その中の1番太長いものを手に取る。

「私はもう使わないし。せっかくなら…ね…」

自分はもうドラムスティックを使わない。ならば優月に使わせよう。

この剱を手放さなければ、そんな気持ちだった。


翌日。いつも通りなのだが、箏馬は部活に来なかった。今日は水曜日。タイムリミットまであと2日だ。そろそろ何とかしなければ、と優月は思ってしまう。

しかし現実は非情というもので、合奏はあっという間に始まった。

「…ええー、藤原さんとメイさんで1回やってみて下さい」

すると、2つのトロンボーンの音が響く。しかし茉莉沙のトロンボーンが圧倒的過ぎて、彼女の音だけが優月の耳に入り込む。

「はい。藤原さんは明作さんに合わせて下さい」

「は、はい!」

美鈴(めいりん)は、茉莉沙を一瞥すると、黒板の方を真っ直ぐに見つめた。

「恥ずかしいか青春は…はここまでで良いでしょうか。では月に叢雲華に風をやってみましょう」

と同時に各々が楽器を構える。

初芽は白銀色のフルートを構えると、井土の合図を待つ。すると井土が小さく手を振る。

それと同時に、フルートの甘優しい音が響いた。


結局、この日も様々な指導や反復練習にて終わった。やはり去年のような緩い指導では無かった。

本気で金賞を獲りに来ている。それは手に取るように分かった。

その日の帰り道。優月がひとり駅へと歩いていた。

その時。

「こんにちは」

「!?」

長身の少年が話しかけてきた。しかし、サファイア色の瞳を見てすぐに分かった。

「…箏馬…君」

「はい。箏馬です。再拝鶴首(さいはいかくしゅ)。お久し振りです」

「ひ、久し振りだね。最近、会わなかったから心配だったよ」

「電話はしましたがね」

「あ…ああ…。そうだよね」

「井土先生に言われました。今週の金曜日までに顔を出さなかったら、本番には出せない…と」

「やっぱり聞いてるんだ」

すると箏馬が悔しそうに顔をしかめる。

「今は弟も体調を崩してしまっているので、天龍さえも休んでいます」

「そうなんだ…」

すると、箏馬は徐ろに言葉を紡ぎ出す。

「俺の母親、クズなので」

「ええ!?」

クズ。恐ろしい言葉だ、と優月は瞳を不規則に震わせる。

「ネグレクトなんですよ。あの人」

「…ネグレクト」

思わず『通報』という単語が浮かんだが、箏馬にも事情があるのだろう。

「何をするにしても、全て人任せ。働きもしない社会の屑です」

「…ひどい」

言葉も酷いが、ここまで言わせしめる母親も酷い。心の中では悲しみに似た感情が渦巻く。

「俺、中2の時に、冬馬に引っ越して、それまでは大内にいました。古叢井ちゃんとは近所です」

「えっ?そうだったんだ」

「まぁ、俺が中1の時に引っ越しましたがね」

「それは知ってるよ」

まさか、瑠璃と箏馬が元近所だったとは。

「俺の父は、大内市に住んでます。離婚してからは母が親権を取りまして」

「…だから、瑠璃ちゃんについて詳しかったんだ」

「ええ。よく遊んでましたし天龍でも一緒でしたから。引っ越すまでは」

すると箏馬は自嘲気味に笑う。

「…そんな家庭環境のせいで、弟が他の奴らから虐められる。それが日常になりました」

「そっか」

今、確信した。やはり箏馬は無軌道に暴力を振るっているわけでは無かった。弟、そして自分を守るためだった。『あの言葉』の意味が分かった。

「箏馬君自身は、部活に戻りたい?」

「…勿論です。あと、この事は古叢井ちゃんにも相談していますし」

「へぇ」

「あの子、こう言ってたんです」

すると瑠璃の言葉が蘇る。

『私、絶対に久遠さんの打楽器を聴きたい!』

それを聞いて、優月は目を細めた。

「瑠璃ちゃんも。そっか」

制限時間はあと48時間。それまでに何とかしなければならない。それは学校を超え尚、悩む者もいるのだ。


優月と別れた箏馬は、スマホを手にする。やはり瑠璃から心配のメールが来ている。

「…古叢井ったら変わったな…」

その時、彼の双眸にある光景が浮かぶ。


日心と瑠璃が、天龍で初めて出会った時のことだった。

『どうも!どんなに高い壁だって、突き破れるは友の道。高津戸日心です♪』

『…久遠箏馬です。よろしく、古叢井さん』

ふたりを食い入るように少女が見つめる。しかし少女が口を開く気配は無かった。

『…うん』

その時、彼女のオレンジ色の瞳が大きく開く。頬は少し紅くなり、口元は僅かに開いた。

ぎゅっ。その時、彼女は言葉の代わりに、ハグを返した。抱きしめられた日心は『えっ?』と戸惑う。

『…うん。うん♪』

瑠璃は猫のように目を細め、日心を離さなかった。そのツインテールがふわりと揺れる。

『えっ…ええ…』

日心は困り果てた様に笑った。

それからも、彼女が自分から話すことは無かった。嬉しければ笑って、悲しかったら泣く、怒れば睨みつけるか、殴る蹴る。感情を言葉にしない異常とも言える女の子だった。

『随分と変わった子だよね』

日心が言うと、箏馬も頷いた。

『…ああ、変わってるよな。でも太鼓はめちゃくちゃに上手いんだよな』

『本当。休憩入れないでようあんな練習できるな』

彼女の言葉は、感心している…というよりは呆れていた。

『…全然話さないな』

箏馬は発声以外、瑠璃のハッキリとした声を聴いたことが無かった。感情が無いのか?一時期はそう疑ったこともあった。


そんな彼女が声にして、心配している。

「やはり、すべては定められた時の中にある」

箏馬は淡々と彼女に返信をすると、自宅の方向へと足を向ける。

「吹奏楽。一度始めたのだ。必ず…」

箏馬は決意を新たに一歩を踏み出した。


          【続く】

ありがとうございました!

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《※本編とは関係ないストーリー式宣伝です。》


『…優月君、これ見てー』

ある日の部活からの帰り道、偶然遭遇した想大に話しかけられる。

「…これ?スマホ?」

彼のスマホを借りると、その画面を見る。


【吹奏万華鏡 特別ページ】


「ああー、特別ページってやつ?」

「そう!」

想大はうんうんと頷いた。

「これ、何してる話なの?本編だけで充分じゃん」

優月が苦笑気味に言うと、想大は首を横に振る。

「いやね、ここにアクセスするとね、キャラクターの裏話とか聞けるんだ!」

「ああ、つまりタダの自己紹介ページね」

すると想大は、柄にもなく熱弁を始める。

「違うんだ!このページに今後、重要な話が投稿されるかもしれないんだ!」

概要欄を一瞥した優月は、目を丸める。

「…へぇ、修学旅行編」

「そう!瑠璃ちゃんが主人公の話もあるんだ!今後も色んなキャラクターが主人公として、オリジナルの話を投稿していくらしい」

「それで想大君はテンション上がってたのか」

想大は瑠璃の彼氏だからなぁ。


そんな訳で…

吹奏万華鏡 特別ページ

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