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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
挫折する主人公 市営コンクール始動編
100/211

29話 昼休み練習

雑談混じりの音楽室に、ひとつ溜め息の音が放たれる。

「はぁー…、箏馬君戻ってきてくれぇ…」

優月はそう言って、グロッケンの楽譜を譜読みしていた。連符、連符、連符!

「…しかも、ソロっぽいメロディー入ってるし」

優月はそう言って、今度は小さくため息をついた。

「早く練習しないとなぁ…」

『月に叢雲華に風』、『恥ずかしいか青春は』の2曲は、殆どクリアしている。しかし『夏祭り』を始めた他の曲は、まだまだの域だ。

「まぁ、貯めても仕方ないし、やりますか」

そう言って、優月はマレットを構える。

しかし悲しいことに、初見一発でできることは無かった。結局、合奏の時間で指摘されてしまった。

「はぁぁ」

いつものことだが恥ずかしいな、と優月は思う。

「優月くん、大丈夫?」

隣で歩いていた咲慧が、心配そうに顔を覗き込む。その甘そうな目元は、彼を一点に捉えている。

「ううん」

「あとで教えよっか?」

「お願いします」

すると咲慧は「分かった」とすんなり承諾した。

「でも最近は市営の合奏が多くなったからなぁ」

優月が言うと、咲慧はうーん…と首をかしげる。そんな彼女が出した答えは、想像を絶するものだった。

「昼休みで良いんじゃない?」

「は?」

嘘だろ、と優月は頭の中で絶叫する。

「だって、前の学校は昼休みも、音楽室で練習してる人いたよ」

「い、いたんだ」

凛良は、そこまでするのか、驚きの方が勝った。

「…じゃあ、来週やろうね」

そう言うと、咲慧はニコッと笑った。

「う、うん」

優月は、昼休みか、と思いながらも頷いた。


そうして数日後の昼休み。優月は想大と昼食を取っていた。夏休みまであと少し…ということで話題も必然的に夏祭りが挙がる。

「えぇ!?バイト?」

「おう。2日も神輿(みこし)を担ぐだけで15,000円も貰えるんだぜ」

「…それは割が良いね」

「優月君も行かないか?」

「…うーん。今年はコンクールに出ないから良いかもね…」

優月はそう言って、想大を見る。

「因みに俺は応募した」

「えぇ。神輿かぁ」

神輿といえば、派手な仏閣が乗せられた台を保育園の時に担いだっけ?と頭の中を支配する。

「今年は瑠璃ちゃん、友達とお囃子行くみたいだし」

「ぶへっ!?」

想大がそう言った瞬間、優月が大きく咳き込む。ああ、驚いた。

「えっ?あの子がお囃子行くって、何かあったのかな?」

「さぁ?」

中学時代、瑠璃は夏祭りのお囃子が苦手、と聞いたことがあった。

「…ああ、それで」

その時、優月の口角が上がる。

しかし、

「優月くーん」

その会話は、咲慧によって打ち切られてしまった。優月は「行くね」と言って、咲慧と共に廊下へ出ていった。

「…大変だな。優月君」

弁当箱を仕舞いながら、想大が言う。

「てか、あの転校生…。どっかで?」

しかし、彼は何故か、彼女に見覚えがあった。

どこで?かは分からなかったが。


ー音楽室ー

昼休みの音楽室は、誰も居なかった。電気が付いていない音楽室は、静寂がはらんでいた。楽器はまるで自分が弾かれるわけない、と言わんばかりに静けさを放っている。

「付き合ってもらっちゃってゴメンね」

優月が言うと、咲慧は「いいの」と言う。

「グロッケンだっけ?君の楽器」

確認するように尋ねられると、彼はそのまま頷いた。

「オッケー。音階はピアノと一緒だね」

すると咲慧がマレットを手に取る。

すると聞き馴染みのあるメロディーが流れる。やはりピアノ検定2級の実力は伊達じゃないな、と思う。

10分ほど集中して演奏すると、昼休みの終了時間が近くなる。

「ありがとね。咲慧ちゃん」

「…いいのいいの。少しでも出来るようになれたなら。でも、まだ課題はあるんから、練習せんとあかんよ」

「は、はい」

すると咲慧はクスリと笑った。いつもの可愛らしい笑顔。すると、優月の脳裏に一筋の疑問が浮かぶ。

「…そうだ。咲慧ちゃん、和太鼓できるんでしょ?じゃあ、ドラムもできるん?」

「えっ?私?」 

「そうそう。鳳月さんもできるじゃん?」

そう言いながら、優月はドラムセットに掛かる布を剥ぐ。すると、黄昏色のシンバルや光に反射する太鼓が剥き出しになる。

「…うーん。教わればできるかも?」

「そうなんだ」

「まぁ、ゆなっ子は凄いよね。異色だもんねー」

「本当」

すると、優月は徐ろにスティックを手に取る。

「…教えようか?」

優月が言うと、咲慧は「また今度」と断る。ならいいや、と優月は再びドラムセットに布を掛ける。

「そういえば、咲慧ちゃんのアルトサックスってさ…私物なの?」

「うん。私物だよ。従兄弟からのお下がりなの」

「へぇ」

すると咲慧は、思い出すように目を細める。

「…私ね、こっちに転校した理由があるの」

「ああ、まぁ、あるだろうね」

「私、前の学校で吹部やってたんだけどね。そこで揉めちゃって…」

「揉めた?」

「そう。親友と、」

親友、その言葉に優月の脳裏には2人の人間が思い浮かぶ。

小林想大。榊澤優愛。この2人だ。

「どうして揉めたの?」

「うーん、楽器決めでね」

そう言った瞬間、チャイムが鳴る。もう少しで咲慧の過去が聞けそうだったのに。優月は少しばかり悔しくなった。


その日の放課後。咲慧は音楽室へ歩いていた。

「ねぇ、ゆなっ子」

珍しく咲慧がゆなに話しかける。

「ん?何?」

「あの、今の部員に話したの?君の過去」

「いくら正直者とは言え、話すわけないでしょ?」

ゆなは珍しく顔を引き攣らせる。

「…そう」

しかし、咲慧がこれ以上追求することは無かった。

「大体、何でアンタは、東藤(こっち)へ来たのよ?」

「それは、親友と揉めたから」

「…ああ、美玖ちゃんのことね」

「ねぇ、聞いてよ〜。それでな、楽器決めで美玖と揉めたんや〜」

咲慧が彼女へすがりついた。

「その口調やめて」

しかし、ゆなは冷たい声で、咲慧の口調を拒絶する。その冷たい声色に、思わず怯むように頷いた。


この日もこの日とて、市営コンクールの練習だった。

「…やっぱり違うなぁ」

優月が羨ましそうに見る人物は美羽愛だ。海鹿美羽愛。ユーフォニアムなのだが、実力が桁違いに高い。それは、優月さえも分かった。志靉も低音を演出することが上手いのだが、それでも美羽愛と差があるように聴こえる。

恐らく、1年生の中で1番上手い。そう思った。

「えぇ。皆さんに話しておかなければ無いことがあります」

合奏の最中、彼が言う。

「久遠君についてですが。本番に出すか否です。あまり言いたくは無いのですが、今週の金曜日までに部活に来なかった場合は、出られないこととします」

すると、諸越が手を挙げる。

「本人は、部活に来る意思はあるんですか?」

その問に井土は首を縦に振る。

「ええ。しかし家庭の都合で行けていないようです」

複雑な話だ、と志靉がごちる。

「…しかし、やはり部員全員で出たいというのが、私の本心です。ですがもう1カ月も切っている上、1ヶ月以上も休部しているので、このような判断を下します」

これでも、まだ優しすぎる判断だ。しかし…、

箏馬。彼は戻ってくるのか?

「箏馬君」

優月は不安になった。電話口で聞いた彼の言葉。それは確固たる決意が込められていた。

「確かに、最近は天龍にも来てないな」

孔愛が言うと、日心も頷く。

「…それでは、再開しましょう。他の本番も近いですしね!」

そう言って、合奏は再開された。


しかし、井土が期限を確定したということは?

箏馬は間違いなく動き出している。

ただそんな気はした優月は、窓の外を見つめる。

(…箏馬君、戻ってきてね)

優月は、彼が戻ることを信じている。


この後、箏馬の壮絶なる過去が明かされる。


ありがとうございました!

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【次回】

新章 : 想いは紡がれる。『奇跡の始まり』

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― 新着の感想 ―
あの、今回で特に完結とか章が終わったわけでもないけど、でも数字がちょうどいいのでね。合計100エピソード到達おめでとうございます!
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