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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]入部&春isポップン祭り編
10/209

相棒レミリンの章

この物語はフィクションです。人物、学校名は全て架空のものです。

ついに、春isポップン祭りの練習が始まった。


「今日もよろしく。レミリン」

そう言ってホルンを手に取ったのは周防奏音。

レミリンは奏音の持つホルンの名前だ。名前付けの影響はチューバ担当の朝日奈向太郎の影響だ。

3年生として,頑張らなければ…。

すると、どこからか、話し声が聞こえてくる。


「…田中」 

鳳月ゆなが先輩の田中美心に話しかける。

「何ぃ?」

美心は面倒臭そうに、聞き返す。

「ここの、小節どうするの?」 


ゆなが今、練習しているのは、ビブラフォンという少し鉄琴にも似た楽器だ。しかし、実は鉄琴とは全く異なる。

「あぁー…。ここはね…」

ゆなは、鍵盤楽器が大の苦手だと言う。美心は教えることに苦戦していた。



その時、優月も小太鼓(スネアドラム)の練習を叩いていた。

(…いーち…にーい…さーん…しーい…)

心のなかで、小節を数える練習をしていた。

これは、先日から井土に言われていることだ。


いずれも2人は初心者だ。


それでも、優月には楽しみがある。

それは、下校までの数分程をドラムの練習に使うことだ。ゆなに追いつきたくて練習したところ、かなりハマってしまった。


「…新しいスティック、買いに行こうかな…」

優月はそう言って、自分の握るスティックを見やる。学校のもので少し古い物だ。







その練習は茂華中学校も同じだった

「パン!パン!パン!」

優愛がドラムセットのシンバルを3回叩く。

パシンッ!という音と同時に瑠璃が3回タンバリンを叩く。

「私がフィルインするけど、その時は休むんだよ」

優愛がそう言って、バスドラムの上に設置された2つの太鼓のタムを叩いた。

ドコドコドコ…高い音が鳴る。

「…はい!」

優愛がシンバルを叩いて合図するも、タンバリンの音が鳴ることはなかった。

「うわっ!」

瑠璃は驚いたように、手にしている赤いタンバリンを見た。

「…惜しい惜しい…。もう少しだね」

「うー…。もう少し練習しておけば良かったー…」

瑠璃が悔しそうにそう言っていると、顧問の笠松が何かを渡す。

「…これ、合奏曲ね」

そう言って、『Percussion』と『グロッケンシュピール』と書かれた楽譜を渡す。

「…まーた、グロッケン…」

瑠璃がそう言って、鉛筆を手に取った。

不満気ではあるが、どこか楽しそうだった。





その時、優月たちは、合奏をしている。

「小倉君、ドラムがドコドコ言ってる時は、休むんだよ」

そう顧問の井土広一朗が言った。

「はい」

優月は反射的に集中力を高める。


ゆながタムを打つ。ドゴッ!と辺りを切り裂くような音がした。

だからこそ、優月でもタイミングが掴める。

パン!パン!パンッ!

彼がタンバリンを打つ。

すると井土は親指を立て笑った。OKだ。


「はい!次はホルンのソロですね」

そう言って、「周防さん、レミリン!」と井土が声をかける。

周防奏音という3年生のホルン担当の女の子は

「はーい」

と返事する。

「…ここ、強めに吹くんだけど、音が乱れやすいから、気を付けて」

「はい!」

奏音はマウスピースを唇に当てる。そして、横に引く。すると、唇が振動し始める。

ホアァ〜〜ホァ〜…ファ〜!!

緩やかな音から転調、強い音が響く。彼女は中学の頃からホルンを始めているだけあって上手いな、と思う。


「いいですね!あと、ベースです」

そう言って、弦楽器担当の奏澪に視線を向ける。


「…ふぅー」

奏音は金色に光るホルンをそっと撫でる。

このホルンは奏音が自分で買ったもの。いわゆる、My楽器というものだ。


「…これで今日の部活を終わりにします!お疲れ様でした!」

部長の雨久朋奈が、そう言うと部員が、

『お疲れ様でしたー!』

と繰り返した。


「奏音、帰ろー」

美心が奏音に駆け寄る。

「待ってて。ちょっとだけ練習させて」

しかし、奏音はホルンを吹き続けた。


先程のホルンソロのところだ。

フォア〜ホォ〜ファ〜〜!

安定した音に、井土が「周防さん」という。

「はい」

奏音が顔を上げる。

「…ソロの部分、大丈夫そうですね」

そう言って、井土が片目を閉じる。

「広一朗先生、私の他に、ホルンやる人っているんですか?」

「…そうですねぇ。冬馬に2人、茂華に1人いますから」

「茂華でも1人なんだぁー」

奏音がそう言って、足をプラプラと動かす。


「…1人だったんだ」

優月が思い出したように言う。


「小倉君は、知らなかったの?」

井土がそう訊ねる。

「はい。中学では、美術部だったので」


それを聞いた奏音が初めて知ったかのように「そなねー」と言った。

「どういう意味?」

井土が、訊ねると、

「そう、なんだ、ね…っていう意味ですよー」

と奏音は笑った。


何故か、彼女がホルンを手にしている時は、機嫌が良いように見えた。



「てか、優月君のタンバリン、ちゃんと打ててるね。すぐに上達しそう」

「っえ?」

言われた優月は奏音の方を見る。

「あ。ありがとうございます」

「胸、張りなよー」

そう言って、ホルンを前へ突き出す。

この感じ、まだ練習しそうだな、と優月はドラムセットの方へと戻って行った。


すると、井土が「小倉君は…」と彼を引き留める。

「はい」

何か聞きたいことがあるようだ。

「ピアノとか、やっていましたか?」

「…へ?ピアノですか?」 

「はい。鍵盤楽器を任せることも多いんで…」

鍵盤楽器…と優月は、独り口の中で転がす。

「習ってません…。鳳月さんと同様」

そう言って、ゆなの方を見る。

ゆなは、練習以外はスマホでゲームをしていた。


「そっか…」

井土はそう言って、引き返した。


それと同時、優月は8ビートを刻み始めた。どうやらこのリズムが基礎らしい。

元々、音楽を聴くことが好きだからか、自然と叩いているだけで楽しくなってくる。


「…ああ」

それを見た井土の脳裏で音楽が再生される。




その時、ファ〜〜…とホルンの音が響く。

「…まだ吹いていたのかぁ」

朝日奈向太郎がそう言って、奏音を見下ろす。

「あ…。朝日奈」

すると、向太郎が不満気に

「向太郎って呼べよー」

と言った。

「…もういい、帰る」

そう言って奏音が、ホルンを片付ける。

このやり取りは、いつものことなのだろう。向太郎は慌てることなく「ごめんってばぁー」と彼女を説得し始めた。





優月は、スティックを振りながら、考え事をしていた。

それは、親友の小林想大のことだった。

ここ数日間、様子が変なのだ。


ここ最近の会話が,記憶を支配する。

『やっぱり…、吹奏楽部って、楽しいか?』

『…え?』

優月が本を読んでいると想大が話しかけてきた。

『楽しいよー』

彼がそう言うと、想大が『ふーん…』と口角を上げる。

何、気になってるの?、優月が訊ねる。

『…ま、まぁ…』

想大は、片目を閉じてそう言った。

『…まぁ、美術、頑張れー』

そんな彼に優月が目を細めて応援するように言った。


「…想大君」

少し、彼の気持ちがわかった気がする。

もしかしたら彼も…



時を同じくしてだった。

奏音がズカズカと校門から出ていく。

「…あ、待ってってー」

すると奏音が「…何?」と振り返る。

「…ごめんな」

そういったのは向太郎だ。

「…まだ言ってる」

奏音はそう言って「いいよ」と言った。

「…あれ?美心ちゃんは?」

「奏さんと、帰るって」

「そっかぁ」


「…ホルン、ソロ頑張れよ」

「もちろん」

奏音は、こくりと頷く。

「まぁ、奏音ちゃん、天才だからな」

「まぁ、中学の時からやってたからね」


奏音がホルンを始めた理由は、…とあるホルン奏者に憧れたからだ。 

きっかけはこの記事。




[野々村葉菜 全国アンサンブルコンテスト優勝]




葉菜という2つ下の女の子に、憧れて吹奏楽部に入部した。

それから食らいつくように練習した。

練習する度、ホルンが大好きになった自分がいた。


だから誰にも負けない。負けたくない。

そう練習し続けた。

それでも、まだ野々村葉菜には追いつけてはいないだろう。


車が1台通過する。車とすれ違ったその時、奏音が足を止めた。

「私は…高校卒業まで続ける予定。向太郎君は?」

「…俺も、続けるぜ。それに…可愛い後輩も入ってきたしな…」

彼の視線の先には、優月がいた。しかし、彼はこちらに気づいていない。


「…定期演奏会でも、私はソロを吹く。例え、上手い人が入ってきても…」

「俺もだぜ。チューバのな」

そう言って、2人は笑い合った。


「私の運命は、あのレミリンと共にある」

こう残して、奏音は去って行った。

奏音は小さい頃から、影響されやすい性格だ。

そう思って、向太郎も彼女とは真反対の方へと歩いて行った。



それに気づいていない優月は、少し暗くなった空を見る。

「…想大君」

スマホからぶら下がったイヤホンからは、大好きな曲が漏れ出ていた。


その時だった。

トロンボーンの音が聞こえてくる。

見れば夕日の差す方角に、女の子がひとりトロンボーンを吹いていた。

「あ…」

その女の子と目が合う。


短く結んだ茶髪に深紅の瞳。美しい容姿。

明作茉莉沙だった。


この時間まで外を吹いていた彼女は「はい」と声を掛ける。落ち着いた優しい声。

「……」

不思議と優月は、茉莉沙の方へと歩み寄る。


そして、これをきっかけに『あの真相』が明かされる。

ありがとうございました!

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