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吹奏万華鏡  作者: 幻創奏創造団
[1年生編]入部&春isポップン祭り編
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始まりと憧れの章

吹奏楽部ーそれは管楽器と打楽器で構成された音楽を演奏する部活のことである。

主に使われる楽器は、トランペット、トロンボーン、チューバ、ホルン、ユーフォニアム、フルート、クラリネット、オーボエ、サックスなど。

そして、もうひとつ。パーカッション(打楽器)である。打楽器奏者は様々な楽器を演奏する。

これは、そんな吹奏楽部で活動する新入部員と経験者による物語である…



ー中学校の文化祭の発表日ー

「…はぁ」

男の子が、ため息をつく。

すると「どうしたの?」と歩いていたもう1人の男の子がのぞき込んできた。

「いや、個人的な話。小林君には、関係のない話…」 

するとずっと友達の方を見ていたからか、男の子がドンッ!と壁に激突する。

「イテテテ…」

「大丈夫か?小倉…」

男の子、小倉優月(おぐらゆづき)は、「うん」と鼻を擦った。

「…個人的な話ってさ…、もしかして…優愛ちゃんのこと?」

「…うっ」

彼は、少し奥に見える音楽室を振り返る。

吹奏楽部員であろう数人の学生が何やら運んでいる。

「優愛ちゃん…」


榊澤優愛ー。優月の幼なじみ兼後輩で、吹奏楽部に所属している。楽器は確か…

「優愛ちゃんの太鼓、格好良かったね」

小林がそう言った。しかし優月が、いや、と言う。

「…パーカッションな…」


優愛は、元々、音楽に一切の興味を示していなかった。ピアノを、幼稚園の頃に習っていたが、すぐに辞めたらしい。それどころか、優月は彼女がピアノを弾いているところなど、一度も見なかった。

だから小さい頃から、優月と優愛は絵を描いたりバレーやサッカーをして、遊んでいた。


「…って、優愛ちゃん、言ってたよ」

そう言う彼の声は、どこか沈んでいた。

…というのも、部活動見学の時に、優月と優愛は美術部に入部すると約束していたのだ。

しかし、直前で吹奏楽部に入ったらしい。

それでも彼女が楽しいと言うなら、いいだろう。

と最初は思っていた。

しかし、どういう訳か、最近、彼の考えが少し変わってきた。

「吹部って、楽しそうだよなぁ」

気付けば、そう言っていた。

しかし、それはいつものこと。

「…そうだな」

想大も相槌を打つ。

『コンクールでね、金賞獲れたんだ!』

無邪気に笑う優愛の姿が思い浮かぶ。

彼女が笑うのは、いつものことだが、どこか、目が表情が、煌めいて見える。

「そっか、小倉君、優愛ちゃんのことが好きなんだもんな」

という小林の問いに、

「…うん」

と彼は答えた。

「…告白しないのか?」

「部活が忙しいみたいで、最近会ってないんだ」

好きな人にあまり、会えないのは少し寂しい。

しかし…いつしか優月は吹奏楽部に憧れていた。

片思いから始まる物語。


ー1年後の春ー

桜がちらちらと舞い、路面は桜の絨毯を作り出していた。

「新入生、入場!!」

県立東藤高等学校の体育館に、教頭の声が響く。


それと同時、誰かが、トランペットに音を吹き込む。

パァー…と高く華々しい音が体育館へと響いた。

トランペットの音に動かされるように、在校生,教職員,来賓,保護者が、拍手を始める。


そして担任と共に、新1年生が入ってくる。

行進曲…と誰かが呟いた。有識者なのだろう、と優月は思う。

すると、チューバの低音,ティンパニの跳ねる音が聴こえてきた。

緊張も相まって、迫力があるように聴こえた。

しかし、何だ?と優月は違和感のようなものを感じた。

それと同時、

「下手だな」

と、低い声が聞こえてくる。後ろの方からだ。

優月は(誰だ?)と目をキョロキョロと動かす。しかし今は式中だ。後ろを見るなどあってはならない。

だが、優月も「確かに…」と小さな声で納得の言葉を吐き出す。

元々いた茂華中学校は、人数こそ少ない者の、ひとりひとりの演奏が上手だ。まるで少数精鋭を絵に描いたような所だった。 


しかしここは、やる気がないのか、ただ単に実力不足なのか、音は掠れ掠れ、ティンパニも全然練習していないのか、時々、音低が外れる。

だから優月は、

(優愛ちゃんが聴いたらキレるな…)

と内心、呆れていた。

それでも、淀みなく進む厳格な雰囲気を乱すことは無いので、少し不思議だ。


…と優月は批評をかましていたが、彼は楽器に触れたことなど無い。ただ、優愛からよくそんな話を聴いていただけである。

(…ん)

その時だった。

音程が芯を食う程に上手い…人物がいることに気が付いた。

しかし、誰なのか、何の楽器なのかは、分からなかった。


『お疲れ様でした!』

部長の雨久朋奈さめひさともながそう言った。

「終わったぁ…」

もう1人の女の子が、ヘタレ込むように椅子へと着席する。

「今年は何人、入部するんだろう?」

その女の子、周防奏音すおうかのんがそう言った。

「入部…。それは、一度入るが、急に辞める、ただの悲劇…の始まりさ」

男の子がそう言って手を放り出すように広げた。

「…悠良ノ介、御託はいいから、片付けなさい」

機材を抱えた女の子が注意する。しかし、その男子は「へちょ〜」と動く気配は無い。

「田中先輩、疲れましたー」

「全く…」

男の子は銀色のユーフォニアムが入ったケースをちらりと見る。ケースに貼られたシールには『川又悠良ノ介』とマジックペンで書かれていた。

「美心、一旦、教室戻るよー!」

部長の朋奈と、奏音が手招きする。

「…打楽器、復元しなくていいの?」

「今日の部活で組み直せばいいよ」

と朋奈が言うと、彼女は2人の元へかけ寄った。

田中美心(たなかみこ)ー彼女は部内で唯一のパーカッション奏者だ。

「はぁー…ティンパニ疲れた…」

「普段は、鍵盤一筋だもんね」

と3年生3人は、教室へと戻って行った。


ー翌日ー

「いいですか?必ず、ひとつは部活に入って下さいね…って、どうすりゃ良いんだよ…」

小林想大(こばやしそうた)が、優月に向かってそう嘆いた。

「小林君は美術部でいいじゃん。中学の時に高校まで続ける、って言ってたじゃん」

「あははは…」

「もしかして、考えが変わった?」

優月がそう言うと想大が「ああ」と頷く。

「…やっぱり、美術やってた時にも言ってたけど、友達とワイワイやりたいな、ってのはある」

「ワイワイ?」

「…そういえば、優月君は何の部活入るんだ?」

すると彼は、細い人差し指と中指を真っすぐに立てる。

「うーん…、美術部か……吹奏楽部…」

「えっ…。まだ悩んでるの?」

「…うん、顧問による」

顧問によるって…と想大が訝しげな顔をする。すると今度は薬指を立てる。

「心配な点が3つ。ひとつ、担当する楽器は選べるのか、ふたつ、練習時間と休みはどれくらいあるのか、みっつ、顧問はどんな人なのか?」

「そんなに、顧問が大事なのか?」

想大は、彼の言う事がよく分からないだろう。

「だって、すごい厳しい人だったら、どう?」

「うーん…」

それは、考えるまでも無い。

嫌だ、と想大は言う。

「あまりにも厳しくて、練習時間が遅くなったら?」

彼らは電車登校だ。便数もそれほど多いわけではない。時刻表も、夜間は1時間置きが多く、一度乗り遅れれば、帰宅時間は大きく変動する。

「…なるほど」

しかし、優月の話はまだ続く。

「何より、僕は笛を吹くことすら出来ない。トランペットとか任されたらお終いなんだ」

「…おいおい。どこに初心者にトランペットを任せる吹奏楽部があるんだよ?」

と、想大は突っ込んだ。

「まぁ、美術部入って、頑張るよ!」

「うん」

優月は、元から想大を誘う気は無かった。きっかけは優愛に憧れたというだけなのだから。

 

ー放課後ー

「…よし!片付け終わったー」

楽器、機材諸々を片付けた美心が朋奈にそう言った。

「お疲れ様ぁ。本当、よく働くね」

「副部長としてよ。去年の部長と副部長も同じことしてたし…」

そう言って丸いクッキー缶を、ピアノの上に置いた。カラカラと木と木がぶつかるくぐもった音がする。

すると奏音が金色に光るホルンを手に取り、ホッとため息をつく。

「さて…部員も少ないし、頑張って誘わないと…」

「そだよー」

美心が缶の中から2本の木の棒を取り出す。

「…ドラムスティック」

奏音がそう言うと、美心が「うん」と頷く。

「毎年、ドラム目当てに来る子も多いからね。入部しないクセに…」

その時、ぶつぶつと言う美心に背後から悪寒を感じる。


「ごめんなさい。トロンボーンにしちまって…」

幽霊のような細々とした声が美心の体を凍らせる。本当に幽霊を見たかのようだ。

「ま…茉莉沙ちゃん…」


声の正体は、トロンボーンケースを手に持った女の子、明作茉莉沙(めいさかまりさ)だった。

「…いや、ま、茉莉沙ちゃんのことを言っていた訳じゃなくて…」

美心が必死に弁解を始める。

「…言ってたんですよれ?」

しかし、茉莉沙が彼女へ詰め寄る。その目はどこか煌めいていた。

「…い、いや」

こうなると、少し面倒臭い、と美心が覚悟したその時、扉が弱々しく開く。

「…失礼します」


入って来たのは1人の男の子。

「見学に来ました…」

その男の子こそ、優月だ。
















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― 新着の感想 ―
我最古参になれたり?めっちゃ面白そうというか実際面白いので推させていただきます
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