蛇足「夢の目覚めに花束を」
なんか割と良い感じに締めすぎて続けられなさそうなので、一旦完結とさせていただきます。
いや、本当は続けるつもりだったんですけど……なんか思いの外、この話の続きを書くのが蛇足になってしまいそうで……すみません。
七奈の家出事件から数日。ルーシェと七奈は一緒に眠る日が増えた。もっとも、眠ることのできない彼女からしたら、暇な夜ができただけかもしれないが、それでも……充実した夜だ。
大切な人の寝顔を見て、時計の針の音を聞き、心を休める。なにものにも代え難い時間。
しかし、その日は少し違った。
いつもと同じく七奈を寝かしつけ、ぼーっと時を過ごしていたはずのルーシェはいつの間にか──故郷を訪れていた。
眠った自覚はない。ほんの少し、瞬きをした間に彼女は夢の旅に出ていた。
長い夜が明けたルーシェを祝福するように、故郷は賑わいに満ちていて。家族も、ジェリーも、村人も笑っていて。なにもかもが、燃えたはずのあの村が輝いていた。
お祝いされる資格なんてないのに、ルーシェは夢の中のジェリーに手を引かれるまま歩き出し、笑顔の輪へと加わる。
温かかった。
苦しかった。
もう二度と見られないと思っていた光景を見て、相反する感情が生まれては、ぶつかって、幸せだった。
夢だとわかっていても覚め難い。夢だとわかっていても離れ難い。最高の悪夢の前に、ルーシェは笑っていた。
きっと、これから自分は捨てたものを拾って歩いていくことになる。魔女になるために、捨てたもの。魔女であるために、捨てたもの。魔女であり続けたがために、捨てたもの。色んなものを拾って、戻っていく。
戻らなければならない。
七奈という家族を、普通の幸せに導くために。落としてしまったものを、取り戻さなければならない。
「ルーシェちゃん、今、幸せ?」
それは、どういった意味の言葉か、どう受け止めるべきか、ルーシェは悩む。祝われてる現状を指すなら、間違いなく幸せだ。現実の自分を指すなら……そちらも、幸せのはずだ。
二つの幸せに違いがあるとすれば、一つだけ。それは、彼女を囲む人の違い。ここには、七奈が居ない。今、自分が幸せにしたい人が、居ない。
だからきっと、ルーシェが居るべき場所はここではない。
「幸せよ。幸せだけど、私の場所はここじゃない」
握られていた手を離せば、先程まであった景色は消え、目が覚める。体を起こせば、隣には七奈が居て。時計は、最後に見てから数時間分の時を刻んでいた。
魔女になってから13年。
初めて、ルーシェは夢を見た。
◇
「夢を見た〜?」
「えぇ。久しぶりにね」
「……それって、凄いことなんですか?」
「凄いもなにも、ちゃんと寝れたってことだよ! ルーシェちゃんは、不眠の呪いから解放されたかもしれないってこと!」
「っ! す、凄いじゃないですか!」
ざわつくリビング。
ただ一言、夢を見たというだけでこれなのだから、賑やかな家だ。けれど、賑やかになる理由は明確で、理解するのも難しくはない。
不眠の呪いは魔法の中でも最上位に位置する。故に、魔法ではなく、呪い。原理を解明すること自体難しく、ヒントなどなく自力で解ける者など、現代に至るまでいなかったのだ。
現魔女団団長の娘であるカリーナでさえ全貌を知らない呪いを、ルーシェは自力で、もしくは外的要因ありで解いた。
それだけで、歴史に名を残してもおかしくない実績だ。
「……凄いは凄いけど、どうやって解いたの〜? 魔女の才能でいったら、おチビちゃんの方があるくらいなのに」
「知らないわよ。わからないから、私だって困惑してる」
「まぁまぁ、これから少しづつわかっていけばいいんじゃない? あたしたちには、時間もまだたっぷりあるんだし」
「そうだよ! わたしだってがんばって勉強するから!」
「別にそこまでしなくても……」
呪いが完全に解けたかもわからないのに、原理など調べたところで足しになるかわからない。
だと言うのに、ジェリーと七奈は溢れんばかりのやる気を出しており、カリーナでさえ、興味を引かれている。
どうせ、いつかは通る道。
魔女でありながら、人に戻ろうとするなら。人並みの生活に慣れる必要がある。その中で、睡眠は必須事項だ。
人らしくあるなら、当然するべき行為であり、しなくてはならない行為。
「人に戻るなら、必要よね」
微笑みながら、考える。
許されない罪を、自分はこれから先ずっと背負って生きていく。魔女から人になろうと、それは絶対に逃れることのできないもの。
故に、これから歩く先はぐねぐねと迷いながら進んでいくことになる。
いつか見た、あの幸せな景色に近づく為に。終わりかけた世界で、一筋の光と共に。旅路の果てに、どうか笑顔がありますようにと、祈る。
「今、幸せよ、私は」
噛み締めて、歩く。
色んなことに慣れても、この幸せだけには慣れないように。噛み締める。
未来は誰にもわからないから。
次回もお楽しみに!
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