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13話「秘密の中にあるもの」

 来週は日曜更新の予定です。

 誕生日なので……ちょびっと遊びに行ってきますので、ご容赦を

 魔法は想像力の世界である。

 イメージを力とし、思い描いたものを空に映し出す異能。習熟するには、幾年もの歳月が必要であり、それすら才能が欠かせないシビアな世界。

 そんな中で、七奈は間違いなく天才だった。魔法を習ってから僅か三年で、『ある』ものを変化させ操る魔法を習得し、『ない』を『ある』に変える魔法さえ掴んでいる。先天的ではなく、後天的に獲得した力でこれなのだから、自分たちの世界に居たらどうなっていたのか。



 今日、初めて彼女の魔法を見たカリーナでさえ、そう思わずにはいられなかった。



「やるね~、おチビちゃん」


「えっ? あ、あぁ、これのことですか?」


「そうそう。まだまだ半人前だ~ってルーシェから聞いてたから、あんまり期待してなかったんだけど……こうも自然と魔法を使いこなしてるなんて、驚いちゃったな~」


「ホントですか?」


「ホントもホントだよ~。君くらいの歳で、そこまで『ない』を『ある』に変える魔法が使える子、珍しんだから。……まぁ、作り出せてるのは小っちゃい石ころだけみたいだけど」


「あはは……大きいやつは、まだなかなか上手くいかなくて……」



 結界の調整に言ったルーシェの代わりに、カリーナが魔法の稽古に付き始めてから早一時間。黙々と小石を生み出し続けては消し、生み出し続けては消しを眺めるのにも飽きたカリーナから話は始まった。暇つぶしがてらにと引き受けた面倒ごとだったが、光るものを持つ七奈に、彼女の興味は惹かれる。

 少し前までの七奈からは信じられない成長曲線だが、そもそも、最初から片鱗はあったのだ。ただ、ルーシェもそちら側(天才)に近しい者だったから分からなかっただけで。



「……落ち込まなくても、おチビちゃんはいい線言ってると思おうよ~? あとは少しずつ積み重ねるだけでも、いい魔女に成れるって」


「……ありがとうございます。ルーシェさんはあんまり褒めてくれないから、嬉しいです」


「あぁ~、まぁ、あの子ってあんまり師事するの向いてなさそうだしね~。それに、ルーシェ自身、結構要領も良かったから、余計におチビちゃんに期待してるのかも」


「期待……あ、あの! カリーナさんって……ルーシェさんの師匠、なんですよね? 会った時のルーシェさん、どれくらい魔法が使えたんですか?」



 純粋な期待か、好奇心か。少しの怯えが混じりながらも質問する七奈に、カリーナは口を閉ざす。ルーシェからは、あまり魔女団の内情や魔女のことを話過ぎるなと釘を刺されていたからだ。ただ、まぁ、これくらいならいいだろう、と彼女は勝手に線引きを決めて語りだす。どうせ、なにも話さなかったら、あの退屈な時間に戻るだけ。それなら、ちょっとくらい身を削って友好を深めるべきだろう。

 なんて、打算九割善意一割の想いで口を開く。



「ルーシェはねぇ~、会った時から凄かったよ? 息を吸うように魔法を使って、雨雲すらないのに雷を落としてきたからね——ワタシに向かって」


「……す、すごいですね」


「でしょ~? でも、それも、あの子が物心が付いた時から魔法を使えたから。だから、そこまで成長できたの。おチビちゃんも、変に比べちゃダメだよ~? ワタシたちとおチビちゃんは、前提から違うんだから」


「前提から、違う……だったら、もっとがんばれば、ルーシェさんのこともいつかは——」


「超せるだろうね~」



 時間さえ、経験さえ積み重ねれば超せる。

 故に、ルーシェは七奈を褒めない。いずれ超す、いつか超す。それは確定事項だから、ルーシェは必要以上に七奈を褒めない。飴と鞭の配分を、間違えない。飴と鞭を間違えて、自分の力量を誤って、散っていった魔女たちを知っているから。



「——それが、褒めてもらえない理由かな」


「超せるから、褒めてくれないってこと?」


「当たりだけど、ちょっと違うね。魔女はさ、歪みやすいんだよ~。小さい頃から魔法が使えて、下手に才能があれば一時的とはいえ世界の法則にさえ干渉できちゃうんだもん。全能感、それ故の多幸感が、人の心を簡単に狂わせちゃうの」



 奇跡ともとれる結果を生み出し、それを幾度も使うことのできる異能が魔法。血筋か、偶然か、それに芽生えたものは大なり小なり性格に影響を受ける。他者が一生をかけても実現できない偉業を、魔女は一瞬でやってのける。指先一つで、人の命さえ消せる。魔法を使いこなせるようになればなるほど、全能感は頭も心も支配していく。

 誰かの一生は、自分にとっての一瞬でしかなく。自分の一瞬は、誰かにとって一生にさえ釣り合わない。まさに異能、まさに奇跡。



 そんな現実が、空想のような現実が、魔女を狂わせる。



「狂った魔女は、大抵が酷く加虐的な思考になったり、油断や慢心を持ちやすい性格になる。そんな魔女が、戦場に出るとどうなると思う?」


「えっと……すごく酷い戦場になる?」


「そうだね、酷い戦場になるよ……狂ったやつから順々に死んでいく。自分は強い、自分以上の存在なんていない。そんな慢心が、死につながる」


「…………」


「怖いよね~。けど、忘れないで。魔女の戦場での死因の九割は、そんな歪みからなんだから。……でも、おチビちゃんは運がよかったよ」


「運が、よかった?」


「あの子は——ルーシェは、ワタシが知る中で一番マシな魔女だからね~。君が拾われたのが、ルーシェでよかった」



 何人と、何十人と魔女を見てきたカリーナだから言えること。ルーシェという魔女は、マシだ。狂気に呑まれることなく、魔女の仕事を通しても心を殺し続けることで、精神を保っている。彼女は決して、無茶や無謀は犯さない。

 もっとも、作戦遂行中に独断行動をし、私情で団を抜けた彼女が今どうなっているか、カリーナは完全には把握してないが……自分が助けるより、少しはマシだろうと、思っている。



「……色々話が逸れちゃったけど、まぁ、結局のところはおチビちゃんが健やかに育つためかな。歪むことなく、真っ直ぐに」


「それなら、嬉しいです。そこまで思ってもらえるなんて、考えたことなかったから。わたしを拾った理由も、教えてくれずじまいだったし」


「魔女だって、人には恥ずかしくて言えないことの一つや二つあるものだよ~、気にしなくてもいつか話してくれるって」


「ですかね?」



 困ったような微笑みを浮かべる七奈にカリーナは程よく寄り添いながら、話し続けた。自分が得意な魔法、時間魔法のこと。それを利用して体の成長(老化)を止め、全盛期を維持していること。線引きに触れぬよう、話のタネになるようなものは全部、全部話した。



 ——魔法の稽古が進んでおらず、ルーシェに怒られたのはこの後の話だ。


 ◇


「……随分、あの子と仲良くなってたみたいね」


「嫉妬~? 別にいいじゃん、同じ家で暮らすんだから仲良くなった方が得でしょ?」


「文句は言ってないわ。ただ、捕虜の自覚が薄いことを指摘しただけ」


「それを文句って言うと思うんだけどな~? まぁ、ワタシも思うところはあるけどさ~」


「なにが、言いたいの?」


「おチビちゃんさ、流石に魔女のこと知らなさ過ぎじゃない? あれだど、色々問題あるように思うな~」


「…………教育方針の違いよ。教えるべきことと、教えなくてもいいことを選別してるだけ」



 選別。そう、あくまで選別だ。

 まだ教えなくてもいいと思ったことや、教えるべきだと判断したものをルーシェは話さなかった。それだけのことだ。だというのに、カリーナの目つきは鋭いまま、いつもの飄々とした態度からは感じられない意思が見える。



 言うべきことから逃げるなと。

 真実から逃げるなと。

 朝打った釘を打ち返すように、視線で刺してくる。



「見つめられても、答えは変わらないわ。私は、私が話すべきだと思うものを話し、伝える。言われなくても、真実から逃げるつもりはない」


「あっそ、ならよかった」


「……そうよ、私は、逃げない」



 逃げるなと、自分に言い聞かせる。

 逃げるなと、自分を追い詰める。

 告白は、いつか通らなければいけない道だから。

 罪からは、逃げることなどできないから。



 魔女は歩みを止めることなく絞首台に登る。

 殺されても(憎まれても)いいと思った。殺して(愛して)欲しいと思った。

 汚れた手は拭えないとわかっていたから。 

 次回もお楽しみに!


 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!


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