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10話「身勝手な願いだとしても」

 遅れてしまい申し訳ありません……ちょびっと立て込んでまして……

 次の投稿は年が開けたあとの第2土曜日の予定です!

 朝が来る。

 刻一刻と迫るタイムリミットを知らせるように、朝が来る。増えていく重荷は心地いいような、苦しいようなそんな感覚で、ルーシェの心にのしかかる。表情には出ていないことを強がりと捉えるか、大人だと思うか、きっと人それぞれだろう。



「……結界、どうだったの? ルーシェさん」


「あまりよろしくはないわね。破られたなんてことはないけど、解析された跡が残ってるし……危険な状況よ」


「じゃ、じゃあ!? ここ、出ていかなきゃってこと?」


「そうは言ってないでしょ? 安心して、次善の策は考えてあるから。今日はそのために、七奈にがんばってもらうわ。できる?」


「う、うん! わたし、がんばる!」



 嘘を見抜けない七奈も、ルーシェの違和感には気付く。薄っすらとした雰囲気の違いや、佇まい。なんとなく、なんて曖昧な言葉に頼ってしまいたくなるような微細な変化だが、短くない付き合いがそれを気付かせる。

 逆も然り。ルーシェは自分の普段との違いに、七奈が気付くことを信じている。故に、結界に異常があったという真実と、破られてはいないという嘘を混ぜて言葉にする。魔女(誤魔化す者)として、経験の差を押し付け不安の芽を潰す。



 魔女として、一人前になって欲しい。

 人として、優しい善き人であって欲しい。

 子供として、まだ無垢なままでいて欲しい。

 胸に抱える想いを表に出さないまま、ルーシェは時に家族として、時に師匠として、七奈と接する。



 コインの裏に隠した事情も、望みも見せぬまま、前を歩く。

 後ろを歩く少女が道に迷わないように。

 後ろを歩く少女が善き人生を刻めるように。


 ◇


「——というのが、結界魔法の使い方よ。どう、案外簡単そうでしょう?」


「聞くだけなら、わたしでもできそうだけど……なんでこれが魔法の中でも上位の技術になるの?」


「それはね、結界の強度に魔女の腕と使い魔の質が直結するからよ。例えばそうね……この世界の物に例えると、普通の魔女が作れる結界は精々三桁のダイヤルロックくらいのものなの。同業の人間にかかればおやつにしかならないような、杜撰な結界ができあがってしまうわ」


「……例えがわかなんない」


「——んんっ! なら、あなたがよくさわるスマホのパスワードに置き換えましょう。普通の人なら数字で四桁、凄い人は英数字を組み合わせた桁数もわからないようなものを作れるの。……どう? これならわかりそう?」


「なるほど!」


(本当にわかってるのかしら、この子……)



 普段の七奈からは考えられないアホの子のような返事といい笑顔に不安を抱えるルーシェだったが、いざ実戦が始まれば、その憂いはあっという間に消えてしまう。

 きっかけはあの日、魔獣を倒すため『ない』から『ある』を生み出した時から、七奈の才能はどんどんと開花していったのだ。元々、魔法の飲み込み自体は悪くなかったし、あとは時間が解決してくれるような壁があるだけだとルーシェは考えていたが、七奈の魔女としての力は彼女の想定を超えて成長し、実っていく。



 元々才能が眠っていたのか、それとも、火事場の馬鹿力が限界を超え更なる伸びしろをくれたのか。わからないことは多いが、これだけは言える。今の七奈は、同年代だった時のルーシェより強い。経験云々では覆せない差が、そこにある。



「ねぇねぇ、ルーシェさん?」


「なに?」


「結界魔法の練習はいいけど、さっき言ってたわたしにがんばってもらうことって?」


「……まだわからないの? 作ってもらうのよ、七奈に。新しい結界を」


「へぇ……えぇ!? わたしが結界を作るの!? ほんとに!?」


「そうよ。勿論、ルークや私も手を貸すけど、メインは七奈の仕事。外の結界を作ったのは私だし、また私が作るってなると、パスワードも同じようなものになって簡単に突破できてしまうでしょ?」


「でも……」


「心配しなくても、七奈の結界は保険よ。もしもがあった場合は、最低限の土地ごと適当に確保しておいた土地に転移させるわ」



 安全策は二重三重にあってこそ意味がある。

 外側の結界を、畑や家を大きく囲っても余るくらいな範囲で作ったのはそのためであり、セーフハウスに使える土地も余裕があるように確保済み。

 問題だったのは、この手札を切るタイミングだけだった。



「転移って……もう、ここには戻れないの?」


「難しいわね」


「お墓参りくらいなら……許してくれる?」


「七奈がもっと強い魔女になって、いい子にしてたらね」



 燃え残った街の跡に遺体や骨などなく、七奈のいう墓は土の下に何もない、ただ故人の名前が記された石があるだけの代物だ。けれど、それが彼女にとって大切なものに変わりはない。

 だから、ルーシェは否定せず、諭すような声色で話し優しく髪を撫でる。かつて、幼き自分がされたことをなぞり、寄り添う。それが、意味のない償いだったとしても。


 ◇


 無事新しく張られた結界、その内部で七奈やジェリーが寝息を立て始めた頃。問題の、結界が破られた形跡がある場所の近くでルークは待っていた。その姿は、普段の彼からは感じられない死の気配に満ちており、恐ろしい。双頭の大狼、ルーシェたちの世界でも神を喰らった逸話のある魔獣の形。

 目も口もわからず、黒だけが模る異形。



『…………』



 獲物を待つ彼のもとに、彼の間合いに、普通の人間なら入ってこない。

 普通なら。



「ひっさしぶり〜! ルーク! なになに、今日はやけに殺る気マンマンじゃん! 怖いよ~?」


『ビビらせるためにやってるんでな、相手がそう思うなら願ったりかなったりだよ——カリーナ』



 結界を破り現れたのは魔女・カリーナ。魔女団に所属する魔女の一人であり、ルーシェの教育係でもあった女性。



 そして……ルーシェに故郷を滅ぼす任務を渡した張本人である。

 次回もお楽しみに!


 誤字脱字などがありましたらご報告お願いします!


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