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【006】澪の知識

 時生は、まず歴史や現代社会の質問をすると決めた。


「今年の暦は?」

「大正だ。大正五十年!」

「干支は?」

「うっ……うさぎだ! 来年は、たつだ!」

「よく分かりますね」


 にこやかに時生は頷く。すると澪が嬉しそうに頬を持ち上げた。


「開国したのは、いつですか?」

「うっ……ええと……ええと……わ、わかんない……」

「なるほど。では、江戸時代は、何年まででしたか?」

「へ? 江戸……? なんだそれは?」

「ちょっと難しかったですね」


 この言葉に、時生がむっとした顔をする。


「すぐに覚えてやる!」

「その意気です。じゃあ、次の質問です。お父様のことです」

「なんだ?」

「お父様のお仕事は?」


 時生は制服から、陸軍の軍人だという解答を念頭においていた。


「知ってるぞ! お父様のことにおれは詳しいんだぞ! お父様は、帝国陸軍あやかし対策部隊の副隊長なんだ!」

「えっ」


 それを耳にして、時生は驚いた。

 あやかし対策部隊というのは、聞いた事が無かったからだ。元々軍の知識に関しては欠落しているに等しいが、公的な機関に、一般的にはいるかいないか分からない、あやかしの部隊があるとは知らなかった。たとえば裕介の通う学校の授業にも、あやかし関連の課題は無かった。全ての宿題を押しつけられていたから間違いない。だがこの家に来た時も、夢うつつに偲本人からもそう聞いた事があったように思い出す。


「? 間違っているわけがないぞ!」

「そ、そう。お父様のことは、澪様は僕よりずっと詳しいと分かって驚いて」

「ふん。それはそうだ。僕は家族だからな! 次は?」


 澪の声に、気を取り直して、時生は続ける。


「あやかしを見る力をなんと呼びますか?」

「見鬼の才だ!」


 これに関しては、高圓寺家で少しだけ学んだ知識なので、時生にも分かることはある。


「正解です。では、未来を見る力は?」

「知ってるぞ! 先見の力だ!」

「これも正解です」

「当然だ。おれは両方持ってるからなっ」


 満足げに笑った澪の声に、時生は驚いた。


「そうなの?」

「うん。だって、おれは礼瀬家の跡取りだぞ! 普通は持ってる。お父様も持ってる! だからお父様はおれの先生なんだ」


 それを聞いて時生は目を丸くした。


「持っている家が、高圓寺家の他にもあるんだ……」


 ぽつりと時生が呟いたのを、澪が聞きとめた。


「そんなことも知らないのか? 四将といって、この帝都には、特別な力を持って生まれる家が四つあるんだぞ。おれの礼瀬家と、相樂(さがら)家と黎千(れいぜん)家と、高圓寺家というんだってお父様が前に言ってたもん」

「……そうなんだ」

「うん! でも一番は、見鬼でも先見でもなくって、この四つの家には、〝破魔の伎倆(ぎりょう)〟を持つ者が生まれるから、すごいんだぞ! お父様もおれも、勿論持ってるんだからな! いつかはおれも、お父様のように、みんなをこの力で守るんだもん。時生のことも守ってやる」


 初めて聞く言葉に、時生は頷いてから首を捻る。

 高圓寺家でも、破魔の技倆という語は耳にしたことが無かったからだ。


「破魔の技倆は、どんな力なの?」

「ううんと、な。あやかしには、良いあやかしと悪いあやかしがいるんだ。良いところと悪いところが両方あるあやかしもいるんだって。絶対にどちらかというわけではないんだって、お父様はいつも言ってる」

「うん」


 それは人間だって同じであるから、時生は納得する。


「破魔の技倆は、その中の悪いあやかしを退治したり、悪いことをしたあやかしに注意するときに使うんだって」

「そうなんだ」

「うん! それ以外は、『ヒミツだ』ってお父様は言うんだ! だからヒミツなんだ」


 そのような力も世の中にはあるのかと、時生は素直に驚きながら頷いた。


「次は?」

「ええと――」


 こうして異国語であったり、算学であったりと、その後も時生は質問を続けた。

 実際澪は様々なことを知っているが、時生から見れば、教えられることはたくさんありそうだった。勿論時生より優れた知識を持つ面も多かったが、これならば自分でも役に立つことが出来そうだと考える。


 謎々のように、そうして問答を重ねていると、すぐに昼食時になった。

 扉がノックもなく開いたのはその時である。


「昼飯ですよー!」


 入ってきたのは、十五・六歳くらいの少年だった。


(わたる)!」


 するとそちらを見て、澪が笑顔になった。


「おっ、坊っちゃんは今日も元気だな! ええと、そちらが時生さん?」

「あ、はい!」

「俺は渉と申します。ここの書生なんだ。宜しくお願いしまーす!」

「高圓寺時生です、宜しくお願いします」


 そんなやりとりをしてから、朝に食事をとった洋間へと向かった。

 本日の昼食はカツレツで、また時生は残してしまったが、非常に美味だったし満腹になり、泣きそうなほどに幸せだと感じた。




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