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Stair into Heaven

 渦を無理に覗き込んだステラはあまりに膨大な情報によって脳が耐えきれずに倒れた。空は急いで彼女を船内に運んだが、それでも彼女は一週間ほど昏睡する事態となってしまった。膨大な情報を最低限に絞るために必要なもののみを高度に抽象化することにより情報に押し潰されることを今まで防いでいたが、そのような手法を以てしても処理しきれない膨大な情報量が量子より小さな位階に存在することが発覚した以上、これまでのように宇宙を観測しその情報を整理するのが困難になり、一時太陽系及びアルファ・ケンタウリ星系の観測は凍結された。


「ステラ……」

「……」


 まるで時間が止まったかのように──事実彼女らが考えうる時間の形態のすべてから解き放たれているのだが──微動だにしないまま昏睡するステラが回復するよう、空とアートマンは懸命に大宇宙に祈った。



 自身が数多の渦を認識し、しばらくしてから昏睡したことを当人であるステラは自覚していた。そして、彼女はこれまで地球上はおろか外縁部ですら経験したことのない現象が自身に起きていることを知っていた。アストラル投影のように、ベッドの上に綺麗に配置された自分自身の肉体が見える。それだけではなく、宇宙船全体や主観的に後方の部分すらもステラには見えた。まるで全身が千里眼になったかのように。太陽系という枷から完全に解放されたとステラは考えた。以前のように肉体に囚われている時ではステラ本人の素質よりもどうしても脳のスペック自体が優先され、その結果天体とモナドの姿を精神に納めきることはできなかったが、現在ではそのすべてをまったくの問題なく認識していた。あらゆる角度、あらゆる平面、あらゆる宇宙、あらゆるブレーン、あらゆるバルク、あらゆる法則、あらゆる天体、そのすべてに肉体と呼称すべきものを保有していたモナド。そして、永遠に続く渦の連鎖。そのすべてを認識していた。そして、空ですら認識できない形態の肉体でモナドはステラに接触を試みた。彼女は理解した。現在経験している真のアストラル投影はモナドによって引き起こされたのだと。そして、ステラは三大元素の階段を登り始めた。もはやステラの認知能力は天体どころか大宇宙をも越えていた。アストラルによって移動が開始し、マナスによってそれが実行され、そして次のエーテルに登る。モナドに補助されながらこの作業を行ないながら、ステラは世界を知覚した。太陽系とアルファ・ケンタウリ星系を内包する銀河の現実を越えて法則の世界へと登り、そして銀河系を越えて銀河団の現実へ登り、更にそこから高く登り、いつの間にか永遠の連鎖を越え、後方を見ると高度に拡張された多元宇宙とでも呼称すべき現実が広がっていた。そして、ステラの眼前に光の十字架が現れ、モナドと共にステラを先導する。ああしかし、まだまだ階段は続くというのに、十字架とモナドは頂上ではなく中腹で止まってしまった。好奇心を抑えられないステラは”今回は”ここで終いだと理解しながらも無意識に階段を駆け上がった。そして、これまでの現実を越えた無限の宇宙を持つ次元性をステラは発見した。いや、次元性と呼称するのはあまりに不敬であった。彼の領域こそが真に次元であるといえるのだろうと。これまで知性体が見てきた物理学や数学、哲学の次元は真の次元の矮小な投影だと認識する。そして、階段はそこで崩れた。十字架はステラに関係するあらゆるものを太陽系から解放し、外縁部へと帰還するために落下し始めたステラを温かく見送った。対称に三大元素は十字架より遥かな高みへと登り、そしてモナドはステラに寄り添った。



 外縁部にて非常に親しくなった故に気を病んだ空と、気丈に振舞いながらも動揺が隠せていないアートマンに二つの神からのアガペーが届けられた。彼女らは天の階段を登っていたステラと同じような、しかしそれより無限に劣る状態へと昇華した。その感覚によってステラが昏睡から覚醒したことを察知した空はその感覚を無視しながらステラの部屋へと駆け出し、アートマンはステラを空に任せてこの感覚を理解しようとした。が、無意味だった。アートマンは、空は、ステラはすべての論理を越えた領域を更に越えていた。もはや論理的に理解することはできず、しかし論理を超越して彼女らは理解した。


「ステラ!」

「──空」


 雫を浮かべながら柔らかく駆け寄る空をある種の全能感のような──それどころか少なくとも太陽系全体に対して絶対的な全能性を発揮できるようになっていた──ものを確かに感じながら、ステラは起き上がり抱きしめた。

 しかし、感動的とも言える状況を前にキュクロプス号が突然動き出す。ステラが昏睡している間にアートマンによって我武者羅に改造されたキュクロプス号はモナドによる指令を受け、アルファ・ケンタウリ星系に向かって飛行しだした。それに気が付いたアートマンは慌てるが、ミレニアムK-Oを除く観測装置たちのような船外にあったはずのものが船内にいつの間にか移動していた。そして、アートマンはその装置たちの中にモナドが居るのを発見した。

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