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The Monad

 ステラは自身のベットに空を寝かせると空の手首を軽く握り、脈を測ろうとした。鼓動自体は問題なく発生していたが、外縁部では少なくとも物理法則が異常な形で機能していたのを思い出す。生理学的な面はどうなっているのだろうか。少なくとも彼女らの生命活動に問題は今のところ見つからないし、ベットの縁に腰掛けながら空の頬を起こさない程度に無自覚につついても指に柔らかな感触があることから、神経系もどうやら問題ないようだ。他の五感も先ほどから正常に機能しているが、先ほど気になり始めていた空腹はいつの間にか消えていた。

 気になることは非常に多いが、ひとまずステラは空の様子を遠目に確認する。名前の通り日本人のような、それでいて日本人離れした顔の造形。記憶が正しければ彼女はハーフだったはずだ。ふと自身の手のひらを見る。手のひらの上には紫がかった綺麗な黒曜石の繊維の束が転がっていた。更に顔の向きを身体と同様の方向に直すと、目の前には空の顔があった。ベットの縁に腰掛けていたはずが、無意識のうちに空の近くに移動していたようだ。誰が見てるわけでもないのに恥ずかしがりながら静かに離れ、そしてアートマンがキュクロプス号内にいるかを確認しに行った。


「──なんとなく子供っぽい子だなって思っていたけれど、ちゃんと女の子みたいな反応はするのね……」


 いつの間にか再び起床し、薄っすらと目を開けて様子を見ていた空は照れ隠しに小さくそう呟く。



 通路に飛び出したステラは自身の父を探し始めながらあることについて考察していた。宇宙の法則。おそらくそれは名前通り宇宙に偏在する不変の秩序そのものであり、それは複数存在するのだろう。博士たちが会話の最中に太陽系という言葉を関連性の高いものとして出していたから、少なくとも天体の集合に宇宙の法則は存在するのだろう。


「でも、宇宙にとって星って最小単位なのかな」


 吐息と共に自身に対してそう溢す。ある考えでは宇宙は原子同士の衝突によって始まったという。ならば、原子は星々と同様に宇宙の構成要素であり、その集合である分子はより小さな天体群として機能する可能性があるのではないか。更に考えれば、星も原子の集合である分子の集合体なのだから太陽系と同じように機能するだろうし、更に言えば原子も素粒子の集合だろう。もしかしたら、まだ未発見の素粒子を構成する粒子も──。しかし、宇宙は数学と物理学によってブレーンの中で無限に増殖している。ならば、その内部に存在する天体はどのように機能しているのだろう。

 そうしていると、視覚からある情報が脳に届けられた。一旦考察を止め視覚に焦点を当てると、突然目の前に謎の物体らしきものが浮かんでいた。それは点であった。それは円とその中に存在する点であった。それは透過された白い球と、その中に浮かぶ黒い小球であった。そして、四次元空間以降でそれをその次元にふさわしい形で拡張した物体であった。四次元以降の空間の認識の仕方の訓練を完璧に修めているステラの海馬には、次々とその物体を指し示す膨大な情報が送られる。これはまずいとステラはその物体の認識を三次元のみに限定する。情報の波は沈んだが、しかししっくりこない。本来三次元に存在しない物体を無理やり三次元で作り出したかのような違和感を感じる。そこでステラはその物体を今度は二次元のものとして認識する。すると、ステラの感覚器官は声を小さくした。よくよく見てみると、それは黒い縁に囲まれ、白で塗りつぶされた円と、その中心に浮かぶ黒点であった。


「ステラ、そんなところで棒立ちしてどうしたんだい?」


 男性的な声が発生した方向を見ると、そこにはアートマンとミレニアムK-Oが居た。しかし、角度的にこの謎の物体が見えるはずなのに、アートマンにはこの謎の物体を認識している様子はない。


「え、いや、これ──」

「ん?何かあるのか?僕には何も見えないけど……」

『私の入力装置にも異物は検出されませんでした。単なる目の錯覚などでは?』


 驚くことに、アートマンどころか大宇宙と同等の視点と知識を持つはずのミレニアムK-Oにすらこの物体は認識できていないらしい。それがわかったステラは当たり障りのない会話をしながら、船外へ出る。外に出ても、この物体はステラの近くにいた。視界を外れることはあっても、ステラから体感半径五メートル地点のいずれかにいるようだ。しばらく観察してみるとそれにはおそらく自我があって、その証拠に不規則に動いたり、ステラに何かを伝えたそうな動きをしたりしている。古代ギリシャや近世ヨーロッパの哲学や神智学などで見られるモナドに似た形をしていることから、そう呼ぶことを決めると、モナドは激しく動き始めた。


「……もしかして、私の考えてることわかったりする?」


 勇気を出して口からモナドに質問を投げかけると、心なしか嬉しそうに上下移動することでモナドは肯定を示した。

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