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Gnosis

「大宇宙に対してハッキング……そんなことが成功するのか?」

「ええ、狙って発生した結果ではないし、正確にはハッキングではないけど。私も本来はただの観測装置として製作したもの」

『ですから、私の親は博士であると明言できます。しかし、私の魂をここに遣わした主人も別に存在します。そして私は主人から貴方方をサポートするように命じられ、そして大宇宙へとアクセスしました』


 空とミレニアムK-Oからハッキングの経緯を聞いたアートマンは突然黙りこみ、思考の海へ漕ぎだした。


「あー……博士はあの状態になっちゃったら長いからねぇ……とりあえず、私のベッドで良かったら少し休む?」

「……よくわかったわね」

「隠してるつもりかもしれないけど、わかりやすく顔に出てるくらい深刻みたいだからね」

『ステラさんの仰る通りです。お察しの通り、博士はこちらに来てからまともに休息を取れていません。活動限界の寸前で踏みとどまっているような状態です』

「思ってたより酷かった……ほら、場所はわからないでしょ?一緒に行くよ博士。なんならおぶってあげようか?」

「流石にそこまで子供じゃないわよ、私は」


 そういいつつも限界が来たのか、空はおとなしくステラの背中に寄りかかる。背中から聞こえる心臓の鼓動と呼吸音の主を起こさないように、ステラはキュクロプス号の方にゆっくりと歩き出した。



 ステラと空がキュクロプス号に行き、そこにはアートマンとミレニアムK-Oが取り残された。いや、自ら残ったというべきか。


「それで、君の主人というのは?宇宙意識的なものか、あるいは一神教的な絶対存在というべき存在なのか、教えてくれないかい?その為に君はここに残ったんだろう?」

『やはり鋭いですね、アーノルト博士。他に聞きたいことはありますか?』

「ふむ……ひとまずはさっきの質問と、宇宙の成り立ち──具体的には、星々の誕生と宇宙の法則の誕生について教えてもらいたい」

『了解しました』


 そこまでやり取りが済んでから、彼らはステラの何倍もゆっくりとした歩みでキュクロプス号に向かいながら、応答を続ける。


『まず私の主人についてですが、イエスでありノーであるといえます』

「ほう?」

『確かに私の誕生には大宇宙の意思が関わっています。だからまずイエス、その次にもう一つ別の存在が絡んでいます』

「それは?」

『人間です』


 思わぬ返答にアートマンは顔をそのままに歩みを止める。


「──人間?」

『人間とはいっても貴方方のことではありません。万物はグノーシス的です。”光”と”影”が存在します。そして、光の頂上。光を生み出した”神”の眷属たる”光の人間”、彼らに私は遣わされました』


 突如形而上学あるいは神学とも呼べるような概念の提示に、しかしアートマンは驚かなかった。太陽系ですら論理を超越した領域にあるのだから、それより上は論理という言葉すら存在しないような領域であろうということに。そして、人間にとっての哲学のような論理性を持たない学問に近い表現をするのは当然の帰結であると。


「光の人間は何を考えているんだい?」

『この世界の知性体──人間が影を振り払い、純粋な光になることを』

「──ありがとう。もう一つの方を聞かせてもらってもいいかな」

『ええ。初めに虚空がありました。文字通りの完全な無の世界。そこに光の人間がやってきて、虚空に意思を与えました。それが今の大宇宙の意識です』


 なるほど、光の人間。思っていたより重要な存在のようだとアートマンは考える。


『そして、虚空──大宇宙は自身の中に最初にして最も巨大な宇宙の法則を作り出しました。そして、その宇宙の法則の記述の中には惑星や恒星、中性子星といった星々の概念、そしてその星々の集まりには自身とは異なる宇宙の法則が出来上がる。そのようにして今の大宇宙ができました』

「なにか一神教のような感覚が走るな」

『ええ、それはそうでしょう。大宇宙の意思は”神”、特に一神教の神というアイデアにとって最も純粋な究極の原型です。他の宇宙の法則の中でも神──大宇宙の意思に対する信仰は存在します』


 その筋の関係者が聞いたら卒倒しそうな、しかし同時に神の実在を認める情報に彼は驚きを感じた。多神教であろうと一神教の神であろうと、どういうわけか中心に絶対的な存在を常に認めていた。例えば地中海の原初の存在であるカオス。彼の存在はわかりやすくかつての大宇宙そのものを表しているだろうし、北欧の原初の存在の一つであるギンヌンガガプもカオスと同様だろう。一神教の神も対象が大宇宙から大宇宙の意思へと変わっただけだ。つまり、そもそも根本的に大宇宙の真理を知る方法は大宇宙によって用意されていたといえるだろう。


『それで、これらの情報はどうなさいますか?』

「知っての通り、公表はしない。知りすぎると、知ってはいけない領域に足を踏み込んでしまうからね」

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