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俺はどうしたらいいんだ

「では、あのお嬢さんが、坊っちゃんの”本命”ということなんですね」


うきうきした声でそう尋ねた従者は、俺のうめき声を肯定と解釈したらしく「おまかせください!使用人一同全力でサポートします」と宣言して、いそいそと部屋を出ていった。


違う。

……その通りではあるのだが、お前の思っていることは違うぞ。


誤解を解こうにも、何が正解で何が誤解なのか、自分でもはっきりわからない。


俺はシャロン・テンプテートを落として、言いなりにさせるために、これまで男を磨く努力をしてきた。……正しい。

今日、うちに連れて来た女の名前はシャロン・テンプテートである。……正しい。

よって、俺は彼女を全力で口説いて……ぜーったいに間違っている!!


なぜだ?!なぜ、ヒヨコがシャロン・テンプテートなのだ?

ヒヨコはヒヨコではないか。


俺は何度目かの答えの出ない自問自答に呻いた。


シャロン・テンプテートは世界を破滅させた魔女だぞ!俺が人生をかけて阻止すべき大魔術師なのだ。

ヒヨコにそんな魔術の才能は……あるにはあるが、それは俺が磨かないと全然使い物にならないはずだ。

だからこそ俺はヒヨコをこれまで一生懸命手塩にかけて大事に育てて、あいつも素直に俺の言う事をきいて頑張ってだな。


そうだ!

違和感の正体はそれだ!

ヒヨコの奴は、もう素直に俺の言うことを聞く良い弟子ではないか。だから、今さら俺が口説いてどうこうしなくても……。


「シャロン様のお支度が整いましてございます」

「なんのことだ?」


従者にせっつかれて、サンルームに行く。お茶の支度が整ったテーブルは、明らかに俺向けではない色柄のセッティングだ。

こういうことはしなくても、と文句を言いかけたところで、メイドに案内されてヒヨコがやってきた。


だが……これは、ヒヨコか?

お下げが、あのクソダサい野暮ったいお下げがないぞ。


彼女は、ここに来るまで着ていた窮屈そうなサイズの合わない型の古い訪問着ではなく、柔らかいシルエットのふわふわした布で仕立てられた室内着を着ていた。かわいい。

解かれた髪も緩くウェーブしてふわふわと肩から背中に掛かっている。かわいい。


「まずはくつろいでいただくようにとのご指示でしたので、お部屋にご案内したあと、楽な服装にお召し替えいただきました」

手柄顔の従者とメイド達から「褒めろ!」の圧がすごい。

わかっている。女が着替えたら褒めろっていうんだろ。さんざん練習した基礎中の基礎じゃないか。

だが、俺は別にこいつを口説きたいわけじゃないんだ!

ああ、くそっ。


「部屋は気に入ったか」

「はいっ。おとぎ話のお姫様のお部屋みたいで感動しました!」

「服はどうだ」

「何がどうなっているのかわかりませんが、ふわふわでかわいいです。これ、私が着ていいんですか」

「着心地はどうだ。楽か」

「はいっ」

「ならいい」


素っ気なくいうと、メイド達がさらにプレッシャーをかけて来るが無視する。

俺が手を差し出すと、彼女はさっと手を重ねた。よろしい。修行の成果がでている。

そのままエスコートしてティーテーブルにつかせる。

座りかけているときに、彼女にだけ聞こえる声で「よく似合っている。かわいいぞ」と小さく言っておく。

許せ、メイド共。これが精一杯だ。お前らが期待に満ちた目をギラギラさせている前で、練習したアレヤコレヤの歯の浮くセリフの数々をコイツに向かって言う度胸は俺にはない。


ヒヨコは、赤面して緊張気味に席についた。これはアレだな。メイド達の視線が気になるんだな。

生まれながらの貴族でないと、使用人に見られながらくつろぐのは難しい。前世の記憶があるのでそれがわかる。

俺はメイド共に目につかないところまで下がれと視線で指示を出した。流石に部屋を出ろという指示は出せないが……と思ったら、出ていくのか、お前ら。なんで?

茶と茶菓子を出し終わった給仕と一緒に、従者まで出ていきやがった。ウソだろ?おい。


アレ?これは何か?俺が人払いした扱いになってる?

してないぞ。別に俺はヒヨコと二人きりになりたいわけでは……。


「あの……ウィルフォード様。私、本当にこちらでこのようにお世話になってよろしいのでしょうか」

「よい。同じことを何度も確認するな」

「すみません。でも、なんだかあまりにも何もかもが素晴らしくて、自分には不相応なので気が引けてしまって」

「気にするな。慣れろ。恐縮だと言うなら、うちのやり方にお前が合わせろ。お前のランクにうちを合わせさせるな」

「は、はいっ」

「わかったなら遠慮せずに食え。ケーキは好きだろう」

「はい。えーっと、では、いただきます」


よし。話していたら、目の前のこのやたらにかわいい女が、ヒヨコだと認識できてきたぞ。

うん。このちまちまと美味そうに甘味を食う様子はヒヨコだ。間違いない。


「よし。こっちも食べていいぞ」

「ありがとうございます。ウィルフォード様」

「……なんだその”ウィルフォード様”呼びは」

「はい、その……ご実家で”師匠(マスター)”とお呼びして良いのか迷ってしまって」

「あほう。むしろ、うちでウィルフォードと呼んだら、うちの家族、親族が全員該当するだろうが」

「あっ、そういえばそうですね」

「まったく。考えの浅いやつだ。名前で呼ぶならウィリアムと呼べ」

「う、ウィ……」


茶菓子を喉に詰まらせて目を白黒させるヒヨコのカップに、俺は茶のお代わりを注いだ。


「呼びにくいならウィルでいい。それならウィルフォードの短縮と同じだから抵抗ないだろう」


その場で特に深く考えずにそう決めて、ヒヨコに以後そう呼ぶように命じた俺だったが、あとから物凄く後悔した。

”ウィル”ってお前……家族にもそんな風には呼ばせていない愛称呼びじゃないか。何をやってるんだ、俺は。

さらに悪いことに「私からだけそんな呼び方できません」とヒヨコが言うから、「じゃあ、俺はお前を”シャル”と呼ぶ!それで対等だろう。文句あるか」と押し切ってしまったのだ。


ええ?俺、アイツがうちにいる間、アイツに”ウィル”って呼ばれて、アイツを”シャル”って呼ぶのか?ウソだろう。

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