【挿絵あり】見つからない場所
草むらを掻き分けて進む。
昔と変わらず人の手が加えられていない荒地には、そう離れてはいない海岸から漂う磯の香りが立ち込めていた。
久しぶりに戻った故郷で、通りすがりにふと沸き上がった思い。
「あの場所は今でもここに残っているんだろうか?」
都会に出てからはすっかり忘れてしまっていた子供時分にとっておきだった場所を探す。
そこは、誰にも見つけられなかった、自分一人で発見した秘密の洞窟。
かくれんぼで圧倒的強者として近所の子供たちの頂点に君臨できていたのも、この場所のお陰だった。
有刺鉄線で囲まれたこの荒れ地に、立ち入り可能な場所はたった一か所だけ、クヌギの大木を登り反対側から降りる……
クワガタ採りの最中に偶然見つけた内緒の裏技だった。
それからこの荒れ地の探検を繰り返し、背丈より高い草むらでも自由に歩き回れるようになる迄にそう時間はかからなかった。
少し草丈が違っている場所、足元の特徴的な石の存在、自分が踏みしめて作った細道…… 他にも色とりどりのビニールテープで目印をこさえる事を勤しんだ結果、ここは未開の荒れ地からなじみ深いホームグラウンドへと役目を変えたのだった。
「あれ…… 迷った、のか?」
歳月の流れは残酷だった。
あんなに慣れ親しんだホームで迷ってしまったようだ。
こんな時は分かる所まで戻ってやり直せば良いんだ。
来た道を戻りながら一人呟く。
「分かる所まで戻れば、か…… 人間関係もそう出来れば良いのにな……」
都会に出た切っ掛けはある女性との同棲の為だった。
同じ趣味を持っている訳では無いし、将来を見据えた関係でもなかった。
ただゆったりと自然体のままで一緒に過ごす時間の心地よさにいつまでも浸っていたい、そう願うだけの時間が流れていった。
そんな退屈な日々が彼女を変えてしまったのだろうか?
出会った瞬間お互いに惹かれ合ったと思っていたのは独りよがりだったのかもしれない……
そんな風に感じ始めた頃、彼女は自分の部屋の中に灯油を撒いて火を着けたのであった。
燃え上がる部屋から慌てて飛び出し、背を向けて逃げる彼女の後を追いかけた。
走り続ける彼女に追いつく事も出来ないまま、駆け付けた警察官に捕まりこちらを振り返った彼女の顔は不自然に歪められて内面の狂気を映し出しているかのようであった。
自分への嫌悪が彼女をそこまで追い込んでいたとは……
物理的にも精神的な意味でも彼女は離れていった、帰る部屋も焼け落ちて失った、他に寄る辺も無く故郷へ帰ってきたのだ、そう考えると彼女との間で『分かる所』なんて場所は端から存在していなかったのかもしれない。
「お、赤いビニールテープだ、そっかここを右だったな」
色々思い出し考えている間に『分かる場所』まで戻ってこれたようだ、勿論この荒れ地の中の話だが……
なんとか思い出した道を今度は間違えないように進んだ。
「よし、正解! 辿り着けた」
草むらが突然終り、小さな本当に小さな岩だらけの海岸が目の前に広がっている。
片端にある大きな岩を海側に回り込んだ先が目的地の『秘密の洞窟』、誰にも見つけられなかった内緒の隠れ家である。
いや、正確には一人だけには見付けられてしまった場所だったな……
一人きりで居たこの場所で、彼女と出会ったんだった。
懐かしくもあったが、失った今となってはそれほどの感傷は浮かんでこない。
気持ちを切り替える為に言葉にしてみる。
「さて、まだ誰にも見つかっていないかな?」
洞窟の中は昔のままであった。
小型の懐中電灯、家から持って来た非常食や清涼飲料水、好きだった漫画雑誌がごつごつした岩場に往時のままの位置で風化しかけている。
「やっぱり! 人が踏み込んだ形跡はないぞ! そうだよ、ここは誰にも見つからないんだ!」
満足げな声は興奮のせいでやや大声になってしまっていたかもしれない。
そりゃそうだ、ここが別格の隠れ家だって事はとっくの昔に知っていた筈なのだ。
あの日この故郷の人達が総出で探してもここに居た子供一人を見付ける事が出来なかったのだから……
子供も大声で人々を呼び続けていたにも拘らず……
「そうだよな、簡単には見つからないよな」
そう言って見つめた自分の白骨はあの日のままで、相変わらず砕けた両足が痛々しく見えたのであった。
ホラー小説に初挑戦してみました!お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です(*'v'*)
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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