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魔法学園の短期休暇 その4 ~呪われた町~

 翌朝、執事のお爺ちゃんに呼ばれて食堂に行くと、ボンダールとぐったりしたボブスンがテーブルについていた。


「おはよう」


「おはよう、ティアズ氏」


「おはよう。よく眠れたかい?」


「うん。……ボブスンなんだか疲れてる?」


「ちょっと寝不足なだけだお」


 明らかに目にクマがある。徹夜でもしたのかな?


 ボンダールの好意に甘えてそのまま朝食をいただくことにする。タイガの苛立ちの感情が流れてきた。


 よっぽどお腹が空いてるのかな? もうちょっとだけ待ってね、タイガ。


「ティアズ嬢は今日はどうするんだい?」


「冒険者ギルドに行って王都までの護衛依頼がないか見てくるつもり」


「そうか。もし出発が明日になるようなら、今夜も家に泊まっていくといい」


「でも……」


 昨夜は流されてしまったけれど、流石にボブスンからの依頼が済んでいる今日まで泊めてもらうのは気が引ける。


「ふあぁ~、ティアズ氏、遠慮することはないお」


「息子の言う通りだよ。それに客室を遊ばせておくのも逆に勿体無い」


「料理もティアズ様ひとり分が増えたところで、手間は変わりません」


 執事のお爺ちゃんまでそんな事を言い出した。そして私の側に立って耳元で小声で続ける。


「旦那様はいつも家でひとりですから、昨夜は飲みすぎてしまう程、それはそれはたのしかったのです。貴女さえよければもう1日滞在していただけませんか?」


 目が合うとお爺ちゃんはにこにこしている。


「ありがとう。じゃあ、そのときはお世話になるね」


「うむ。そうなさい」


 やさしく微笑むボンダールを見て、遠慮しなくて良かったと思った。


 タイガのイライラが激しくなってきたので、早々にトイボナス家を出る。


 この屋敷は町の真ん中にあたるのか、辺りは家が密集して建っている。所々にお店も見えた。


 屋台で適当に食べ物を買い集めると、人気のない場所を探して歩く。


 やがて牧草地の広がる場所へ出た。


「あの木の下がいいかな」


 平原に1本生えた木の下に移動すると、タイガが姿を現した。


「遅くなってごめんね」


「ふん!」


 広げた食べ物にタイガが夢中になって喰らいつく。


 タイガが人前で姿を現さないのは彼の人見知りのせいだけど、私としても髪が伸びたり縮んだりすると説明が面倒なのでそれに付き合っている。


 といっても、いつもタイガが空腹を我慢しているというのが現状だ。


 いや、空腹感ってあるのかな? 流れてくるのは食べたいという感情だけど、魔素があれば魔物の食事は娯楽だと言っていた。


 あぁでも、魔力が減ったらお腹が空くのかな?


 ……まぁそれはどうでもいいか。理由はどうあれ、いまのタイガに食事は必要ということなんだろう。


 何かいい解決方法があればいいんだけどな。


 とりあえず今夜もトイボナス家に泊まるならタイガの夜食もあとで買っておかないとね。



 少し先の事を考えながら広い牧草地を眺めていると、遠くに複数の四足の動物の姿を見つけた。


「ひょっとしてあれがリトルホーンかな? ちょっとさわってみたいかも!」


 食事中のタイガをその場に残して、私はリトルホーンに近づくことにした。


 距離が縮まるほどに高まる違和感。


「なるほどね、これがこの町の呪い……」


 私の目の前には5頭の石化したリトルホーンの姿があった。


 それと不思議な形の発動中の魔力図。


「初めて見る魔力図の描き方だ……」


 私達は普通、キャンバスと言われる1つの円をまず描いてから、その中に図形を描き入れて魔力図を完成させる。


 それは魔力の有効射程内に確実に魔力図を納めるための境界線としての意味と、円という形が構築中の魔力図を安定させ易いからなんだ。


 つまり1つの魔力図は1つのキャンバスで成る。


 魔法学園でそう教わったけれど、ルイズもルーンゲルドもエルガンも、タイガだってこの原則通りに魔力図を構築している。


 ダンジョンの宝箱に仕掛けられた呪いですらだ。


 だけどこのリトルホーンに見える魔力図は、複数のキャンバスが図形を繋げるようにラインでつながり合って1つの魔力図になっている。


 そして5つの石化魔法は全部魔力図の内容が異なっていた。


「殆どが最適化されていて1つ1つの魔力図が指し示す意味はわからないけれど、キャンバスの数は兎も角、こういう魔法の発動の仕方に見覚えがある。同じ効果を発する魔法をいろいろな言い回しで紡いで検証する。そう、メディが新しい魔法の知識を試すときと同じなんだ……これは呪いなんかじゃない。魔術師による魔法の実験なんだ!」


 もともと呪いということに違和感はあったけれど、これで確信した。


「実験? この石化魔法がか?」


 お腹いっぱいなのか、ご満悦の表情でタイガが石化したリトルホーンの背中に飛び乗った。


「うん、これは呪いなんかじゃないよ。明らかに人為的な魔力図だもん」


「ふむ……なら術者はなかなかの魔力を持った奴だぜ」


 タイガがそういうなら、この魔力図に込められた魔力量は相当なものなのかもしれない。


「ねぇ、タイガなら解除できる?」


「ふん。お前の手でやったほうがはえーだろ」


 出来ないのね。まぁそんな気はしていたけど。タイガってそういう系の魔法が苦手だもんね。


 ううん、苦手というより必要ないというのが正しいのかも。


 あの風刺画にあった姿が本当の姿なら、確かに回りくどい魔法なんて使う事なさそうだもん。


 私は1匹のリトルホーンに発動している魔力図と向き合う。


 どれから壊しても魔力図はエラーを起こして魔法の効力を停止するとは思うけれど、複数のキャンバスがある魔力図なんて初めてのことだ。


 家畜とはいえ命がかかってる。なるべく成功の可能性が高いと信じられる方法でやりたい。


 最適化されている部分はわからないけれど、僅かにわかる部分とその繋がりから全体像を予想する。


「たぶん、このキャンバスが中枢かな」


 キャンバス同士の繋がりを整理したとき、分木の頂点となる1つのキャンバスに私は当りをつけた。


 手を伸ばして破壊すると木が裂けたような音が大きく響いた。


 連鎖的に繋がりのある他のキャンバスも砕け散る。


「むーすごい音。タイガの言う通り、相当な魔力が込められていたんだね。でも……」


 魔力図は破壊できたけど、リトルホーンはまだ石化したままだ。


「状態維持は止めたけど、状態変化は終わってるからかな? ならあとは石化を解除する魔法で解けるかも。タイガ、魔力を貸して」


 タイガの魔力が私の杖に注がれると一気に膨れ上がる。


 私は杖を振るって石化を解除する魔力図を構築した。


「さて、どうかな?」


 リトルホーンに向けて魔法を発動する。


 しばらく全体が輝いたあと、濡れて塗装が落ちるようにリトルホーンの石化が解けていった。


「成功~! やったよタイガ! あれ?」


 みるといつの間にかタイガがいない。背中に長い髪を感じる。


「みかけない顔だね? ものすごい音がしたが君は一体何をして……」


 石化が解けたリトルホーンが鳴きながらおじさんの方へ歩いていった。


「あぁッ!! まさかっ、石化が解けてる!? こ、これは君がやったのか?」


「うん。えへへ、なんとか成功したみたい」


「わ、私はここの牧場主なんだが、頼むッ! 他の家畜の石化も解除してくれないか! ああ勿論、報酬なら払う!!」


「えーっと……」


 無くなる前に早くギルドに行って護衛依頼を探したいんだけど……。


「頼むよ! このとおりだっ!」


 牧場主を名乗るおじさんが土下座を始めてしまった。


「わ、わかったよ。だから立って?」


 仕方がないので残りの4匹の石化を同じように解除した後、おじさんについてもう10匹程の石化を解除してあげた。


「君は若いのにすばらしいな! ひょっとして高名な魔術師様なのかい?」


「あはは。ただの冒険者だよ」


「そうなのかい? それにしてもすごい魔法の腕前だよ。王都から呼び寄せた魔術師達もこの呪いの解除は出来ないと諦めたんだよ?」


 そう言っておじさんはお金の入った袋を1つ差し出してきた。


「報酬を受け取ってくれ」


「ありがとう。って、こんなに!?」


 袋にはずっしりと硬貨が詰まっていた。


「君は知らないだろうけれど、この町の畜産は1年前に呪いで大打撃を受けたんだよ。領主様と町のみんなの努力でようやく少しずつ家畜の数を増やして復興しつつあるんだけど、いまは子供のリトルホーンばかりで、まだまだ王都へ安定して供給するためには家畜の数が全然足らなくてね」


 下を向いていたおじさんが顔をあげて明るい声で続けた。


「だけど成長したリトルホーンがこれだけ増えれば、僅かとはいえ復興が早まる。将来的な事を考えれば報酬はそれでも少ないくらいだよ。はっはっは」


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