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魔法学園の短期休暇 その3 ~呪われた町~

「ち、父上!」


 顔を真っ赤にして慌てたように叫んだボブスンに、ボンダールは諭すように続けた。


「息子よ。できない己を恥じるのは良い。そこから努力できるのはさらに良い。だが自分ひとりですべてをこなせる必要はない。できない事は誰かを頼ればいい。トイボナス家は初代からそうして村人と肩を並べ共に力を合わせることで村を護り、町へと発展させてきたんだよ」


「わ、わかってるお。その話は何度も聞いたお……でも誰を頼っても駄目だったら、結局は自分でなんとかするしかないだろ!?」


「ふぅ……。私がお前に魔法学園への入学を許したのは魔法を極めるためではないんだがなぁ」


 ボンダールが見つめる先のボブスンは、憤りを抑えるように下を向いている。


 そういえばこの場に母親やボブスンの兄弟の姿がない。家族は2人きりなんだろうか。


 食堂の扉が静かに開かれるとメイドがスープとサラダを持って入ってきた。


 やっぱりコース料理みたいに順番に運ばれて来るんだね。


 私は先週、エンリに作法を教わっていてよかったと内心思いながら、フォークを手にサラダをひと口食べた。


 シャキシャキとした歯応えの後、瑞々しい野菜のうっすらと甘い味が口の中に広がった。


「どうだい? ティアズ嬢」


「おいしい! すごく新鮮だね」


「うわっはっはっは! そうだろう、そうだろう! その野菜は今朝まで畑にあったやつだからな。ギリギリまで大地の栄養を溜め込んでいるんだよ。本当に新鮮でおいしい野菜には味付けすら不要だと思わないか?」


 確かに野菜だけなのに独特の甘みや苦味、旨味が舌をたのしませてくれる。


「うん、この野菜はこのまま食べるのが一番かも」


「王都はなんでもあるけど、このおいしい野菜はトルティヤでしか食べられないお」


 私の目の前でボブスンがお肉以外の物を食べている。これもある意味新鮮かも。


「栽培方法にも代々改良を重ねてきた技法が生かされているんだよ。とはいえ、野菜に限らず畜産物も王都へ卸しているが、人々の口に入るまでにはどうしても少なからず鮮度は落ちてしまう。一番おいしい瞬間に食べられるのは産地の特権だな。わっはっは」


 上機嫌に話すボンダールは舌の乾きを癒すようにワイングラスを口にする。


 それにしても不思議な人だな。この町の領主だと思うけど、そういう偉ぶった感じというか、壁のようなものを全く感じさせない。


 エンリの父、ホーケンも私の前で偉ぶることはしなかったけれど、どこか近寄りがたいというか、油断できない緊張感があったものだ。



 次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちつつ、話題は町の産業の話から魔法学園の話、そして私の冒険者の話へと移り変わっていった。


「ティアズ嬢は女性の身で、さらにその若さでもうCランクの階級を得ているのか。大したものだ」


 ボンダールは酔っているのか、赤い顔で笑っている。


「ティアズ氏、いつの間にCランクになってたんだお?」


「つい先週、試験に受かったばかりだよ」


「息子よ。お前はCランクになっていないのを知った上で彼女を護衛に選んだのか?」


 やや呆れ顔でボンダールは言った。


 普通の反応だと思う。だって護衛依頼はCランク以上の冒険者しか受けられないんだから。


「うむん。だって父上、ティアズ氏はそこいらの男性のCランク冒険者よりも確かな実力を持ってるんだお」


「ほう……。そうか」


 息子を見つめるボンダールはその回答に満足したのか、うれしそうに微笑んだ。


 ボブスンはデザートのフルーツをあっという間に平らげると立ち上がった。


「ボクはちょっと用があるからこれで失礼するお。ティアズ氏、今夜はゆっくりしていくといいお」


 そう言い残して小走りで食堂を出て行った。


 その背中を黙って見送っていたボンダールが深いため息をついた。


 みるとさっきまでの陽気な表情が影を潜めている。


「どうかしたの?」


「ティアズ嬢はダンジョンへ通っているんだったね。なら宝箱から受ける呪いに対する対処には詳しいかい?」


「まぁ、知識としては一応」


 具体的な対処法について聞かれたので、私は症状に合わせて使用する解呪魔法や特別な道具について話した。


 尤も、実際のところはそういう面倒なことは殆どしていない。


 大抵の場合は私が原因となっている魔力図を壊せば済むからね。


 私の話を時に頷きながら聞いていたボンダールが沈んだ声で言った。


「やはりそうか。町に呼んだ魔術師たちも同様のことを言っていたよ。――1年前のあの日、この町に突然原因不明の呪いが降りかかったんだ。ある者は目が見えなくなり、ある者は脱力で立ち上がることもできなくなった。家畜の大部分は石化や爆発、切り刻まれたり焼かれたりもした。町の畜産は大打撃を受けたよ」


 ワイングラスを一気に仰ぐと、ボンダールは下を向いて続けた。


「町の資金を使って外から新しい家畜を取り寄せたり、無事だった家畜と合わせて交配に重きを置いたことで子供を増やす事は出来た。僅かばかりとはいえ王都へも食肉を卸しているが、復興はまだまだ先だろう。それに一部の町の人たちにはいまだに呪いが残ったままだ。我が妻と娘も……くっ!」


 ぶつぶつと呟くように話す声はろれつが回っていなくて、最後の方は全然聞き取れなかった。


「旦那様、少々飲みすぎにございます」


「あ、ああ。そうだな。少ししゃべりすぎたようだ。ティアズ嬢、つまらない話で気を悪くさせてすまない」


「ううん」


 顔をあげて無理な笑顔を作る彼はとても疲れているように見えた。




 ボンダールが退席した後、私は執事のお爺ちゃんに案内されてお風呂に入り、あてがわれた部屋へ入った。


 するとタイガがすぐに姿を現した。言いたい事はわかっている。


「タイガごめんね。明日朝いちで外で何か食べ物を買うから」


「ふん! 2食分だぞ!」


「あはは。わかったよ、約束する」


 おいしい夜食を食べられなかったタイガの機嫌を伺いながらベッドに横になる。


 天井を見つめながら、さっきの話を思い出していた。


「この町が受けた呪いは魔術師達でも解呪しきれなかったのかな」


 タイガは返事もせずに枕元で丸くなる。疲れてるのかな? いや、おなか空いてるだけかも。


 ――魔法や呪いは同じ効果を発揮するとしても、大きく2通りに分けられる。


 1つは状態を維持させるものだ。


 タイガの封印や呪いの剣なんかがこれにあたるんだけど、そういうものであれば発動中の魔力図を破壊すれば解除できる。


 もう1つは状態を変えてしまうものだ。


 例えば石化なら魔法の発動と同時に石化がはじまり、完了したところで魔力図が消失する。


 石化中であれば魔力図を破壊して状態を解除できるけど、魔法がその効力を完成してしまった場合には解除すべき魔力図がもうない。


 そうなると石化を解除する魔法や道具でないと直せないんだ。


 もちろん石化後に負った傷は残るので致命的に割れたり砕けたりしてしまっていたら諦めるしかない。


 魔法では傷を癒す事はできないからね。


 だけど強力な魔法や呪い程、同じ石化でも状態を維持する方法が取られる。


 それは解除するために必要な魔力量が違ってくるからだ。


 魔法を魔法で解除する場合、基本的には相対する魔力図をぶつけることになるんだけど、それは効果の高い方が勝つんだ。


 そして同じレベルの魔力図であれば、その勝敗は基本的に込められた魔力量によって決まる。



「それにしても、呪いというにはあまりにも症例の数が多い気もするなぁ。宝箱は一例かもしれないけど、1つの宝箱に複数の呪いが仕掛けられていたことは一度もないんだよね」


 生き物を狙って爆発や燃焼、切断なんて、何かの意思を感じるのは気のせい?


 呪いが降りかかったというより、悪質な魔術師の魔法攻撃を受けたと考える方がしっくりくるんだけど、どうしてボブスンもボンダールも呪いだと思ってるんだろう。


 魔法と呪いはその実態で言えば違いはない。術者の有無による違いなだけだ。


 例えばダンジョンの宝箱に仕掛けられているトラップのように自然発生する害をなす魔法のことを総じて呪いと呼んでいる。


 何故そんなものが発生するのかは、魔素の発生原因と同じで謎のままだけど。


 いや、呪いについては魔素こそが原因じゃないのかな? 前にサラに聞いたことがあるんだけど、呪いってその殆どが魔素のあるダンジョンや迷宮で見られるらしいんだよね。


 でもだとするとダンジョンでもない地上の町で呪いが、それも一極して沢山発生するのはやっぱり腑に落ちない。う~ん……。


「夜更かしもいいが寝坊するなよ? 俺の飯が遅くなる」


「む、わかってるよ。ねぇタイガはこの町の呪いって本当に呪いだと思う?」


「あ? 興味ねーよ」


「もう!」


 タイガに聞いた私が馬鹿だった! もう寝よう。


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