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昇級祝い その4

 新鮮なサラダのあと、暖かいスープと焼きたてのパンとバターが運ばれてくる。


 初めて食べるけど、どうやらコース料理というものらしい。


 よく冷えた果物の果汁が入ったグラスを手にする。


「そんじゃ~、ティアのCランク昇級を祝って~。かんぱーい!」


「「「乾杯~ ティア昇級おめでとう!」」」


「えへへ、みんなありがとう!」


 みんながグラスを口にすると、なごやかなムードで雑談が始まった。


「ティア、新しいギルドカードを見せて欲しい」


「いいよ」


 鞄から取り出してメディに手渡す。


「ほむ。これがCランクのギルドカード」


 興味深そうに眺めている。


「前は茶色だったんだけど、今回縁が銀色になったんだ」


「そうなのですか?」


 私を挟んでエンリもメディの手元を覗き込んでいる。


「うん。ねぇサラ、Bランクになるとまた変わるの?」


「変わるよぉ。縁が金色になるよぉ」


「見せて見せて!」


 サラから彼女のギルドカードを受け取る。


「お~、金縁だ。すごいキラキラしてる」


「Aランクになると縁だけじゃなくて全部金色になるよぉ。ちなみにSランクになるとプラチナになるらしいよぉ」


「プラチナ?」


「キラキラの銀色の中に虹色の光沢よぉ!」


「へぇ。なんかすごそう。ルイズにいったらみせてくれるかなぁ」


 言いながらサラにギルドカードを返す。


「ふふふ。ティアになら見せてくれるんじゃない?」


 雑談に花を咲かせながら食事に手を伸ばす。


 エンリに作法を教わりながら手元に沢山あるナイフやフォーク、スプーンを使い分けて食べる。


「ん~! おいしい!」


「でショ? でもおたのしみはこれからなワケ」


「例のお肉?」


「そうだ。いい加減、何のお肉か教えてよ」


「はい。気になります」


「ダメダメ! それだと食べたときのたのしみが半減だし!」


 次々に料理が運ばれてくる中、こんがり焼けた大きなお肉の塊が大皿に載って運ばれてきた。


 女性店員がそれを切り分けてくれる。


 元が大きいので、1人分といっても結構分厚く大きい。十分な食べ応えがありそうだ。


 こんがりとした表面に反して、断面はやわらかそうな瑞々しいピンク色をしている。


 焼きたてらしく湯気がのぼるお肉からは、香草かな? わからないけれどそれっぽい良い香りがする。


「もしかしてこれ?」


「そ! 食べて当ててみて」


 ナイフでひと口大にカットしたそれを、フォークで口に運ぶ。


 ひと噛みするとわずかな弾力を感じさせつつも、あっさりと断ち切れた。やわらかい!


 口の中に一気に甘い肉汁が広がった。


 噛むほどにお肉の旨味が引き出されてくるようだ。


 表面のカリカリ感とのアクセントが食感もたのしませてくれる。


 もう少し味わっていたかったけれど、我慢できずに飲み込んだ。


「うわぁ……。なにこれすごくおいしい! こんなの食べた事ないよ!」


「美味!!」


「はい。とてもおいしいです! 鳥肉のような弾力と噛むほどに獣肉のような濃厚な脂が溢れてきます。何のお肉でしょう? 不思議なお肉ですね」


 私達の反応にアンドリィが満足そうに笑っている。


「そうねぇ。鳥系のお肉と獣系のお肉のいい所取りしたような不思議なお肉ねぇ」


「サラも食べた事がない?」


「こんなにおいしいお肉は食べた事がないよぉ」


 となるとよっぽど希少なお肉なんだろうか? エクールを見ると特別な感動も見せず、普通に食べている。


「エクールは何のお肉かわかった?」


「ええ。私にとってはとても馴染み深いお肉ですわ」


 エクールが確認するようにアンドリィに目配せする。


「自信ありそうだネ? そんじゃエクール、これは何のお肉だ~?」


「竜肉でしょう? それもおそらく飛竜種ですわ」


「……うっそ、大正解だし! エクールって美食家?」


「私の故郷は竜の住まう山脈からたびたび強襲を受けますの。副産物としてこの国のマッドタイガーのお肉並みに竜肉が身近なものになっているだけですわ」


「こんなにおいしいお肉がマッドタイガーのお肉のようにお手軽に食べられるの?」


「フフ。貴女のような実力者ならメリットを享受するだけですわね」


「あ。ごめん……」


 失言だった。襲われる街の人にとっては命や生活を脅かされる恐怖でしかないよね。


「気にしなくても良いですわ。大昔から続いているおかげでその撃退方法も錬度を極めていますの。街の人々も慣れたものですわ。子供達すら竜を見ても落ち着いて避難行動が取れるくらいですわ」


「あ~、その話聞いたことあるカモ? それって……」


 言いかけたアンドリィの言葉をエクールが遮った。


「学園の規則に抵触する恐れがありますわ。それは貴女の胸の中に仕舞っておきなさい」


 エクールの迫力のある眼力に気おされてアンドリィが一瞬固まった。


「へぇ、なるほどネ~。やっぱそーなんだ? ま。沈黙は金、雄弁は銀っていうし、ここは黙っておく方が吉?」


 瞳に思案の色を漂わせながら、アンドリィは学園ではみせたことがない不敵な笑みを浮かべて言った。


「フフフ。私は武術の高みに立つ者を好むけれど、貴女のように察しの良い者も嫌いではないですわ」


「どうもアタシん家の仕事にも影響がありそーだしネ。損得の計算は基本っショ」


 なんだか2人だけで通じ合っている。


 私はエクールの故国がどこか知りたかったんだけどな。でも聞ける雰囲気じゃなくなってしまった。


「王都近辺には竜が住まう所はないはずだけどぉ。いったいどこ産かしら?」


「そうなの?」


「だってぇ、竜種の討伐依頼はあんまり見たことがないよぉ」


「それはアレっショ。このお肉は監視塔から王都に流れてきた物だし」


 監視塔とは王都ラザーニの遥か北にある大きな砦のことだ。


 砦の西側にある巨大な亀裂に阻まれた先、広大なカーマイズ山脈に囲まれた魔の平原を監視する目的で建てられた古くからある砦だ。


 そう、つまり魔界の門が現れる場所を監視している重要な砦なんだ。


「監視塔で竜が捕れるの?」


「カーマイズ山脈からときどき大亀裂を越えてくる飛竜がいるらしーよ? それを監視塔の兵士が訓練がてら討伐したものが食材や素材として王都に流れてくるワケ」


「へぇ、そうなんだ? 詳しいね」


「まーね。当然っショ!」


 自信たっぷりに胸を張っている。


「それで事前の予約が必要だったのですね」


「そ! 希少だし、人気もあるし、予約しないと食べられないってワケ」


「希少。討伐したら大儲け?」


 メディが珍しく物欲的なことを言い出した。


「竜種はギルドの査定だとぉ、最低でもBランク以上だから1匹だけでも相当なものになるよぉ」


「でもカーマイズ山脈じゃそこへ行くまでがもう無理じゃない?」


「そうですね。大亀裂を渡る以外のルートも絶望的です」


「そうなんですの?」


「はい。大亀裂を避けるためにはブリトールから北上するしかないのですが、大平原と大きな森を越えた先にある『黄泉への(いざな)い』と呼ばれる底なし沼だらけの湿地帯と『死の森』と呼ばれる毒のガスに包まれた、とても深い魔の森を抜けなければなりません」


「そこまで行くと魔素が濃いせいでBランク以上の魔物がうようよいるらしいよね。その先の平原が魔界の門が現れる場所で、カーマイズ山脈はさらにその先になるんだよね」


 天魔戦争の際にブリトールが最前線となる理由はまさにこの大亀裂によるものだろう。


 魔の平原の東は大亀裂、北と西は広大なカーマイズ山脈によって阻まれているため、迂回できない魔物達は亀裂に沿ってまっすぐ南下し、ブリトールを目指すんだ。


 しかし魔物の軍がどうやって『死の森』や『黄泉への(いざな)い』を越えているのかは謎のままだ。


 なぜならそれを観測して生きて帰ってこられた者がひとりもいないから。


 なんとなく思うんだけど、大亀裂にしてもそれらの障害にしても、魔界の門が現れる魔の平原を守っているんじゃないだろうか?


 実際、そのせいで魔界の門への進軍は事実上不可能とされているらしいし。


 魔物の軍に対してすごく都合がいいようになっているんだ。


 ひょっとしたら必要なら安全に通り抜ける何らかの方法が魔族側には用意されているんじゃないかな。


 タイガに聞いたら教えてくれるだろうか?


「それでしたら、大亀裂? とやらを浮遊魔法で越えたらいいのではなくて?」


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