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Cランク昇級試験 その6

 かろうじて踏みとどまって直撃を免れる。


「もうっ、邪魔しないで!」


 人造ゴーレムの手に『つるつるの魔法』をかけて巨大な棍棒を奪う。


「あんたはすっこんでなさい!」


 『超つるつるの魔法』をかけてから、逃げるルイズ目掛けて人造ゴーレムを蹴り飛ばす。


 それは重量を無視した動きで横倒しになって回転しながら勢い良く滑っていった。


「なっ!」


 あわてて横に避けようとしたルイズは間に合わず、伸びきったゴーレムの手足に巻き込まれると、そのまま一緒に回転しながら見えない壁に突っ込んでいった。


 私のときと同様に、やわらかく受け止められた後、やさしく弾かれる。


「ぐ、この出鱈目が! お前はエルガンかっ!!」


 圧迫されたダメージはあるのか、それとも単に目を回しただけか、悪態をつきながら岩の影から姿を現したルイズは足取りがふらついていた。


 それでもルイズが2つの最適化された複雑な魔力図が構築を終えると、魔力図が発動を表す青い光を放った。


 それは彼女の正面に一列に間隔をあけて並んだままだ。


 何かが飛んできたり、発生したりはしていない。ぱっと見ではルイズが何かしら強化されている風でもない。


 一体なんの魔法だろう? ひょっとして罠?


 頭上からは『増えた』だの『消えた』だのとみんなの声が聞こえてくる。


 発動中の2つの魔力図を伴って、新たな最適化された魔力図を構築しながらルイズがこちらに向かって歩いてくる。


 まもなく魔法が発動すると、ルイズはその魔力図へ手を伸ばして中から白銀の細い剣を1本引き抜いた。


 剣を造成したのかな? そういえば彼女はこの模擬戦闘中に造成魔法を多用している。得意な魔法なのかな。


 発動中の魔力図とルイズが、左右に散開して駆け出した。意外にも挟撃による近接戦闘を挑んでくるみたいだ。


 背後に回った魔力図に注意しつつ、私はルイズの白銀の剣による攻撃を杖で弾く。


 みんなの「うしろ! うしろ!」と叫ぶ声がするけれど、振り向いても魔力図に変化はない。


 逆に正面に立つルイズが驚愕の表情で剣を振るっている。一体なんなのだろう?


 素人剣術を軽くあしらって、柄を握る手を杖で打ち据える。


「ぐっ! どういうことだ!?」


 剣を落としたルイズが後ろに逃げる。


「どういうって、何が?」


 観戦席のみんなもなんだかぽかーんとしているようだ。


「お前には私が見えているのか!?」


「見えるって、何を当たり前のことを……あ!」


 近くで観てピンときた。ルイズの正面に発動しているあの最適化された魔力図って。


「ひょっとしてそれ、ラウゼルが使ってた姿を消す幻影魔法?」


「ど、どういうことだい!? 何故そこで私の師の名前がでてくるんだ!」


「え! ラウゼルってルイズの師匠だったの?」


 ルイズが新しい魔法を構築しはじめる。あれは衰弱の魔法だ。隠す気がないのか、最適化されていない通常の魔力図だ。


「ああ、そうだよ。しかしどうしてお前が。ルーンゲルドといい、どこにも接点なぞないだろう?」


 構築を終えた衰弱の魔力図が展開しようと迫ってくる。


「たまたまだよ」


 体捌きでそれを避けた。はずだった。


 急にガクンと体が重たくなる。


「えっ!?」


 観ると右手に最適化された魔力図が展開し、発動していた。


「分身体の幻影魔法の中に最適化した衰弱の魔法を仕込んでいたのさ。それにしても本当に見えているみたいだねえ……。まんまと囮に引っかかるとはねえ!」


 後ろに回っていた発動中の魔力図は幻影魔法で、ルイズの姿を模していた?


 最適化されていない衰弱の魔法を囮にして、その分身体から間接的に魔法をかけられたみたいだ。


 ルーンゲルドにしてもルイズにしても、予想もしない魔法の使い方をする。


 追い討ちを掛けるように、避けたはずの衰弱の魔力図が迂回してくると私の胸に展開して発動した。


「うぅ、身体が重い! 膝に力が、入らな、いっ」


 私はその場に膝をついておなかをかかえるようにへちゃりこんだ。


「中型の魔物でもそれ1つで立てなくさせられるんだが、お前には2つ必要だったようだねえ。まったく大した身体能力だよ」


 言いながら大きく、濃密な魔力図を構築し始める。


「この魔力図も観えているかい? だがわからないだろう。教えてやる。この魔法はねえ。いってみればサラの火炎の衝撃ブレイジングインパクトの上位互換とでも言えば、お前なら想像力が働かせやすいかい?」


「ちょ! 跡形もなくなっちゃうじゃないの!!」


「くっくっく。ああ、それは正しい想像だ。その通りだよ。この魔法はAランクの魔物ですら、急所に直撃すれば一撃で葬るからねえ」


 じょ、冗談じゃないよ!!


「構築には少し時間がかかる。完成する前にギブアップしな。でないと命はないよッ!」


 なんだか目が本気っぽい? でもハッタリのはずだ。



 何故か半年前に模擬戦闘でエルガンが最後に振り下ろした木剣が脳裏を過ぎる。


 ハッタリ……だよね?


 でも魔法には寸止めも峰打ちもない。そういえばルイズもエルガンのようにSランク冒険者だったりするんだろうか? さっきAランクの魔物を一撃とか言ってたよね……。


 はっきりいって、エルガンのせいでSランク冒険者って少しヤバイ人というイメージが私にはある。


 ちょっと、いやかなり不安になってきた。


「い、いやだっ!!」


 出した大声に紛れておなかの下で右手に展開されている魔力図を左手で破壊する。


 ルイズの表情に変化はない。気づかれていないようだ。


 そのまま胸に展開されている魔力図をいじる。


 変更すべきは衰弱の方向性を記す図形だ。


 メディが言っていたように魔法とは文章であり、単語という図形を綴ったものが魔力図だ。


 同じことを伝えるにしても、人によって言い回しが異なるように同じ効力を発揮する魔力図も人それぞれになる。


 ルイズのクセ(・・)は凡そ掴んでいる。初めて会ったときから今日まで、彼女は私に魔力図を観せ過ぎた。


 彼女は合理主義なんだ。無駄が嫌いで、共通する魔力図を基本として使い回し、方向性をパラメータで管理する形式を取るといったきらいがある。


 良く言えば非常に効率的に魔力図を整理し、使い分けているということなんだろうけれど、まさか魔力図を他人にいじられるだなんて、想像もしていないだろうね。


 私は”減算”を記す図形を”加算”する図形に描き換えた(・・・・・)


「どうやら本気で死にたいらしいねえ。お前が命をかけてまで聞きたい事が何なのか、少し興味が沸いてきたんだが……。ここで約束を反故にしては興が削がれるというものだしねえ」


「えへへ。心配しなくても約束通り、聞きたい事を聞かせてもらうよ!」


 筋力強化(・・・・)された身体(・・・・・)で瞬時に立ち上がると、目の前にある構築中の大きな魔力図を破壊した。


 木が裂けたような音が響く中、ルイズが驚愕の表情を浮かべているうちに、彼女が身に纏う筋力強化の魔力図と物理防御の魔力図を続けて破壊する。


「なっ!? なっ!!」


 言葉を失いながらもルイズがあわててバックステップで逃げる。が、その動きに先ほどまでのキレは影もない。


 筋力強化されていない素のルイズの身体能力は常人より少し高いといった程度のようだ。


 無理に追わなくても、これならいつでも捕らえられる。


「何をしたんだい!!」


「さあ? 何をしたのでしょう~」


 ゆっくりと杖を拾っていると、私達の間に人造ゴーレムが割って入ってくる。


「また邪魔しにきたの? あんたもそろそろ退場しようね」


 振り下ろされる岩の拳を避けて懐に潜り込む。屈んだ胸に跳躍して手を伸ばし強度強化の魔力図を破壊した。


 着地と同時に足の間を通り抜けながら『つるつるの魔法』をかける。


 後ろから轟音が響いてくる。


 踵を返すと前のめりに転倒した人造ゴーレムの背中へ飛び乗り、頭頂部を目指して駆けあがっていく。


 後頭部に辿り着いた私は両手で振り上げた杖を力を込めて振り下ろした。


 空気を揺らす重い衝撃音と共に、大量の砂が爆発したように大きく吹き上がる。


 大きく砕けた頭蓋の中に目的の魔力図を見つけた。


「やっぱりここだったね」


 頭部から造成されていた事と、ルイズから離れて自律行動を取っていた事から、きっと魔力図はここにあると予想していたんだよね。


 手を伸ばして発動中の魔力図を破壊すると、人造ゴーレムは砂になってあっという間に崩れ落ちた。


「私の人造ゴーレムが! なんなんだいッ! どうしてそうも容易く魔法を無力化できるんだ!」


 叫びながらルイズは物理防御の魔力図を発動させた。矢継ぎ早に筋力強化の魔力図を構築しはじめる。


「順番を間違えたね」


 攻めのための強化ではなく、身を守るための強化を先に選んだ。これは致命的な失態だね。


 杖を手放すと足に『すべらない魔法』をかけて地を蹴った。一瞬で距離を詰めてルイズの眼前に立つ。


「くっ!」


 発動中の物理防御の魔力図を左手で払って破壊する。


「おやすみ、ルイズ」


 彼女のみぞおちに重い素手の一撃を打ち込んだ。


「ごふッ!!」


 くの字に折れた身体が脱力して私の右肩にのしかかる。


 気絶したルイズをゆっくりと地面に寝かしつけた。


「そ、それまでッ! 勝者ティアズ・S・オピカトーラ!! うっそお~! マスターに勝っちゃうなんてっ!!」


 エミールさんの地がでまくりの拡声の後、演習場内に大歓声が沸き起こった。


 見渡すといつの間にか、観戦席は人でいっぱいになっていた。


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