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Cランク昇級試験 その3

 観戦席から歓声が上がる中、私はルイズに向かって駆け出す。


 彼女の周りに2つの射出系の魔力図が瞬く間に構築・展開されると石つぶてが射出された。


「ふッ」


 2つとも愛用の杖で軽く弾き飛ばす。


 後ろに下がりながら、ルイズはさも当然といった表情で次の魔力図の構築を終えると、すぐに展開して発動した。


 魔力図から無数の石つぶてが連続して射出される。


「何よそれぇ」


「ただの石つぶての100連射さ」


 100発はきっと比喩だろう。魔力図が小さくて見えにくいけれど、なんとなく魔力を注ぐだけ石つぶてが射出されているように見える。


 それにしても1発1発の間隔が短い。弾き落とし続けても体力を削られるだけかも。


 石つぶての連弾を避けながら、ルイズの周りを大きく迂回するようにして間合いを詰めていく。


「思った通り、いい動きをするじゃないか。どんどんいくぞ!」


 ルイズが左手に纏った魔力図から石つぶてを放ちながら、新しい魔力図を構築していく。


 あれは……石の刃の射出魔法? さらにそれを別の射出魔法に組み込んでいる。


 似たような魔力図の構成に見覚えがある。あの地下室でルーンゲルドが使った魔力図の射出魔法だ。


「ルイズってルーンゲルドと知り合いだったりするの?」


「唐突になんだい? 長く王都に住んでいる者にとってはよく知られた名だが、半年前に来たばかりのティアがその名を知っているのかい」


 鞭のようにうねりながら追いかけてくる石つぶての連弾の下を掻い潜る。


 そうだ。これは言ってみれば石つぶての放射魔法のようなものだ。


 ルイズの手の動きから射線を凡そ予測できるし、基本的に私を狙ってくるのだから、こちらから誘導をかけ易いんだ。


 それに気づいた私は連弾に纏わりつく様にして最小の動きで避けつつ、逃げ回るルイズとの距離を詰めていく。


「ちょっと前にたまたまね」


 石の刃の射出魔法の魔力図が軌道を制御されて射出される。それは私の側面を目指して真っ直ぐに飛んでくる。


「奴の事は良く知ってはいるが、直接会ったことはないねえ。それがどうかしたのかい?」


「別に。なんとなくそう思っただけ」


 私の側面に展開した魔力図が発動する。


 射出された石の刃を避けつつ、杖で一回転しながらやさしく受け止めると、今度は振りぬいて打ち返す。狙いはルイズの額!


「くっくっく。本当に魔力感知能力がすごいな! かろうじて避ける奴はいても、打ち返してきた奴は初めてだぞ!」


 かざした左手から射出された連弾によって、打ち返した石の刃はあえなく砕け散った。


 その隙に一気に間合いを詰めて、ルイズの眼前に迫る。


「っ! 速いねえ。さっきまでは本気じゃなかったのかい? だが……!」


「足元、でしょ?」


 ルイズの顔が初めて強張った。


 私の足元で発動した魔法トラップをステップで横へ避けると、元いた場所に強風が吹き上がる。


「当たってたら私の体重だと吹き飛ばされてただろうね」


「ふっ。そのつもりだったんだがねえッ!」


 背後に回った私にルイズが後ろ回し蹴りを放つ。


 魔法使いが体術? 動きもまるで鋭さがない。筋力強化に任せただけの付け焼き刃にみえた。


 それなら腕で受け止めた後、掴んで捻り倒してやろうと思い、構えをとってから気づく。


 足先に魔力図が展開している。あれは……石の棘の魔法だ。あわてて手を引いて杖で受ける。


 受けた直後、魔法によって発生した石の棘に杖が弾かれた。


「いい判断だねえ。掴んでいたら石の棘が手の平を貫いていたぞ!」


「まだ終わってないよ?」


 弾かれた杖をそのまま振り回してルイズの軸足へ向けて振りぬいた。


 硬い何かがへし折れる音が響く。


 杖を握る手には確かな手応えが残っているが……ルイズは不敵な笑みを浮かべている。


「流石、魔法の構築が速いね」


 折れた石の棘が足元に転がる。それは床から生えた太い棘の先端だった。


「いやいや、ギリギリだったさ。それじゃあ、そろそろ搦め手を交えていこうかねえ」


 同じ魔力図が2つ、同時に構築されていく。あれは加重の魔法だ。


 重たくして私の動きを阻害するつもりだろう。あの魔法なら何も怖くない。


 遠慮なく踏み込んで杖を振って攻め立てていく。


「くっ、本当に、いい動きをするねえ。だが、ちょっと大人しくなってもらうよ!」


 逃げながら魔力図を構築し終えたルイズが、私の両足にそれぞれ展開・発動させる。


 両足が重たくなったせいで、ルイズに距離を取られてしまう。


「むー、片足に100キロってところかな?」


「その通りだよ。流石に動けないだろう?」


 ルイズがかざした左手から再び石つぶての連弾が射出される。


 その全てを杖で弾き飛ばして防ぐ。


「動きもそうだが、お前は目が良いねえ」


 ルイズは連弾を打ち続けながら、さらに2つの加重の魔法の構築を始めた。まったく器用な事だ。


 おそらく私の両手も封じて完全に無力化するつもりなのだろう。


 片手で杖を振るって連弾を弾きながら、半身にして気づかれないように片足ずつ加重の魔力図を破壊する。


 ルイズの手の内がわからない今、こちらもあまり手の内を見せたくない。


 もちろん、見ればすぐに気づかれる。でも壊す瞬間だけは隠したかった。そこさえ見られなければどうとでも誤魔化せる。


 ルイズの左手の魔力図が砕け散った。連弾が止まる。


 魔法の連続行使に魔力図の耐久が尽きたんだろう。


 この世界で永久不滅というものは存在しない。


 たとえ魔力図であっても使い続ければいつかは壊れる。


 1500年以上も発動し続けているタイガの封印の魔力図の方が異常なんだ。


 それでもいつかは耐久に限界が来て壊れることだろう。


 1年後か、100年後か、数千年後かはわからないけれど。


「魔力図の限界が来たか。だが、準備は整ったよ!」


 2つの加重の魔法が迫る。


 私の手に展開される前に、足に『すべらない魔法』をかけて飛び出す。


「なっ!?」


 驚いたルイズの一瞬の硬直の間に一気に間合いを詰めると、すり抜け様にその胴体へ向けて杖を振りぬいた!


「がっ、ぐぅ!!」


 吹っ飛んだルイズが地面を転がって遠ざかっていく。


「えっへへ。まいった?」


 十数m転がったルイズは派手にふっ飛んだわりに、すぐに平然と立ち上がった。その胸元には1つの魔力図が光り輝いている。


「くっくっく、ああ、まいったねえ。いつの間に加重の魔法を解除したんだい?」


「さあね。それにしてもすごい強力な物理防御魔法だね。それを打ち破るのは骨が折れそうだよ」


「師から教わった自慢の魔法さ。これを貫けるとしたら竜種かエルガンほどの剣術がいるだろうよ」


「なら遠慮なく叩き込んでも大丈夫だね?」


 ルイズに向けて両手で杖を構える。


「くっくっく。それは挑発してるつもりかい? いいだろう。ステージをもう1段あげようじゃないか!」


 2つの異なる魔力図が同時に構築されていく。


 1つは氷の射出魔法だけど、もう1つは見た目でわからない。


 もしかして最適化された魔力図? 少し大きめのそれは構築にやや時間がかかりそうな雰囲気だ。


「なんだかわからないけれど、魔法の発動を待ってあげる必要はないね!」


 足元に転がった大きな石の棘をルイズへ向けて蹴り飛ばす。


 それを追いかける形で間合いを詰めていく。


 構築を終えた氷の射出魔法がルイズの身長よりも大きく展開すると、無数の氷の刃が一斉射出された。


 それは私が蹴り飛ばした石の棘をあっさりと飲み込むと、勢いを殺すことなく私に向かって正確に飛んでくる。


「無駄だよ! このくらい全部打ち落とせるんだから」


 ダンジョンの矢のトラップに比べたら的も大きいし、数も大した事ない。


 余裕で全ての氷の刃を杖で叩き砕く。


「いいのかい? そんなことをして。それは氷の魔法(・・・・)だぞ?」


 見ると杖の先が凍っていた。


 さらに砕けた氷から発する異常な冷気が私の周囲を急速に冷やしていく。


「寒い! っていうか痛い!?」


 手足の肌に霜が降りはじめる。顔もなんだか突っ張ってきた。やばい!


 動きが悪くなった足をなんとか動かして、転びながらも冷気地帯から這い出て逃れる。


 寒さで全身が震える。手足の感覚がほとんどない。


 あと少しあの場にいたら、一歩も動けなくなって全身氷づけになっていたかもしれない。


「寒そうだねえ。暖めてあげようかい」


 ルイズが氷の刃に隠れて構築を終えていた新たな魔力図を発動させた。


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