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Cランク昇級試験 その1

 ――あれから1ヶ月近くが経過した。


 私の身の回りでは特にこれといった問題もなく、悪く言えば『星屑の涙(ティアズ・アステイル)の光明』の活動に於いても新しい進展もないまま、同じような日々が続いていた。


 いつものように午後の演習を終えた後、部屋で制服からワンピースに着替えた私が、杖と鞄を持って外へ出るとみんなが待ち構えていた。


「本当についてくるの?」


「はい! 大切な試験ですから、みんなで応援します!」


「ティアの勇姿をこの目に焼き付ける」


「もちろんですわ。貴女の戦闘が観られる機会ですもの」


「友達の晴れ舞台だし、行くしかないっショ?」


 今日がギルドの昇級試験日だと話したら、みんなノリノリで応援に行くと言い出したのだ。


「アンドリィは家の手伝いはいいの?」


「1日くらいサボっても問題ないし?」


 いいのそれ? まぁ本人がいいっていうなら私は構わないけど。


「う~ん。観ても面白くないと思うけどな。戦闘っていっても、ただの試験だよ?」


 5人でぞろぞろと学園の正門を出ると、冒険者ギルドへ向かって馬車が行き交う大通りを歩いていく。


「具体的にはどんなことをするんです?」


「私にもわかんない。でも、確かCランク昇級試験は護衛依頼を想定したものだったはずだよ?」


 ブリトールで初めて冒険者ギルドを訪れたときに、確かそう説明してもらったはずだ。


「でしたら何かを護りながら戦闘を行うのかしら」


「アタシ聞いたことあるよ。護衛対象に見立てた木の人形を3人の試験官から護り抜くんだったかな?」


「ほむ。ならティアの魔法は相性が良い。楽勝?」


「そうだね。遠距離攻撃がなければ近づかせない自信はあるかな。でもきっとそうはいかないんじゃないかなぁ」


 護衛を想定するなら遠距離からの襲撃が加味されない理由が思いつかない。あると考えるべきじゃないかな。


「遠距離攻撃なんてものの数ではないですわ。ティアズの剣術を以ってすれば、矢でも石つぶてでも軽く打ち落としてしまうでしょう。やはり楽勝ですわ」


「え、それマジ? ティアってそんなことできんの?」


「いつも平然とやってのけてますね」


「『暗黒の息吹に疼く左手』の模擬戦闘では見慣れた光景ですわ。3人がかりの射出魔法を軽くあしらった上に反撃までする余裕があるんですもの。彼女という壁を抜くのは容易ではないですわ」


「えへへ。そういった意味じゃ、あの模擬戦闘の経験を今日活かせそうだね」


 試験内容を予想しながら雑談で賑わっているうちに冒険者ギルドに到着する。


「やっほ~ティア。待ってたよぉ」


 ギルドの中に入ると、サラが駆け寄ってきた。


「あれ? 待ってたってどうしたの?」


「もちろん、応援よぉ。まぁティアが落ちる心配はしてないけどね」


「ティア、その方は?」


「いつも話してるサラだよ。あ、エンリには話してるけどみんなは知らないんだっけ? 私がいつも一緒にダンジョンに潜ってる、Bランク冒険者のサラだよ」


「サラ・ジャスターよぉ。みんなは魔法学園のお友達?」


「エクールですわ」


「アンドリィでーす。よろしくぅ」


「メディスール」


「エンリです。私達は皆、学園で同じ班なんです」


「あ~! あなたがルームメイトのエンリちゃんね! ティアからよく話を聞いてるよぉ。ふふふ、想像していた通りのやさしそうな子ね」


 いきなりサラに抱きつかれたエンリが顔を真っ赤にして困惑している。


「女性でBランク冒険者とはすばらしいですわ」


 エクールが目を輝かせて言った。


「うふふ。ありがとう」


「ティアってばこんなに強いお姉さんに手伝ってもらってるから、Dランクでも稼げてるんでショ?」


「あはは。まぁ否定はしないかな」


 実際、サラと組んだ方がよっぽど稼げるからね。


「それは私も同じよぉ。ティアも実力の上ではBランク以上は間違いないからね」


「ティアは強いと思っていましたが、そこまでなのですか?」


「そうよぉ。だって私に勝てるくらい強いのよぉ?」


「はぁ!? うっそ! マジ!? ティアってそんなに強かったの!? てゆーかそれでDランクって詐欺ジャン!」


「うんうん。私もそう思ってるよぉ」


「だからそれは私のせいじゃないってば……」


 サラが言ってるのは呪いの剣のときの話だろうけど。でもあれは本来の実力を発揮しきれないサラを相手に、こちらはタイガと2人がかりでやっとだった。


「だいいち、あれは勝負とは言えないでしょ?」


「そうねぇ、勝負、とは言えなかったかもね。でもぉ、Bランク以上の実力は間違いないと思うよぉ? 本気で殺しにかかった私を無傷で無力化してみせたんだからぁ」


「ちょ! このお姉さん、なんかめっちゃ物騒なこといってない……?」


「事件の匂い」


「ティア……」


「2人は決闘でもしたのかしら。フフフ……それにしてもティアズの強さは底が知れないですわ。私達との模擬戦闘では引き出せない、本当の実力を見てみたいものですわね」


「違うよ、あれはサラが呪われちゃったからしょうがなかったの。それに本気と言っても……」


 ふと視線を感じて受付の方をみやると、エミールさんがじっと私を見つめていることに気づいた。


 ひょっとして待っている?


「あ、ごめん。ちょっと受付に行ってくるね」


 雑談の輪からいったん離れて受付に向かう。



「ティアズさんの新しいジラシプレイかと思いました」


「何よそれぇ。大体、時間までまだ少しあるでしょう?」


「そうですが、今日は朝からギルマスが、ティアズさんが来たらすぐに始めるから知らせろって息巻いているんです。それなのに目の前に現れたティアズさんがいつまで経ってもこちらに来てくれないので、なんだか私までヤキモキして落ち着かなくなってしまいました」


「なんだかなぁ。そもそもどうしてルイズはそんなに息巻いているの? 私の試験なのに」


「私にもわかりませんけど、ティアズさんが予約されてからというもの、随分とたのしみにしていましたから。それですぐに始められますか?」


 まぁすぐに始められるなら悪い話ではない。


「うん。準備は出来てるよ」


 それからエミールさんに案内されて、ギルドの裏側にある大きな建物の方へみんなで移動する。


 中へ入ってすぐ、通路の分かれ道でエミールさんが足を止めた。


「応援のみなさんはこちらから観戦席の方へどうぞ」


「ティア、荷物預かりましょうか?」


「あ、うん。お願い」


 エンリに鞄を預ける。


「みんなこっちよぉ」


 サラはここを良く知っているのか、みんなを引き連れて階段をあがっていった。


 どうやら観戦席は演習場より高い場所にあるようだ。


「へぇ。ブリトールと違って室内なのも驚きだけど、観戦席まであるんだね。まるで闘技場みたい」


「それはきっと建造時に闘技場を参考にしたからですね。あちらは規模が違うので屋根は観戦席だけですが、やはり演習場に屋根があると天候に左右されずに使いやすいです。でも驚くのはまだ早いですよ?」


 まだ何かあるの?


 私とエミールさんはそのまま真っ直ぐ通路を歩いていくと、すぐに広い室内演習場へ出た。


 演習場の真ん中に佇んでいたルイズが、私達の姿を確認すると満面の笑みを浮かべた。


「この日を待ちわびていたぞ。ティア!」


「はぁ、ギルマスったら朝からあの調子なんです」


 ため息混じりに小さくこぼした。


「あはは。なるほどね」


 確かにすごい鼻息だ。エミールさんが落ち着けなかったのも頷けた。


「ティア、がんばってー!」


「がんば!」


 声のする方をみやると、観客席からみんなが手を振っている。私も手を振り返す。


 よくみると演習場を囲むように一段高い観客席には、まばらながらも人影がみられた。他の試験参加者の応援の人達だろうか。



「早速始めるぞ。エミール、防御壁を稼動しな」


「はい、マスター」


 エミールさんがどこかへ走っていってしまうと、演習場には私とルイズだけになる。


「あれ? 試験って私だけ? ていうか、木の人形は?」


「今日はお前だけだよ。それと、通常のCランク昇級試験なんぞ、やるまでもないだろう? 結果が見えすぎて時間の無駄だよ」


「それってやるまでもなく合格ってこと?」


 応援に来てくれたみんなも拍子抜けだろうけれど、手間がないならそれに越したことはない。


「くっくっく。規則上、流石にそうはいくまいよ。だから代わりにお前は私と模擬戦闘をやるんだよ」


「あっはは……なんでそうなるのかな?」


「なんでだって? ならエルガンとはどうしてやったんだい」


「それは……なんとなく最初からの因縁? 半年前の続き? 再挑戦?」


 言い出したのはエルガンだったけれど、一応私も望んでやったことだった。


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