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禁断魔法 その4

「ルーンゲルドが地下下水道内の隠し部屋で特級魔法を使用した事は、その夜に城を警備していた兵士達にすぐに知れ渡ることになった。魔力感知なんて縁がない俺でさえ、力の波動のようなものを肌で感じたくらいだからな」


 いったいどれほどの魔力量だったんだろう。想像もつかない。


「宮廷魔術師団のひと晩掛かりの捜査によって、ようやく隠し部屋が明らかにされ、ルーンゲルドはその場で捕縛されたんだ。その後の取調べで、彼が使ったのが禁断魔法の勇者召喚だったと判明したわけだな」


「ルーンゲルドは空間転移魔法が使えるんですよね? 追い詰められる前に逃げることができたのではないですか?」


 アリサが疑問を口にする。


 彼女の疑問もわからなくはないけれど……私が観た空間転移ゲートの魔法は途轍もなく濃密で、ひと目で超高度な魔法とわかる魔力図だった。


 その構築にも発動にも、相当量の魔力が必要なことは間違いない。


 特級魔法を使った後で魔力が枯渇していて使えなかったんじゃないだろうか?


「捕まることが計画の一部だったという噂もあったが、真意のほどは俺にもわからんな。単純になんらかの理由で魔法が使えなかっただけかもしれん。いずれにしても、ルーンゲルドがあの暴挙に臨んだ目的も理由も知らないままでは、俺達には憶測すら満足にはできないだろう」


「そうだね」


 失われた魔力を補う方法は他にもある。代表的な物で言えばポーションだけど、発動に必要な魔力供給なら魔核でも出来る。


 考えてみれば逃げ出すのが前提なら、地下とはいえ、わざわざ街の中で発動させた理由がわからない。それこそ空間転移ゲートを使って遠く離れた場所で行えば済む話だ。


 だけどわざと捕まったというのも、それはそれでやっぱり意味がわからない。


 グレッグの言う通り、ルーンゲルドの行動目的がわからない以上、いくら考えても答えはでないだろう。


「禁断魔法の使用は大罪だが、簡略的だが一応裁判は執り行われたらしい。そこで極刑を申し渡されたルーンゲルドは戻された牢から姿を消した。そしてその夜、国王陛下の寝室へ忍び込み、ルーギンス陛下のお命を狙ったんだ」


「それって極刑を下した国王陛下を逆恨みしたってことですか?」


「ああ。だが、事前に牢破りに気づいていたラウゼル団長の機転によって事なきを得るんだ。そしてルーンゲルドは城中の兵士に追われることになった。まともにやりあえば彼に勝算はなかったはずだが、大魔導士が本気で逃げにまわったら、ああまでも熟練の兵士達が翻弄されるものかと、認識を改めさせられたものさ」


「なんか変じゃない? 城内を逃げ回らずに城の外へ空間転移ゲートの魔法なり、浮遊の魔法なりで逃れれば済むじゃない」


 確かに魔力図の構築に時間と魔力はかかるけれど、あれほどの使い手なら逃げながら構築するくらい出来そうなものだ。


「当時の俺も捜索に参加しながら似たような違和感を感じていたな。あとでわかったんだが、どうやら城内で保護されていた召喚した勇者を探していたらしいんだ。だがそれは俺達の団長が読んでいたようでな。騎士団の戦闘訓練に講師としてたまたま呼んでいたSランク冒険者エルガン・エスカフォードに勇者の保護を頼んでいたらしい」


「エルガンってやっぱりあのエルガンだったんだね」


「知ってるのか? って、そういえばあの人はいまブリトールで冒険者ギルドのマスターをやってるんだったな。俺はその時、城壁の上を捜索していたんだが、いきなりの爆発音のあと穴の空いた宿泊棟の上階から3つの人影が飛び出してきてな。そのうち空中で2人が戦闘を始めたんだ」


「ルーンゲルドとエルガン、それに勇者の3人ですね?」


「ああ。すごかったぜぇ……今思い出しても身震いがする。大魔導士とSランク冒険者との実戦なんて観れるもんじゃないからな。たぶんだが、それに気づいた者は全員2人の戦闘を見守っていただろうな。見蕩れていたのは勿論だが、そもそも俺達程度が下手に手を出せる次元じゃなかったんだ」


 エルガンの本気って、私も見た事がないんだよね。一体どんな戦い方をするんだろう。


「エルガンったら本気出してた?」


「さあ、どうだろうな? あの人の強さは俺には底が知れないが、この国最強の大魔導士と謳われたあのルーンゲルドが押されていたのは確かだ。徐々に攻め手を減らしていった奴は一瞬の隙をついて空間転移ゲートを開き、勇者と共に逃げ出そうとしたんだが、その際に遠方からのエルガンの剣撃のようなもので顔を斬られたんだ」


 遠くから人を斬る? そんな荒唐無稽、到底信じられるものではないけれど、あのエルガンだもんね(脚力だけで地面に両足をめり込ませた事を思い出す)……うん、やりかねない。


「出血量からして大分深い傷を負っていたようだったし、その場を逃れても長くない命だと思われていたんだが……生き延びていたとはな」


「だから隊長はルーンゲルドがまた国王陛下を狙って何かを企んでいると考えているんですね?」


「帰都した理由が他に思い浮かばないからな。……少し話し過ぎてしまったが、くれぐれも口外無用を守ってくれ。この件は宮廷魔術師団にとっては触れられたくない古傷でもあるんだ。特にルーンゲルドを慕い、当時は副団長でもあったラウゼル団長の傷は深い。いらぬ怒りを買わぬためにも、な」


 椅子に座って力なくうな垂れた、寂しそうな背中のラウゼルを思い出す。5年経ってもいまだに癒えず、その傷を心に残しているのかもしれない。


「……うん。そうだね」


 それほどまでに部下に慕われていたはずのルーンゲルドは、築き上げた周りの信頼を裏切ってまで、どうしてそんなことをしたんだろう。


「さて、俺は大隊長への報告書の作成と意見具申から始めなければならん。あとはアリサ、頼めるか」


「はい。隊長」


「うむ。ティア、今日はありがとう。度重なる協力に感謝する」


「何度も言わなくてもいいよ。それにお礼は十分に貰ってるしね」


「そうか、そうだな。じゃあ、またな」


「うん、またね」


 グレッグと別れた私達は来たときの道を逆に辿って城門の前まで出ると、待機していた馬車へ乗り込んだ。


 私の希望で魔法学園ではなく冒険者ギルドへ向かってもらう。




「ねぇ、アリサ。仲間や信頼よりも優先されることってなんだろうね」


 ぽつりと呟いた私の質問に、アリサはしばらくの沈黙の後、静かに口を開いた。


「そうね。正直なところ私には思いつかないわ。けれど騎士団員として考えたなら、それはきっと使命でしょうね」


「使命?」


「そう。個人やその周辺のような狭く限られたものではなく、もっと広く、多くの者が関わるような場合というのかしら。私達騎士団は、有事の際に個を捨ててでも他の全のために動かなければならない使命を帯びているのよ」


「それって場合によっては捨て駒にもなるってこと?」


「そうよ。それがこの国を護るために必要な犠牲ならそうしなければならないのよ」


 アリサが捨て駒になって死ぬなんて、想像したらすごく嫌な気分になった。


「ふふ、なんて格好いいことを言ったけれど。私自身、覚悟が出来ているのかと言われたら自信はないんだけどね」


 そう言ってアリサは笑ったけれど、私は笑えなかった。


 この世界では数百年毎に繰り返し行われる魔界からの進軍、それによって引き起こされる天魔戦争があるのだ。


 もしもこの時代にそれが起きたなら、アリサが言っていることは現実のものとなる可能性を十分に秘めているんだから。


「そんなに暗い顔をしてちゃ、ティアちゃんのかわいいお顔が台無しよ?」


「もう、からかわないで!」


 それから気を紛らわすように雑談に花を咲かせた。


 話の中で、アリサも闘技場へ誘ったんだけど、残念ながらその日は外せない騎士団の仕事が入っているらしく断られてしまった。でも妙ににやにやしていたのは気のせいだろうか?


 黄昏時になって冒険者ギルド前に到着する。


「本当にここまででいいの? 待っててもいいのよ?」


「うん。この時間帯は手続きに時間かかるだろうし、ここから寮まではいつも歩いている道だから大丈夫だよ」


「そう、わかったわ。それじゃあ気をつけて帰ってね」


「うん、アリサもね」


 アリサを乗せた馬車を見送ってから、ギルド内へ入る。


 中は仕事から帰ってきたらしい冒険者達で賑わっていた。


「やっぱりこの時間は混んでるね」


 いつものようにエミールさんのいる窓口の列に並ぶ。


 しばらく並んでいたら、後ろから声を掛けられた。振り返ると3人ほど後ろにサラがいた。


 私は列から離れると、サラと合流して後ろに並びなおした。


「サラ、いま帰り?」


「そうよぉ。ティアは珍しいのねぇ、いろいろと……」


 サラが私の全身を上から下から眺めて言った。


「えへへ、まぁね!」


 最近あったことをお互いに話す。


 どうやらサラはエミールさんに泣き付かれてギルドの依頼をこなしているようだ。


サブタイトル『禁断魔法』は次話で終わりです。

実は、当初は”その4”から5年前の回想という形で執筆していたのですが、書いてみたら5話分を越えても終わらず……。個人的に主人公が登場しない話が長々と続くのはどうかと思うので、今回グレッグに語らせることにしました。


ただ、せっかく書いた分も勿体無いので、最後まで書ききって明日からこちらの話と平行して別枠で新規に投稿しようと思います。(本編でも今後軽く触れていくかもしれませんが、こちらは深堀ということですね。たぶん10話くらいになると思います。ちなみに登場人物ほぼおっさんです笑)


ルーンゲルドが勇者召喚に臨んだ理由と目的。そして王都の都市伝説『狂人ミューゼ』の噂の根源について興味のある方は是非読んでみてください('-'*

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