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天魔戦争 その12

「大魔王を名乗るのは自由だぜ。だが七大魔王セブンス・カタストロフィに入りてーなら、方法は1つだぜ。現七大魔王セブンス・カタストロフィの誰かを殺して入れ替わるしかねー」


「ケッヘヘへ……。つまりテメェを殺れば、その地位が手に入るってことか」


 にやりと笑ったラトムが、タイガに向かって臨戦態勢を取る。


 ラトムのこの余裕はなんだろう。


 まさかとは思うけど、本気でタイガの実力がわからないなんてことは……。


 それともタイガが復活したてで、まだ本領を発揮できてないはず、なんて希望的な観測を抱いているんだろうか?


 もしくは自慢の尻尾の毒ならタイガを殺せると踏んでいる?


「魔界は弱肉強食、力こそが唯一にして絶対のルールだぜ! 欲しいモノは全て力で奪い取る! 大魔王の座も例外じゃねー。それが全ての魔族に等しく与えられた権利だぜ! ただし――」


 タイガの深紅の瞳に殺気が宿る。


「大魔王との戦いに逃走も引き分けもねー。いずれかの命が尽きるまで、何千年、何万年かかろうとも必ず決着を付ける。勝利以外は死だぜ! 矮小なお前にその覚悟があるなら、かかってくるがいい!」


 ラトムがタイガの迫力にたじろぐ。


「ヘッ……ケッヘヘ。何千年だァ? 話をデカく盛りやがって……上等だァ! この俺様がテメェのようなハッタリ野郎に負ける道理がねェ! テメェら! こいつを押さえつけろ!」


 この期に及んでも他力本願とは、私は心底呆れた。


 しかし魔族兵達はタイガを見つめたまま硬直したように動かない。


「テメェらどうした! 俺様の命令に逆らうつもりかッ!!」


「無駄……だよ。彼等……は、動けない」


「あァ?」


 そう。彼等は弱いけれど、弱い故に正しく感じているんだ。


 タイガという怖ろしい魔物の実力を――。


 重要なのは見た目の大きさじゃない。


 身に纏う魔力の質――量と圧だ。


 タイガに飛び掛かればその瞬間、全身をバラバラに刻まれて死ぬ。


 まるで無数の鉄の刃が高速回転する中へ身を投げ出す行為――そんなリアルな想像を、魔族兵達は頭ではなく肌で感じ取っているんだ。


 目前の確実な死と、のちの死とでは比べるべくもない。


 恐怖による支配は、より強大な恐怖の前では意味を無くす。


「格の差……だよ」


「テメェ……! 人族の分際で、また俺様を嘲笑いやがったな……ッ!」


「ふん。やる気がねーなら、有象無象を連れて魔界へ帰れ」


 タイガがラトムに背を向ける。


「ケッ、馬鹿が! テメェから隙を見せやがったぜェ!!」


 ラトムがタイガの背中に不意打ちの尻尾攻撃を放った。


 しかしタイガは振り返りもせずにその攻撃をなんなく躱した。


 回避と同時に青い閃光が1本走って、切断されたラトムの長い尾が空を舞う。


 激痛にラトムがあげた悲鳴は、あがった瞬間途切れた。


 タイガは首を失くしたラトムの背後で、咥えていた彼の頭部を吐き捨てた。


 まさに一瞬の出来事だった。


 攻撃を躱しながらラトムの尾を爪で切断したタイガは、そのまま反転してラトムに飛び掛かった。


 そして魔力の篭った牙でラトムの太い首をすれ違い様に刎ねたんだ。


 だけど驚くほどの事じゃない。


 タイガはまるで本気を出していないとはいえ、2匹の実力差を考えれば当然の結果だ。


 ラトムという魔族は、盲目的な程の自信故に、相手の実力を測る目が曇り切っていた。


「ラトム様がヤラレた……うっ……うわあああああ~~~~っ!!」


 魔族兵の1匹が逃走する。


 それを皮きりに、へたり込んでいた魔族兵達が次々と立ち上がっては『黄泉への(いざな)い』へ向かって走り出した。


 これで今回の天魔戦争は終焉へ向かう。


 私はほっと胸を撫でおろした。


 もう安心だからね、エンリ。


 タイガが私のところへやってくる。


「どう……して、殺した……の?」


 タイガなら殺さずに制することも余裕だったはずだ。


 タイガは私の下に鼻先を突っ込むと、持ち上げて私を背中に乗せた。


「これは魔族同士の闘争だぜ。人族は関係ねー。俺は魔界の流儀に則っただけだぜ」


 タイガがゆっくりと飛翔魔法で大空に舞い上がる。


 目指す方向はブリトールだ。


 眼下を戦場の傷痕が流れていく。


 体に回った毒のせいで意識が朦朧とする。


「ねぇ……タイガはどうして……七大魔王セブンス・カタストロフィに入ったの?」


「……闘争に明け暮れる日々を送っていたある日、大魔王がやってきたんだぜ」


「もしかして……その大魔王まで返り討ち……にしちゃったの?」


「ふん。その後ゼクスに勝手に入れられてただけだぜ。七大魔王セブンス・カタストロフィのひと柱を打ち倒した者の責務だなんだと。ちっ、あいつは頭が硬くてめんどくせー奴だぜ」


 ゼクス……確かゼクス・ザリオン。


 四魔唯一の生き残りである大魔王が、タイガを七大魔王セブンス・カタストロフィに入れた?


「えへへ……タイガらしい……ね……うっ……!」


「どうした?」


「はきゅッ……! はッ……はッ……い……息が……っ!」


 できない……肺が……動かせない?


 苦しい……!


「ちっ!」


 タイガが首を回して私を咥えると、飛翔速度を一気に上げた。


 暗く沈んだ視界がぐるぐると回る。


 天使の魔法には解毒魔法もある。


 だけど例え私に天力が残っていたとしても、今の私には魔力図を組み上げるだけの集中力がない。


 どっちにしても詰んでる。


 私はこのまま死んじゃうんだろうか?


 せっかく天魔戦争も終わるというのに……これからだっていうのに……。


 酸欠で意識まで遠のいてくる。


 全身の感覚も曖昧になってきた。



 ――どれくらい時間が経ったのだろうか。


 私は少し意識を失っていたようだ。


 もう視界は殆ど見えないけれど、私はまだ息があるらしい。


 全身の感覚が無くて、自分の体がこの世にあるのかも曖昧だった。


 ただ世界へ意識を集中すると辺りの様子はなんとなくわかる。


 ここは領主の屋敷のようだ。


 私は部屋のベッドに寝かされているらしい。


 部屋の中には私以外に5人いる。


 黒猫サイズのタイガが私の枕元に座っていて、ベッド横の椅子にエンリが座っている。


 ホーケンはエンリの横に立っている。


 それと部屋の壁際に男女の使用人が2人立っているようだ。


「タイガちゃん! ティアは、ティアはどうしたんですか!?」


「毒だ」


「毒だと? 一体何の毒だ!」


「……知らん」


 タイガとエンリ、ホーケンが話している。


「毒の種類がわからねば、解毒のしようがないぞ!」


「ちっ、解毒薬を全部飲ませればいーだろ」


「そういうわけにはいかん! 薬は使い方を誤れば逆に毒になるのだ!! く……。絶対に死なせはしないぞ。我が娘の命だけでなく、この国を守った英雄を!」


 ホーケンが早歩きで使用人の方へ行く。


「至急野戦病院と連絡を取って、毒に詳しい医師を呼び寄せるのだ!」


「はい。あの……」


「なんだ!」


「野戦病院は負傷した兵士の治療で医者の手が足りないと伺っています。もし……」


「もしゴネるようなことがあればこう言え! これはブリトールの領主として命じる最優先事項だとな!! さっさと行け!!」


 ホーケンの怒号が響く。


「わっ……わかりましたっ!」


 受け答えした男性が慌てた足取りで走り去っていった。

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