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ティアのままならない一日 その2

「じゃあさ、タイガって一体誰に封印されたの?」


 私はずっと疑問だったことを聞いてみた。


「ふん、誰だかなんか知らねぇ。人族の名前なんざ興味ねーよ」

「人間の誰かに封印されたんだ?」


 天魔大戦だったなら大天使の魔法の可能性もあるかと思ったんだけど違ったらしい。こうも当てが外れまくるとタイガはやっぱり天魔大戦より前の戦争で封印されたのかもしれない。


「あのときは天族も沢山いたが、俺を封印したやつは翼がなかったし、髪の色も暗かった。人族で間違いねぇ」


 タイガは実物の天使と会った事があるんだ。


「天族って天使の輪っかがついてるんでしょ?」

「あ? んなもんねぇよ」


 あれれ。物語に出てくる天使といえば、金髪で大きな真っ白の翼、そして天使の輪っかなんだけど、実物は違うらしい。


 翼のような大きな特徴を見逃すはずもないだろうし、タイガを封印する金色の魔力図は人の手によるものってことで間違いなさそうだ。強力な魔法だし、ひょっとしたら神器を使った封印魔法の可能性もあるよね。そうだとすると私の服にある金色の魔力図とはあまり関係がないということになるのかな。


 もしくは、この服が神器そのものだったり? ってないない。15年ほころびが出来ない程度の効果で神器だなんて、名前負けが過ぎるもの。


「にやにやしやがって、お子様が」

「む、それどういう意味?」

「ふん。口にソースがついてるぞ」


 ベンチの上を片付けてから水のみ場で口元を洗う。


「どう、取れた?」

「ああ」


 周りに人がいないからと空中を漂いながら、いつものようにつーんとしているタイガに、いたずら心が刺激される。


「ちょっとぉ、もっと近くでちゃんと見て!」

「ちっ、見てるだろうが……にゃ゛ッ!」


 近づいてきたタイガを抱き寄せて、その脇腹に顔を(うず)めて首を左右に振る。う~ん、ふかふか。


「なッ!」

「ふふっ、あっはっはっは、タイガったら『にゃ!』だって! かわいいっ」


「お、お前ッ! 俺をタオル代わりにしやがったなッ!!」


 抗議の猫ぱんちが飛んでくる。


「ごめんごめん、だってふんわりやわらかで気持ち良さそうなんだもん」

「ちっ、このお子様めがっ」


 不機嫌になったタイガの毛繕いを待ってから公園を出る。




「ふふっ、ふふふっ」

「いつまで笑ってんだッ」


 タイガが後ろから抗議の声をあげる。


「だってぇ、あんまりにもかわいいんだもん」

「ちっ」


 足の向くままに歩いていたら冒険者ギルドに着いてしまった。習慣って怖いね。


 そういえば王都に着いてからはずっとダンジョン探索で、ギルドの依頼って1つも受けたことがないんだよね。王都ではどんな依頼が出されているんだろうか。ちょっと気になるから見ていこうかな。


 中に入ると、ひとの姿はまばらだ。こんな時間だし、きっとみんなダンジョンなり、依頼なりで出ているのだろう。


 依頼書が貼られたボードへ向かう私をエミールさんが呼び止める。


「あれ? ひょっとしてティアズさんですか?」

「こんにちは。エミールさん」


 行き先を変更して受付窓口へ向かう。


「その制服は王都の魔法学園のものですね。ひょっとして入学されたのですか?」

「えへへ。まぁね」

「あぁ! だからいつも週末にギルドにいらっしゃるのですね!」


 顔を輝かせて両手を合わせながら得心の声をあげた。そんなエミールさんとしばらく雑談をする。この時間は殆ど人が来ないから暇なんだって。



「……という訳でして、Cランク以上の依頼が溜まる一方なんです」

「あ~。だってねぇ、一般の依頼を受けるよりもダンジョンの方が宝箱で一攫千金も狙えるし、魔物討伐でも普通に稼げるから」


 ダンジョン需要の弊害がここにもあったらしい。みんながそちらへ行ってしまうせいで、一般の依頼を受ける冒険者がものすごく減っているんだって。最近では攻略が進んだおかげでDランク以下の冒険者達がダンジョンで旨味がなくなって戻ってきているので、問題はCランク以上の依頼なんだそうだ。


「そうなんですよね。ダンジョン産の素材買取と販売でギルドは潤っていますから、依頼料は据え置きなのですが、ボードに貼り出しても達成報酬を上げないと受けてくれる冒険者がいないんですよ。依頼者の方にはそう進言させていただいているのですが、なかなか難しい場合が多いんです」


 昨日まで500イルドで買えていたお弁当が、翌日から800イルドに値上がりしたとしたら大分悩むもんね。余程困っていない限り別の手段を考えるかも。


 だけどそれほど心配する必要はないと思う。


「あと何ヶ月もしないうちにCランク冒険者は帰って来ると思うよ」

「そうなのですか? 理由を教えてもらってもいいですか?」

「Dランク以下の人達と同じだよ。いま私とサラが探索している階層だと、Cランク冒険者らしい人達は全然見かけないもん」


 20階層でサラが呪いの剣に操られたときに近づいてきた十数名の男性冒険者達。呪いを解いたあとに事情説明を含めて少し彼等と話しをしたんだけど、予想通りあの人達は全員Cランクだった。しかも殆どがCランク暦が数年というベテラン揃いのパーティだったんだけど、自分達の実力から階層の探索難度に合わせた結果、あれだけの人数のパーティを組んでいると言っていた。


 それに30階層付近ではそんな大所帯パーティとすれ違った事は一度もない。魔物が単体で強いから数で押すだけでは通じないからだろう。おそらくあの辺りがCランク冒険者が篩いにかけられるところなんだと思う。


 エミールさん曰く、Cランクが最も冒険者の人口比率が高いそうだから、彼等が身の安全をある程度確保しながら潜れる階層となれば、隅々まで攻略されてしまうのは時間の問題じゃないかな? そうなれば一攫千金はなくとも、安定して稼げる一般の依頼の方へ帰って来る者達が現れるだろう。ダンジョンで無理をして怪我で仕事ができなくなったり、まして命を落としてしまっては元も子もないからね。


 エミールさんと話していると、突然後ろから声を掛けられた。


「あなた、学園の生徒ですねッ! いまは授業中のはずですがッ!」


 びっくりして振り返るとルイエさんが仁王立ちしていた。


「あ、やばい」

「え? やばいんですか?」


 固まる私に状況が把握しきれていないエミールさん。そしてツカツカとこちらに近づいてくるルイエさん。


「あら、あなたはティアズさんですね。ひょっとしてギルドのお仕事ですか?」

「あ、そ、そう! 仕事だよ! いまダンジョンのせいで依頼書が溜まって大変だね~って話してたところだよ!」


 エミールさんにアイコンタクトを送ると苦笑いが返ってきた。それはどっちなの!? 否定なの、肯定なの? とりあえず仲間だと信じることにする。


「それよりルイエさんこそ、今日は教壇に立たなくてもいいの?」


 私のじと目を受けて、今度はルイエさんがわかり易い動揺を表す。


「ギクッ! きょ、今日の講義は臨時休講です。決して抜け出してきたわけではないですからねッ! だけど一応この事はアルフォスのじじ……学園長には秘密ですよ。いいですね?」


 そう言って顔を近づけてくると、青い前髪のカーテン越しに圧をかけてくる。ははぁ~ん。彼女も私と似たり寄ったりとみた。


「わかったよ。お互い今日はここで出会わなかった。そういうことだね?」

「ふふふ。話の早い人は好感が持てますよッ!」


 2人で悪い笑みを浮かべながらがっしりと握手を交わす横で、エミールさんがなんともいえない表情で笑っている。


「ところでルイエさんはどうしてギルドに。ひょっとして何か依頼?」

「違いますよ。ここで働いている身内に会いに来ただけです。ちょっと急いでるのでいきますねッ。あとくれぐれもこの事は内密にッ!」

「はいはい」


 そう言って手を振りながらカウンターの奥へ消えていった、


「あれ、入っていっちゃったけどいいの?」

「彼女は特別なので」

「ふうん?」


 よくわからないけど、エミールさんがにこやかにそう言うので、いつものことなのかもしれない。


「そうだ、闘技場の場所ってわかる?」

「もちろん知ってますよ。王都の名物の1つですからね。ティアズさん、ひょっとして出場したいのですか?」


 何故だか期待のこもった目を向けられる。


「ううん。ただちょっと小耳に挟んだから気になっているだけだよ。観たいだけで参加はしないよ」

「そうですか、ティアズさんならいいところまでいけると思うのですが……。あっと、場所でしたね。ここがギルドで、出てからこの道をこっちに行ってですね……」

「ふむふむ」


 カウンターの上に街の地図を広げて指差しで丁寧に教えてくれた。ここからそう遠くないみたいだ。エミールさんにお礼を言ってギルドを出る。


「あ、依頼のボード見るの忘れちゃった……。まぁまた今度でいいか」


 どうせ受けている時間はないし、杖も鞄も寮に置いてきている。


 教えてもらった道筋を辿って歩いていくと、なんだか寂れた感じの薄暗い通りに入る。

 ブリトールにもこういう雰囲気の裏路地があったなぁ。思い出して少し懐かしくなる。


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