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運命との邂逅 前編

「大丈夫か?」


 手を差し伸べて、カブトにいちゃんは私を優しく起こしてくれる。


「痛っ」


「怪我してるのか? あの野郎……ッ!!」


「あ、違う!」


 走り出そうとするカブトにいちゃんをあわてて止めて、怪我の理由を話す。


「ティア、ギルマスと模擬戦したのか! すげえな。あの人は頼んだって、相手してくれないんだぞ。羨ましいぜ」


 すごく羨ましがられてしまった。


 でも確かに得るものが沢山あったかもしれない。


「ギルドに登録できたんなら、これからどうするんだ? 早速依頼か?」


「ううん。まだ住む所も決まってないからこれから宿を探すところだよ」


「宿かぁ。だったら生活が安定するまで俺の宿に寝泊りしろ、ティア」


「いいの?」


「ばっか、遠慮なんかすんじゃねえよ。俺はお前のおしめだって交換した事あるんだからな。つっても狭いし、寝るだけの床を貸してやれるくらいだけどな!」


 そういってニカッと笑った。


 あの頃よりずっと強くなっているけれど、中身は全然変わってないようで安心する。


 ちっちゃな頃からいつも私を構ってくれた、あのにいちゃんのままだ。


「うんっ!」


 その日はカブトにいちゃんの宿で夜ご飯を食べながら、昔話に花を咲かせて少し夜更かしをした。


 寝る時、私をベッドへ放り投げるとカブトにいちゃんは床でグーグー寝てしまう。


 うん、わかってた。そういう優しいにいちゃんなんだ。



 次の日、朝食を取ったあと2人で依頼を探しに冒険者ギルドへ向かう。


 左肩が少しだけ痛むけど、夜更かしで少し眠い以外、体調は万全だ。


 昨日の事を思い出すとギルドへ向かうのが少しだけ怖かったけれど、カブトにいちゃんが隣にいてくれるだけで、ものすごく安心出来た。


 もしかしたら、わざと一緒に付いて来てくれてるのかもしれない。


 ギルドに着くと4人の見知らぬ冒険者が話しかけてきた。


「よぉカブト。今日はかわいい子連れてんじゃん」


 どうやらカブトにいちゃんの仲間みたいだ。


 男性冒険者2人と女性冒険者2人を紹介され、私も妹だと紹介される。


 ギルドの待合所にあるテーブルで軽く雑談をする。


「て訳でよぉ。お前らもティアの事、少しでいいんだ。気にかけてやってくれないか」


「「ああ」」


「「もちろんよ!」」


 昨日の事を聞いて、特に女性冒険者の2人が自分の事のように怒って、心配してくれた。


「ああいう手合いって何処にでもいるけど、無視しても『無視しやがって!』ってなるし、相手すると『生意気な女だ!』ってなるし、どうしろっていうのよねえ!」


「結局、一度へこまさないと駄目なのよ。とことんまでさ」


 でも本当そうだよね。こっちは放っておいて欲しいのに、どうしろというのか。


 しばらく雑談したあと、私達は依頼書が貼られたボードの前へ移動して今日の仕事を探す。


「悪ぃな、ティア。俺達Cランクだから、手伝うとティアの成果じゃなくなっちまうからさ。でも困ったことがあったら何でも相談するんだぞ」


 そう言ってカブトにいちゃん達は討伐依頼を受けて出発していった。


 私は街の外に出たことがなかったので、初めての仕事はFランク向けの簡単な薬草採取の依頼を受ける事にした。少しずつ慣れていけばいいよね。


 受付嬢に聞くと、薬草は街の北にある平原でよく見かけるとの情報がもらえた。


 実際の薬草を見せてくれたので、その形や色をしっかりと見て覚える。



 昼食用にお店でサンドイッチを2つ買って街の北門へ向かって歩く。


 この街は家が立ち並ぶところから門までの間は畑が広がっている。


 特に北側は畑の面積が広い。


 それには理由があって、この北のずっとずっと先に魔界の門が現れる魔の平原があるからだ。


 天魔戦争の際、街の北側から攻められるので、十分な兵の配備と大型の魔導兵器の設置が出来るように広めになっているのだそうだ。


 しばらく畑に囲まれた街道を歩いていると、巨大な門が見えてくる。


 大きな四角い岩が何個も重なり合った壁は高く、厚みもありそうだ。


 門の前には鉄製と思われる甲冑に身を包んだ門番が2人立っていた。


 ギルドカードを見せて薬草を取りに外へ出たいと伝えると、大きな扉の横にある普通サイズの扉を開けて通してくれた。


 扉の先は短い通路になっていて、その先の扉を開けると防壁の外へ出られた。


 そこにも門番が2人いたので、帰りはあの人達に言えば入れてくれるのだろう。


 それにしても……。


「うわぁ……広~~~~い!!」


 真っ白な雲がぽつぽつと浮かぶ青空の下には、地平線まで続く平原が広がっていた。


 数百年毎に焼け野原になるせいで、この場所は木が生えなくなったのかもしれないね。


 どこまでも続いている平原を、薬草を探しながらてくてく歩いていく。


 常時依頼だからか、あんまり街から近い場所は採り尽くされているのか全く見つからない。


 受付嬢が群生を見つけても全部は採らないようにと言っていた。


 残しておけばそこからまた増えるけど、全部採ってしまうとそれっきりだからだそうだ。


 それにしても風が気持ちいい。


 ここでお昼寝をしたら最高だろうなぁ。


 遮蔽物がないのでいきなり魔物に襲われる心配もないから、緊張感もなく歩いていく。


 ふと気づいて後ろを振り返ると、大きかった門がすごく小さくなっていた。


 結構歩いたな。ここまで来れば生えてるかな?


 今度は足元をよく観察しながら、時々周りにも注意しつつ歩いていく。


 途中でお昼休憩を挟みながら、しばらくすると鞄には十分な薬草が詰まっていた。


「これだけあればいいよね」


 まずまずの成果に足取りも軽く来た道を逆に歩いていく。


 ふと遠くで金色に輝く何かに気付いた。


「行きでは気付かなかったけど、なんだろう?」


 位置的には北門から北東になるかな。


 少し遠回りになるけど、まだ日は高いし気になるので行ってみる事にした。


 近づくほどに大きくなっていく金色の光。


 それは巨大な、金色に輝く複雑な模様が描かれた図形だった。


「これって……。すごく似てる」


 全然大きいし模様の形も違うけど、金色に輝いている所や複雑な模様な所が、私のケープとワンピースに見えるものと似ていた。


「このトゲトゲから出てるのかな?」


 足元には赤ん坊くらいの大きさのトゲトゲした真っ黒い艶々した不思議な形の岩がある。


 薬草を探しながら平原を歩いていたときに岩は何個も見かけたけれど、こんな色艶のものも形のものも見かけなかったから、ぽつんと置いてあるこの岩に少し違和感を感じたので、なんとなくそう思ったんだ。


 それに、なんだかこの岩を中心に模様が広がっているようにも見えるし。


「それにしても、大きくて綺麗……」


 光る模様に触れてみたくて、思わず手を伸ばすと指先に感触がある。


「あれ、触れる……。なんかぷにゅぷにゅする。ちょっと気持ちいい」


 孤児院の小さい子供達のほっぺみたい。


 軽く摘んで引っ張ってみると少し伸びた、もっと引っ張れば取れそうな感じだ。


「珍しいものだったら、カブトにいちゃんに見せたら驚くかな?」


 こんなに大きいんだし、ちょっとくらい貰ってもいいよね?


 少しちぎって持って帰ろうと思って、模様をしっかりと手で掴んで思いっきり引っ張ってみた。


「うっ!」


 突然、つんざくような耳鳴りに似た音が辺りに響いた。


「な、なに?」


 目の前に広がる巨大で複雑な模様が描かれた図形に、瞬く間に無数の亀裂が広がると細かく割れて溶ける様に消えてしまった。


 端っこをちょっとだけ貰うだけのつもりだったのに、跡形もなく全部消えてしまった。


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