実のある武術鍛錬方法 その3
魔法有りかぁ、アルの提案は面白そうだけど……。
「う~ん。射出系や放出系禁止ならいいけど? 間違ってエンリの方に魔法が飛んだら危ないからね」
「彼女の言うとおり、魔法の場合は周りへの配慮が必要だな」
「そうなぁ。だったら岩や氷なんかの固形物の射出禁止ならどうよ?」
「それなら風の刃と炎も禁止だね。当たると怪我するよ」
「「だなぁ」」
他に懸案がないかそれぞれで考えを巡らせる。
「なぁ、もうひとつ。当たった事がわかる方がいいんじゃないか? 射出系は小さな水球だけに限定して放出系も水に限定するとかどうだい? 当たれば濡れてお互いにわかる」
「つまり、当てた実際のダメージじゃなくて、当てたって事で考えるわけね」
「あぁ。そういう事だ」
グリースがにやりと笑う。
「いいんじゃねぇ? 小さい水球なら当たっても痛いだけで済むしな。万が一流れ弾に当たっても少し離れてれば怪我しねぇだろ」
射出速度によっては近距離だと結構痛いかもしれないけれど、周りへの被害に関しては距離を開けてやれば大丈夫かな?
「そうだね。うん、それならやってもいいよ」
「よし、グリースは体休めとけ。俺からいくぞ!」
エンリ達からもう少し距離を開けたところへ移動して木剣を構えて向かい合う。
「いつでもいいよ」
アルが魔力図を構築し始める。あれは中級で習った筋力強化の魔力図だね。あれだけ射出系の魔法について話し合った後でそれを使ってこないんだ。アルが魔法を発動させた。
「行くぞ!」
先ほどとはまるで別人の様な踏み込みの速さで斬りかかってくるが、私の魔法を受けてその手から木剣がすっぽ抜ける。
「はぁっ!? あぶッ! な、何が……っつーか、起き上がれねぇ!」
武器を失ったアルが私の『つるつるの魔法』のトラップ内に足を踏み入れた瞬間、ズッコケるとうつ伏せのままその場で起き上がれずにもがいている。
「えへへ。いつもはアルの足に魔法をかけてるけど、今回は私が立っている所を中心に範囲で地面にかけ続けているからね。起き上がるのはSランク冒険者でも簡単じゃないかもよ?」
「な、なんでそれでお前は転ばないんだよ!」
「だって私の足には『すべらない魔法』をかけてるもん」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。アルの木剣の落とし方は明らかに不自然だった。君はこの短い間に3つの魔法を発動した上に、いまも2つの魔法を維持し続けているのか?」
「そうだけど?」
正確には魔法は4回使ったけどね。
「なんだよそれ……。俺が1つの魔法を使う間に3つ使ったってのかよ!? お前のすべる魔法は禁止だ!」
「私、『つるつるの魔法』しか使えないんだけど?」
「じゃあお前は魔法禁止! 大体全然起き上がれないぞ! これじゃ鍛錬以前の問題だろ!!」
まぁそれはそうか。でもアルは諦めが早いな。エルガンみたいにあの手この手を考えないのね。ってSランク冒険者と比べるのは酷かな……。
「しょうがないなぁ、わかったよ」
私が魔法を解除するとアルがのそのそと立ち上がる。
「君の魔法はやばいな。近接戦闘で無敵じゃないか?」
「そうでもないよ。一度の模擬戦闘でこの魔法を2度、別々の方法で無力化されたことがあるよ」
「相手はどんなやつだよ……。とにかくお前は魔法禁止だから! それでもう一度やるぞ」
「はいはい」
仕切りなおしと、元の位置へ戻ろうとすると、
「貴方達、魔法って聞こえたけれど、どういうことですの?」
エンリ達の指導を終えたのかな? エクールがこちらにやって来た。3人でいまやっている模擬戦闘のルールを説明する。
「それは面白そうですわ! ティアズ、是非私の相手もしなさい!」
「おいちょっと待て。やるなら俺とグリースの後だぞ」
「2人は今日、ティアズと1度やっているのでしょう? 次は私に譲るべきではなくて?」
アルに食ってかかられたエクールが涼しげに切り返す。
「確かに彼女の言う事は一理あるな」
「なんだよグリース。そんな事言って俺のこの燃え上がったやる気をどうしてくれるんだよ。さっきのだってめちゃくちゃ不完全燃焼なんだぞ!」
「あー……。あれはそうだろうな」
「だろぉ?」
私が言うのもなんだけど、筋力強化して打ち合う気満々だったところを一度も剣を交えることなく終わったもんね。あれは悔いしか残らない内容だったかもしれない。
「それでしたら、私達3人同時なら良いのではなくて?」
「はぁ? 3対1はさすがにあいつがきついんじゃねぇの?」
「いや、だけど魔物1匹をパーティで討伐する状況を想定するとしたら、仲間との連携の練習も必要じゃないか」
「あぁ~、そういわれてみればそうかもな。卒業試験の迷宮探索を考えれば、班員同士の連携の練習は必要かもしれねぇ。仲間の攻撃でダメージを受けるとか馬鹿馬鹿しいしな」
私は魔物かっ! とツッコミたいのを我慢しつつ、どうするのかなぁと見守っていたら、揉めていた3人が一斉にこちらへどうなんだと顔を向けてくる。
「え、私? 別に構わないけど。Dランクへの昇級試験のときも3対1だったしね。そういう模擬戦闘の経験ならあるよ」
「彼女がそう言うならいいのか?」
「もちろんティアズも魔法の使用有りで、ですわ。3対1なら魔法禁止のハンデはなくすべきですもの」
「はぁ!? あいつに魔法を使わせたら鍛錬にならないぞ!」
「僕もこれについてはアルに完全に同意する。彼女に魔法を使われたら3人がかりでも手も足も出ないだろうからね」
エクールからの公平さを尊重した提案に、既に魔法有りでやりあってその威力を知るアルと、それを間近で観ていたグリースが食い下がる。2人の男子の真剣な眼差しを受けてエクールが若干気圧されたようだけど……。
「そ、そこまでですの? ……フフフ。ならばやはり、試しに一度だけでも魔法有りでやらせて欲しいですわっ!」
2人がした説得は逆効果だったようだ。むしろ彼女の心に火をつけてしまう結果になった。挑戦的な顔つきで言うエクールにアルが諦めの表情で応える。
「ちっ、どうなっても知らねぇぞ……」
「決まったのかな?」
「えぇ。聞いていた通りですわ。始めますわよ!」
3人が私の前に横並びに立つと木剣を構えた。自信に満ちたエクールとは対照的に男子2人の目からは慎重さが覗える。
「いつでもいいよ」
3人がそれぞれ魔力図を構築し始める。アルとグリースは水球の射出魔法だね。さっきの模擬戦闘で近づいたら転ばされると学んだからだろう。
エクールは……あれは水の放出系の魔法かな? 威力を求めないのでどちらも初級寄りの比較的簡素な図形を描いているので3人とも展開までが速い。特に構築速度が速いアルが一番に魔法を発動させた。
魔力図から射出された水球を木剣で叩き落す。その後、グリースによって放たれた水球も斬り捨てる。魔法の発動後、2人はすぐに次の魔力図の構築を始めている。どうやら遠くから魔法で攻め続けるつもりらしい。
男子2人が次の魔法を構築している隙を埋めるように、エクールが構築を終えた魔力図を展開しながら木剣で斬りかかってくる。
「フフ。貴女には遠くから射出する水球が当たらない事くらい、これまで幾度も模擬戦闘をしてきた私にとっては想定内ですわ。さあ! 私の得意とする剣撃と魔法の融合技を、いまこそ貴女にお見せしますわ!」
歓喜に満ちた瞳でエクールが口角をあげながら木剣の間合いに力強く足を踏み入れる。
「エクール、そこ危ないよ」
「えっ、きゃあぁ~ぶッ!」
踏み込んだ足を盛大にすべらせて、仰向けに1回転したエクールがうつ伏せに地面に転倒して滑っていく。私は一瞬だけ『すべらない魔法』をかけて彼女を魔法のトラップ内に留めて捕らえた。
「な、何が!? どうなっていますのっ!? それに起き上がれませんわ!!」
顔を上げることもできないのか、一瞬にして私を見失ったエクールは、背後に立つ私の位置が掴めないのだろう、展開した魔法を発動できずにその場でもがいている。
「ちっ、迂闊に飛び込むからだぞ!」
「彼女はもう駄目だ。アル、2人で挟み撃ちにするしかない」
2人が左右に散開して挟撃体勢を取りながら放つ水球を木剣で叩き落しつつも、いくつかの水球は敢えて避ける。
「ぶッ! 冷てぇっ」
私が避けたグリースが放った水球がアルの顔面にヒットした。
「アル、それが鋭いナイフのような岩を射出する魔法だったら、大怪我か最悪死んでたね」
「ちっ」
「くっ、な、なぁ? 彼女、僕達が同士討ちする水球だけ選んで敢えて避けてないか!?」
グリースはなかなか鋭い。私は普通の魔法は使えないけれど、相手の魔法を利用できないわけじゃないからね。使えるものは何でも使うよ。
「視界の外から飛んでくるものをそこまで出来るわけないだろ!」
「それを言うならこうまで叩き落すこと自体、出来るものなのか」
「し、知るかよ!」
2人とも魔法を放っては次の魔力図の構築を繰り返す。




