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ペイジュへ その4

「どうやらお前の目的に合致することが確認出来たみたいだな? だがこれじゃまだ片手落ちだ。そうだろう? ここまではお前にとって利のある話だが、わしらにとってはなんら益のない話にすぎん。むしろお前を同行させるのは、わしらにとって荷物と食いぶちがひとり分増えただけの損失でしかない」


 む。荷物だとか損失だとか。そういう言い方をしなくてもいいのに。


「わかってるよ。私は相場とかよくわからないから、いくら払えばいい?」


 ガメーツがにやりと笑う。


「お前のような小娘は知らぬだろうが、わしらムーンパレス商会は国一番の大商会だ。顧客の大半は貴族で、当然今回の積み荷も隣国の貴族へ届けられる高級品ばかりだ。その積み荷を確実に届けるために、多くの高ランク冒険者を護衛に雇っている。わかるかね? 万全の態勢には大金がつぎ込まれているのだ。そこに同行するということは、お前にも同等の恩恵が与えられるということに他ならん」


「はぁ」


「わしらはオノデミで追加の商品(・・)を受け取ってから国境を越える予定だ。そうだな。ペイジュまでの日程はおよそ2ヵ月にもなるだろう。1日分のお前の食費と護衛料に60を掛けて、食料等の追加に伴う材料費及び経費、それとわしの手数料を含めると……ふむ。端数はオマケしてやろう」


 懐から取り出したメモ用紙に羽ペンを走らせると、ガメーツは金額を書いた紙をテーブルに置いた。


「ちょっ、300万イルガって! 高すぎない!?」


「何を言ってる。十分安いだろう? なんの心配もせず、寝ているだけで確実にペイジュまで無事に辿り着けるのだぞ」


「それにしたって同行させてもらうだけなのに300万なんて……」


 現在の物価高を考慮しても高すぎるでしょ。


 だってシャンダサーラのちょっといい宿で、3食付きで1年くらい泊まれる金額だよ。


 私が利用している1食付きの安宿なら3年はいける金額だ。


 それをたった2ヵ月で?


「食事は自分でなんとかするし、いざって時には護ってもらわなくてもいいから、もう少し安くならない? 黒薔薇盗賊団は解散したんだし、そこまで護衛は必要ないじゃない」


「駄目だ。解散したと言っても残党はいる。それにわしらムーンパレス商会は、奴らに執拗に狙われているからな」


「そんなの……っ!」


 ムーンパレス商会が不正な奴隷売買に手を貸していたからリガルに目を付けられていたんであって、完全にそっちの都合じゃない!


 私の視線に気づいたガメーツが不快そうに顔を(しか)める。


「ふん。わしらにはわしらのやり方がある。何処の馬の骨ともしれぬ小娘に口出しされる謂れはない。お前がわしらに同行するなら受ける恩恵に見合うだけの金を払ってもらう。嫌なら話はここまでだ。わしらは予定通り3日後にシャンダサーラを出発するだけだ」


「でも300万なんて……納得できないよ」


「ふん。決裂だな。なら勝手にしろ。わしは忙しいというのに、時間を無駄にしたわ」


 ガメーツが席を立つ。


「待って!」


「なんだ? 気が変わったのか?」


「……わかったよ。300払うよ。それでいいんでしょう?」


「300? いいや、駄目だな。500だ」


「え? だってさっき300万って言ったじゃない」


「それはさっきの話だろう? 300万の商談が破談に終わった後に500万に値上がりしたのだよ」


 ガメーツがいやらしい笑みを浮かべる。


「なによ……それぇ」


「相場とは刻一刻と変化するものだ。いつまでも同じな訳がなかろう。そんなことも知らんのか? だが流石に500万は払えぬか? ならわしが貸してやろう。なあに心配するな。フレイディールでいい稼ぎ場所を紹介してやる。お前のような若い女なら500万なぞ数年で稼げるだろう」


 下卑た嫌な笑みだ。


 それだけで碌でもない提案だとわかる。


「どうする? わしはどっちでもかまわんぞ。500万払うか、それともやめるか? 早く決断しないと次は1000万に値上がりするかもしれんがな。ガッハッハ」


「く……っ!」


 なんてがめつい男だ。


 でも500万か。


 いまの私にとっては決して払えない金額という訳じゃない。


 それに1週間以内に出発できるキャラバンが他にあるとも限らない。


 この男を愉快にさせるのは嫌だけど、エンリのためにも今は1日でも時間は貴重だ。


 それをお金で買えるなら。


 私は小考(しょうこう)する。


 ……仕方がない、か。


「わかっ」


「ちょっといいか?」


 見覚えのある男が私の言葉を遮ると、私達のテーブルに手をついた。


「やーれやれ。まったく見ちゃいらんねえな。そんな風に包み隠さず事情を話しちまったら、そりゃ足元見られるってもんだぜ」


 突然割り込んできた男――ロフマンは困ったように私に言った。


「ロフマン、貴様! 商談中だぞ、邪魔をするな!」


「その商談なんだが、俺も参加させてくれないか? 実は俺のキャラバンも近々フレイディールの首都へ行くんだが」


「いい加減にしろロフマン!」


 ガメーツがテーブルを叩いて立ち上がる。


「商談中に割って入るのはご法度だぞ!」


「ああ、確かにあんたのいう通りだが、ガメーツさんの商談はついさっき破談したところじゃなかったかい?」


「ぐぬ……っ」


「それに商業ギルドでは商売の競争は是としてるんだ。俺から商談を持ちかけても問題ないはずだぜ。最後に誰から商品を買うかは、客である彼女が決める事だ。そうだろう?」


「ふん、そんな事は言われんでもわかっとる。わしは商人同士の仁義の話をしておるのだ」


「俺だってあんたに劣らず古い側の商人だ。だから言いたいこともわかるぜ。けどなぁ。悪いが今回ばかりは出来ない相談だ。俺は彼女とはちょっとした縁があってな。またよろしく頼む、なんて話をして別れた相手なんだ。そんな奴が同業者にふっかけられてるところを見かけちまった以上、こいつを無視しちゃこっちの仁義が立たねえ」


「ロフマンが言ってる事は本当か?」


 ガメーツが私を睨む。


「うん。オノデミからシャンダサーラまで一緒だったからね。縁があったらまたよろしくね、っていうのも確かに言ったよ」


 ガメーツが諦めたようにドスンと椅子に腰を落とす。


 それを見てロフマンが隣のテーブルから椅子を持ってきて同じテーブルについた。


「小娘。30万で運んでやる。わしと契約しろ」


 ガメーツがロフマンに勝ち誇ったような目線を送る。


 なんと。一瞬で500万が30万になってしまった。


 なんだかとても複雑な気分だ。


 これってつまり、私ってかなり下に見られてたってことだよね。


 そりゃ交渉とかそゆのは苦手だけどもさ。うぅ。


 まぁそれはさておき、30万というのは案外悪くないお値段だと思う。


 数字だけ見ると高く感じるけれど、2ヵ月間、寝床と3食付いて、私には不要だけど一応護衛がついて、寝てても目的地に連れて行ってもらえるんだもん。


 ガメーツの自信たっぷりな様子から鑑みるに、これが相場なのかもしれない。


 ロフマンはどんな条件を出すんだろう?


 私はロフマンに視線を投げた。


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