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ペイジュへ その3

 まぁ何にしても問題がないのは良い事だね。


 冒険者ギルドに到着すると、私も受付嬢と一緒に馬車を降りることにした。


 外はすっかり星空だ。


 受付嬢の後を追って人で賑わうギルドへ入る。


 早速キングデスストーカーの素材買い取りに関する正式な契約書を作ってもらって、それにサインする。


 内容は話していた通りギルドに全て任せるというものだ。


「ありがとうございます。あと買い取り金はどうしますか?」


「ギルドの預かりサービスに入れておいてもらえるかな」


「かしこまりました」


 よし。これで私が街に留まらなくても全部ギルドで処理してもらえる。


「そうだ。これもお願い」


 私は王様のサインが入った指名依頼書を鞄から取り出すとカウンターの上に置いた。


「依頼の達成ですね。少々お待ちください」


 受付嬢は引き出しから書類を取り出すと何やら計算を始めた。


 少しして数字をメモ用紙に書き込むと私に見せる。


「こちらが報酬額になります」


「えっ、こんなに!?」


 書かれているのは王様と約束していた額の倍近い金額だ。


「王家からの依頼で現在処理中のキングデスストーカーの素材売却代の3割が加算されていますからね。かなりの大金ですし、こちらも預かりサービスを使われますか?」


「う、うん。お願い」


 騎士団との共同作戦だったし、魔物の討伐やそれによって得られる素材に関しては時間もなかったこともあって細かい事は一切決めてなかった。


 そもそもリガル捕縛の報酬が高額だったしね。


 だから貰えないものと諦めていたんだけど、王様が気をまわしてくれたのかな。


 う~ん。一気に懐が温まってしまった。


「それと。はい」


 受付嬢が金色のカードを私に差し出す。


「Aランク昇級おめでとうございます!」


「ありがとう。えへへ」


 全面金色になったAランク冒険者のギルドカードはちょっぴり眩しい。


 私はうれしさを噛み締めながら少し眺めた後、肩掛け鞄に仕舞った。


 私の後ろには順番待ちの冒険者の列が出来ていたので、受付嬢に短く別れを告げてギルドを出る。


「お腹は空いてないけど、昇級祝いに何か甘い物でも食べていこうか」


 私の提案に黒猫のタイガが舌なめずりで賛成する。


 私は踊りだしたいくらいの軽い足取りで、タイガと並んで街の中心部へ向かって歩いた。



 ――そして翌日。


 さて、今日はちょっと忙しくなるよ。


 昨夜は宿探しもあったから後回しにしたけれど、まずは冒険者ギルドに行って依頼ボードの確認からだ。


 東へ向かうキャラバンからの依頼があるといいんだけど。


 そんな期待を胸に、身支度を終えた私は早速ギルドへ向かった。


 今日の仕事を探す冒険者で賑わうギルド内を足早に通り抜け、依頼ボードの前に立つ。


 キャラバンからの依頼はすぐに見つけられた。


 ……んだけど。


「うーん。どれも出発が何週間も後だよ。やっぱりそう都合よくすぐに出発できる依頼なんてないかぁ」


「東へ向かうだけなら俺達だけでも行けるだろ」


 私の肩に乗って黒猫のタイガが言う。


「まぁ向かうだけならね」


 来る時と違って一度は経験した旅程だ。


 警戒すべき危険もわかってるし、タイガの足ならキャラバンと一緒に旅するよりもずっと早く着ける。


 それに砂漠の中心へ向かっていくのと違って東にはフレイディールを囲む広大な山脈が立ちふさがっているから、行き過ぎるという点では心配ない。


 もちろん進路を大きく外さないように、逐一方角を確認しながら進むのが大前提だけど。


 ただそうは言っても何処まで行っても知らない土地だ。


 山脈の裾野まで辿り着いた所で、そこから国境へ続く街道を探すのにどれだけの時間がかかるか予測すらできない。


 誤って無断で国境を越えてしまえば余計なトラブルにもなり兼ねない。


 迷う前提で考えるとあまり分のいい計画とも思えないんだよね。


「う~ん……」


「昇級した翌日に早速お仕事ですか?」


 笑顔で私に声をかけてきたのは、新しい依頼書を抱えた昨日の受付嬢だ。


「まあね。あっ、ねぇ。その抱えてる中に東へ向かうキャラバンからの依頼はないかな? できれば1週間以内に出発するところがあるといいんだけど」


「一週間以内ですか? キャラバンからの護衛依頼はありますが、こちらにあるのはどれも1ヵ月以上先のものですね」


「むー。そうだ。もう募集が埋まっちゃってる所を紹介してもらうことはできない? もちろん仕事じゃなくて、単に同行したいだけなんだけど」


「そうですね……。紹介はできますが、それなら商業ギルドの方に行かれるのがいいと思いますよ。あそこなら商人が集まっていますから直接交渉の機会もありますし、ひとりに断られたとしても別の商人とすぐに話が出来るでしょうから」


 確かに断られることを考えると、冒険者ギルドと商会を行ったり来たりは手間だね。


 商人への取り次ぎも含めて時間がかかるし。


「その方が早そうだね。ありがとう、早速行ってみるよ!」


 街の所要施設の場所は把握済みだ。


 最短距離で商業ギルドへ着いた私は、商人達で賑わうギルド内へと足を踏み入れた。


「えーっと。いきなり商人に掛け合う前に、まずは受付だよね」


 受付に出来た商人達の列の後ろに並んだ。


 しばらくしてようやく私の順番が回ってくる。


「今日はどうなさいましたか」


「私、フレイディールへ行くために東へ向かいたいんだ。そっち方面へ向かうキャラバンがあったら同行させてもらえないかと思ってここへ来たんだけど、紹介してもらうことはできるかな?」


「紹介だけでしたら出来ますよ。他に希望などはありますか?」


「なるべく早く出発する所がいいんだけど。できれば1週間以内とか」


「そうですね。1週間以内となると……あっ、丁度いいところに。ガメーツさーん!」


 受付嬢が今ギルドに入って来た中年の男に片手を挙げて叫んだ。


 それに気づいた男が不機嫌そうに顔をしかめると、ふくよかなお腹を揺らしながら受付に歩いて来る。


「入ったばかりでいきなり呼び寄せるとはなんだ。わしはいま忙しいんだぞ」


「申し訳ありません。こちらはムーンパレス商会のガメーツさん。そしてこちらが……」


「私はティアズ」


「ふん。こんな小娘がなんだというんだ?」


「彼女はガメーツさんのキャラバンに同行したいそうなんです。お話を聞いていただけますか?」


 ガメーツが品定めするように私を眺める。


「娘。金は持ってるのか?」


「昨日臨時収入もあったからね。懐はそこそこあったかいかな」


「……ふむ。よかろう、話を聞いてやる」


 受付嬢にお礼を言って、私はガメーツと一緒にギルド内のテーブル席へ移動する。


「で? お前はどうしてキャラバンを頼る。目的はなんだ。わしらに同行してどこへいくつもりだ?」


「目的地はフレイディールのペイジュなんだけどね。砂漠を確実に越えるなら歩き慣れているキャラバンに同行するのがいいと思ったんだ」


「ふん。お前のような小娘じゃ3日も持たずに野垂れ死ぬか、魔物に食い殺されるところだからな。正しい判断だ」


「あなたのキャラバンはどこまでいくの?」


「わしらの目的地はフレイディールの首都だ。ペイジュには途中で寄ることになるだろう」


「ほんとう!? ねぇ、出発はいつなの?」


「やけに前かがみだな小娘。もしかして急ぎか?」


「うん。なるべく早くペイジュに着きたいんだよね」


「クックック、なるほど、なるほど。お前はついてるぞ。わしらの出発は3日後だ」


「3日後!」


 ムーンパレス商会というのがちょっぴりひっかかるけれど、私がいま求めてる理想とも言えるキャラバンじゃないか!


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